「あ~、そろそろ泣き止んでくれないかなぁ・・・」
思わず情けない声が漏れる。
イルカに拒否されたのがよほどショックだったのか、カカシの腕の中で泣きっぱなしの子供は、そんな声に更に泣き声を大きくする。
お陰ですれ違う人の好奇の視線にさらされていたたまれない。
「んー・・・」
誰でもいいからとりあえず耳をふさいでくれないだろうか。
サクヤを抱えているためにふさがっている両手が不自由で困る。
「駄目ねぇ、カカシ」
フフフと真っ赤な唇が笑みの形を作り、サツキが私に任せてと手を伸ばす。
長い爪がサクヤに触れた途端、カカシが驚くほど大きく震えて一瞬呼吸が止まった。
「ん?」
泣き止むのかとホッとしたのもつかの間、ぎゃあぁぁぁと断末魔のような叫び声をあげて激しく泣き出す子供に、思わず腕から落としそうになった。
「えぇぇッ?」
ボロボロとこぼれ落ちる涙と、真っ赤になって痙攣でも起こしそうな身体。
手をのばしたサツキも、唖然としてその様子を見ていた。
小さいながらも暴れる身体は意外に力強く、しかしふにゃふにゃとしてて力を入れる配分がつかめない。
反りくり返る身体を何度も落としそうになりながら、泣き叫ぶ我が子を何とかなだめようと揺すってやる。
「ちょっと、落ち着いてよ」
焦るものの、泣き声はおさまることはない。
悪いことに視線の先にサツキが入る度にまた激しく泣き出すのだ。
こんなとき、子育てなどしたことがないカカシにはどうして良いかさっぱりわからない。
「どうしちゃったの」
オロオロと幼子を抱えたまま歩きまわる里の誉れの姿は笑える。
遠巻きに笑う同僚や、うるせーぞと文句を言う声を耳に、ほとほと困り果てて溜息をついた。
「・・・もう、ヤダ・・」
ガックリと肩を落として、涙でぐちゃぐちゃになった我が子をみやった。
「サクヤ」
頼むから泣き止んでくれ。
心の底からの叫びに、しゃくりあげている胸がヒクヒクと動く。
抱きかかえるようにして小さな頭を自分の胸に押し付け、宥めるべくポンポンと背中を叩いてやる。
「いー・・・!!」
「・・ほんと、イルカ先生が好きなんだねぇ」
小さな唇から零れる名前に、ため息混じりに苦笑した。
*****
とりあえず自宅に戻ってみたものの、落ち着かないのかウロウロと部屋中を這いまわった挙句、再び泣きだしたサクヤに溜息を付いた。
「カカシ、お茶入れたわよ」
「んー」
手伝うと言ったサツキはカカシの隣に座ると素知らぬ顔でキョロキョロと部屋を見渡している。
「広い家ね」
「ま、そうだね」
「空き部屋も沢山あるんでしょ?」
立ち上がり、日当たりの良い縁側に続く部屋を見つけ振り返った。
そこは、子供部屋に一番近い部屋だった。
使いやすい場所であるにもかかわらず、家具一つ置いていない。
「・・私、ここに住みたいな」
「は?」
「だってこんなに広い家なんだもん。しかも空いてるんでしょ? 引っ越してきてもいい?」
確かに空き部屋だ。
しかし、どうしてサツキを住まわせなくてはいけないのかと呆れながら湯のみに口をつける。
「言ったでしょ。近いうちに上忍寮に移るつもりだって」
吐き捨てるように言った言葉に、サツキが唇を尖らせた。
「どうしてよ、勿体無い!」
「勿体無いって・・・、オレにはこんな家必要ないし」
「サクちゃんをあんな殺伐とした寮に置いておくつもり?」
そう言われると返答に困る。
確かに、高ランクの任務を請け負う上忍が多い寮は、任務帰りで気が立っているヤツが多い。
しかもそんな寮であの絶叫が始まったら、カカシは毎回サクヤを抱えて寮を飛び出さなければならないだろう。
「・・・・・」
考えこむ様子に、ニンマリと笑ったサツキが、カカシにしなだれかかるようにして身体を寄せてきた。
長い爪が太ももから膝へと辿り、軽くひっかく。
「・・ね、良いでしょ?」
柔らかい乳房を押し当て、強請る声にチラリと視線をやった。
微笑む顔は美しいが、何故だかどこかモヤモヤとした気分を拭い去ることは出来なかった。
そう。なにか引っかかるのだ。
「とりあえず、お前は消えて」
「え?」
望む言葉ではない返事に、サツキは戸惑ったような声をだした。
「お前が居るとまた泣くでしょ・・・」
ため息混じりに泣いているサクヤを指さして、立ち上がる。
「ちょっと、カカシッ!」
甲高い声で詰るサツキを無視し、ジトッとした眼でこちらを見ているサクヤの側に座り込む。
「かー・・・」
「ん」
抱かれようと短い腕を伸ばすサクヤを抱き上げて、背中を軽く叩いた。
「カカシ」
憮然とするサツキが近づくだけで、ビクリと小さな身体が震える。
傍にやってきたサツキが少しでも触れると、再び火がついたように泣き叫ぶのに辟易した。
「離れて」
「・・・わかったわよ」
ため息混じりの言葉に、眼を釣り上げたサツキがサクヤを睨みつけながら踵を返す。
激しい音をたてて閉じた扉に、ぐったりと疲れて腕の中のサクヤを見つめた。
「あ~もう、泣かないでね」
「かー・・っ、さく・・・やーの・・」
何かを訴えているようだが、残念ながらカカシには理解できない。
号泣はしなくなったものの、部屋中をキョロキョロと見回してはえぐえぐと体を震わせベソをかいているサクヤを揺すってあやしてやる。
「いー、は?」
「ん~? イルカ先生?」
「あう」
「いないよ」
「う?」
「だから居ないの」
言い聞かせてもわからないのか、キョトンとしたまま小首を傾げている。
「いやい」
「そ」
頷くカカシにまたじんわりと大きな瞳に涙の膜が張る。
「仕方ないでしょ。関係ないイルカ先生に面倒かけるわけにはいかないんだから」
ちょんっと鼻先をつつけば、ポロリと涙が零れた。
いったいこれからどうやってこんな子供を育てていけばいいのだろう。
何かを食べさせようと床に降ろせば降ろしたで、カカシの後を追って泣きながらついてくる。
こうして抱いていても、悲しそうに眉尻を下げて涙を浮かべるばかりなので、結局何一つ手につかないのだ。
ただでさえ記憶もないのに、知らない間にできた子供まで育てないといけないとはお手上げだ。
カカシは天を仰いで頭を抱えた。
*****
脂の乗ったジューシーな炙り豚丼を目の前に溜息を付いた。
ホカホカと湯気も上がり、甘辛いタレの香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。
普段なら、見ているだけで涎が出てきそうなぐらいだというのに、浮かない顔で丼を持ち上げた。
箸を手に何度か口にしようと試みるも、その度に溜息が漏れる。
腹が減らないわけでもないのに、どうしてか食べようという気にならないのだ。
「食わねぇの?」
隣でイワシが訝しげに問いかける。
「食うよ」
「冷めちまうぜ」
「ん・・・」
このままでは休憩時間が終わってしまう。
人もまばらになってきた食堂で、イルカは思い切って豚丼を口の中に放り込んだ。
「・・・・」
いつもなら、旨いッ! と声が出るところだが、今日は咀嚼するのさえ億劫だ。
こんなことならのどごしの良い麺類にすればよかったなんてどうでもいいことを思う。
濃い味付けのはずの豚丼を味気なく感じながら、自棄糞のように口いっぱいに頬張った。
「隣いいかしら?」
後一口、というところで隣に立った人物に身体が自然と強張った。
「・・・サツキ、上忍・・」
派手な顔立ち。机に置いた爪の先まで手入れされた美女が丼片手のイルカに笑う。
ごくりと詰め込んだご飯を飲み込んで、イルカは大きく頷いた。
「食事が終わるまで待つけど?」
「・・いえ・・もう、終わりましたから」
本当は後一口残っている。
けれども、この美女を横に待たせてまで完食する気力もなかった。
そんな様子をチラリと横目で見ているイワシが、何も言わずに湯のみから茶を啜る。
どうやら席を外すつもりはないらしい。
「率直に言うわね。・・・カカシのことだけど」
口から出てきた名前に、やはりと思う。
報告所に一緒にやってきた時から、こんな日が来ると覚悟していた。
「本当のことを言うつもりはないのね?」
緘口令の事を言っているのだろう。
イルカは言葉もなく頷いた。
「私と付き合ってたことは?」
付き合っていたとは知らなかった。身体の関係は噂されていたが。
小さく頭を振るイルカに、サツキがフンッと鼻を鳴らす。
「後から自分が子供の親だなんて、カカシに名乗り出ないわよね?」
それは牽制。
探る様な視線の先に、揺らぐ瞳を見られたくなくてイルカはうつむいた。
言いたくても言えるわけがない。
一体どうやってあんなややこしい話を説明すればいいというのだ。
答えないイルカに、苛立ちを隠そうともしないサツキが机を爪で叩きながら尚も言い募る。
「どうなの?」
「・・はい・・・」
振り絞るように紡がれた肯定の言葉に、赤い唇が歪む。
赤い唇が左右に引き伸ばされるのを、まるで般若のようだと思いながらイルカは再度頷いた。
「そ、良かった。それだけ確認したかったの」
明らかにご機嫌な様子で微笑むサツキが、ポンっと気安くイルカの肩を叩く。
「上忍と中忍じゃ立場も違うから、会うこともあまり無いでしょうけど、これからはあまりカカシと親しくしないで」
「・・・・え・・」
「鈍いわね」
邪魔なのと、はっきり告げられた言葉に目を見開いた。
一線を引けと言われている。
カカシに真実を告げないと決めた時から覚悟していたことだ。
イルカに否やはない。
けれど・・・それを赤の他人から言われると、それはそれでいい気分はしなかった。
「じゃ、お願いね」
ニコリと微笑んで去っていくサツキの背中を見ないように、丼に視線を移したイルカは、残りの一口を食べるべく箸を持った。
「・・・良いのかよ・・?」
本当にそれで、と。
モグモグと口を動かすイルカに、残り少なくなった茶をすするイワシが呆れたような声を出す。
「いんだよ」
投げやりな答えに、ピクリと眉を動かした。
「・・・お前さぁ・・」
自分がどんな表情をしているか知っているのだろうか?
鏡でも持ってきて見せてやりたいが、身なりに頓着しないイワシは、そんな洒落たものは常備していなかった。
「ーーーなんて言えばいいんだよ」
「そりゃ・・・」
「俺がサクヤの母親ですって? 信じられるか? そんなこと」
どうみたってむさい男だ。しかもサツキの言うとおり、鈍くてしがない万年中忍だよ、チクショウ。
「・・・それに・・」
戦場でだって女に不自由していないカカシが、男とどうこうなんて考えたこともないだろう。
きっと気持ち悪いとイルカを嫌悪するはずだ。
そうなったらもう。
「耐えられねぇ」
呟いて、ことさら大口を開けてかっ食らう。
やっぱり今日は好物のラーメンを選ばなくて良かった。
砂でも食べているのかと思うぐらい味のしない豚丼は、これから暫くは食べられないと思った。
思わず情けない声が漏れる。
イルカに拒否されたのがよほどショックだったのか、カカシの腕の中で泣きっぱなしの子供は、そんな声に更に泣き声を大きくする。
お陰ですれ違う人の好奇の視線にさらされていたたまれない。
「んー・・・」
誰でもいいからとりあえず耳をふさいでくれないだろうか。
サクヤを抱えているためにふさがっている両手が不自由で困る。
「駄目ねぇ、カカシ」
フフフと真っ赤な唇が笑みの形を作り、サツキが私に任せてと手を伸ばす。
長い爪がサクヤに触れた途端、カカシが驚くほど大きく震えて一瞬呼吸が止まった。
「ん?」
泣き止むのかとホッとしたのもつかの間、ぎゃあぁぁぁと断末魔のような叫び声をあげて激しく泣き出す子供に、思わず腕から落としそうになった。
「えぇぇッ?」
ボロボロとこぼれ落ちる涙と、真っ赤になって痙攣でも起こしそうな身体。
手をのばしたサツキも、唖然としてその様子を見ていた。
小さいながらも暴れる身体は意外に力強く、しかしふにゃふにゃとしてて力を入れる配分がつかめない。
反りくり返る身体を何度も落としそうになりながら、泣き叫ぶ我が子を何とかなだめようと揺すってやる。
「ちょっと、落ち着いてよ」
焦るものの、泣き声はおさまることはない。
悪いことに視線の先にサツキが入る度にまた激しく泣き出すのだ。
こんなとき、子育てなどしたことがないカカシにはどうして良いかさっぱりわからない。
「どうしちゃったの」
オロオロと幼子を抱えたまま歩きまわる里の誉れの姿は笑える。
遠巻きに笑う同僚や、うるせーぞと文句を言う声を耳に、ほとほと困り果てて溜息をついた。
「・・・もう、ヤダ・・」
ガックリと肩を落として、涙でぐちゃぐちゃになった我が子をみやった。
「サクヤ」
頼むから泣き止んでくれ。
心の底からの叫びに、しゃくりあげている胸がヒクヒクと動く。
抱きかかえるようにして小さな頭を自分の胸に押し付け、宥めるべくポンポンと背中を叩いてやる。
「いー・・・!!」
「・・ほんと、イルカ先生が好きなんだねぇ」
小さな唇から零れる名前に、ため息混じりに苦笑した。
*****
とりあえず自宅に戻ってみたものの、落ち着かないのかウロウロと部屋中を這いまわった挙句、再び泣きだしたサクヤに溜息を付いた。
「カカシ、お茶入れたわよ」
「んー」
手伝うと言ったサツキはカカシの隣に座ると素知らぬ顔でキョロキョロと部屋を見渡している。
「広い家ね」
「ま、そうだね」
「空き部屋も沢山あるんでしょ?」
立ち上がり、日当たりの良い縁側に続く部屋を見つけ振り返った。
そこは、子供部屋に一番近い部屋だった。
使いやすい場所であるにもかかわらず、家具一つ置いていない。
「・・私、ここに住みたいな」
「は?」
「だってこんなに広い家なんだもん。しかも空いてるんでしょ? 引っ越してきてもいい?」
確かに空き部屋だ。
しかし、どうしてサツキを住まわせなくてはいけないのかと呆れながら湯のみに口をつける。
「言ったでしょ。近いうちに上忍寮に移るつもりだって」
吐き捨てるように言った言葉に、サツキが唇を尖らせた。
「どうしてよ、勿体無い!」
「勿体無いって・・・、オレにはこんな家必要ないし」
「サクちゃんをあんな殺伐とした寮に置いておくつもり?」
そう言われると返答に困る。
確かに、高ランクの任務を請け負う上忍が多い寮は、任務帰りで気が立っているヤツが多い。
しかもそんな寮であの絶叫が始まったら、カカシは毎回サクヤを抱えて寮を飛び出さなければならないだろう。
「・・・・・」
考えこむ様子に、ニンマリと笑ったサツキが、カカシにしなだれかかるようにして身体を寄せてきた。
長い爪が太ももから膝へと辿り、軽くひっかく。
「・・ね、良いでしょ?」
柔らかい乳房を押し当て、強請る声にチラリと視線をやった。
微笑む顔は美しいが、何故だかどこかモヤモヤとした気分を拭い去ることは出来なかった。
そう。なにか引っかかるのだ。
「とりあえず、お前は消えて」
「え?」
望む言葉ではない返事に、サツキは戸惑ったような声をだした。
「お前が居るとまた泣くでしょ・・・」
ため息混じりに泣いているサクヤを指さして、立ち上がる。
「ちょっと、カカシッ!」
甲高い声で詰るサツキを無視し、ジトッとした眼でこちらを見ているサクヤの側に座り込む。
「かー・・・」
「ん」
抱かれようと短い腕を伸ばすサクヤを抱き上げて、背中を軽く叩いた。
「カカシ」
憮然とするサツキが近づくだけで、ビクリと小さな身体が震える。
傍にやってきたサツキが少しでも触れると、再び火がついたように泣き叫ぶのに辟易した。
「離れて」
「・・・わかったわよ」
ため息混じりの言葉に、眼を釣り上げたサツキがサクヤを睨みつけながら踵を返す。
激しい音をたてて閉じた扉に、ぐったりと疲れて腕の中のサクヤを見つめた。
「あ~もう、泣かないでね」
「かー・・っ、さく・・・やーの・・」
何かを訴えているようだが、残念ながらカカシには理解できない。
号泣はしなくなったものの、部屋中をキョロキョロと見回してはえぐえぐと体を震わせベソをかいているサクヤを揺すってあやしてやる。
「いー、は?」
「ん~? イルカ先生?」
「あう」
「いないよ」
「う?」
「だから居ないの」
言い聞かせてもわからないのか、キョトンとしたまま小首を傾げている。
「いやい」
「そ」
頷くカカシにまたじんわりと大きな瞳に涙の膜が張る。
「仕方ないでしょ。関係ないイルカ先生に面倒かけるわけにはいかないんだから」
ちょんっと鼻先をつつけば、ポロリと涙が零れた。
いったいこれからどうやってこんな子供を育てていけばいいのだろう。
何かを食べさせようと床に降ろせば降ろしたで、カカシの後を追って泣きながらついてくる。
こうして抱いていても、悲しそうに眉尻を下げて涙を浮かべるばかりなので、結局何一つ手につかないのだ。
ただでさえ記憶もないのに、知らない間にできた子供まで育てないといけないとはお手上げだ。
カカシは天を仰いで頭を抱えた。
*****
脂の乗ったジューシーな炙り豚丼を目の前に溜息を付いた。
ホカホカと湯気も上がり、甘辛いタレの香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。
普段なら、見ているだけで涎が出てきそうなぐらいだというのに、浮かない顔で丼を持ち上げた。
箸を手に何度か口にしようと試みるも、その度に溜息が漏れる。
腹が減らないわけでもないのに、どうしてか食べようという気にならないのだ。
「食わねぇの?」
隣でイワシが訝しげに問いかける。
「食うよ」
「冷めちまうぜ」
「ん・・・」
このままでは休憩時間が終わってしまう。
人もまばらになってきた食堂で、イルカは思い切って豚丼を口の中に放り込んだ。
「・・・・」
いつもなら、旨いッ! と声が出るところだが、今日は咀嚼するのさえ億劫だ。
こんなことならのどごしの良い麺類にすればよかったなんてどうでもいいことを思う。
濃い味付けのはずの豚丼を味気なく感じながら、自棄糞のように口いっぱいに頬張った。
「隣いいかしら?」
後一口、というところで隣に立った人物に身体が自然と強張った。
「・・・サツキ、上忍・・」
派手な顔立ち。机に置いた爪の先まで手入れされた美女が丼片手のイルカに笑う。
ごくりと詰め込んだご飯を飲み込んで、イルカは大きく頷いた。
「食事が終わるまで待つけど?」
「・・いえ・・もう、終わりましたから」
本当は後一口残っている。
けれども、この美女を横に待たせてまで完食する気力もなかった。
そんな様子をチラリと横目で見ているイワシが、何も言わずに湯のみから茶を啜る。
どうやら席を外すつもりはないらしい。
「率直に言うわね。・・・カカシのことだけど」
口から出てきた名前に、やはりと思う。
報告所に一緒にやってきた時から、こんな日が来ると覚悟していた。
「本当のことを言うつもりはないのね?」
緘口令の事を言っているのだろう。
イルカは言葉もなく頷いた。
「私と付き合ってたことは?」
付き合っていたとは知らなかった。身体の関係は噂されていたが。
小さく頭を振るイルカに、サツキがフンッと鼻を鳴らす。
「後から自分が子供の親だなんて、カカシに名乗り出ないわよね?」
それは牽制。
探る様な視線の先に、揺らぐ瞳を見られたくなくてイルカはうつむいた。
言いたくても言えるわけがない。
一体どうやってあんなややこしい話を説明すればいいというのだ。
答えないイルカに、苛立ちを隠そうともしないサツキが机を爪で叩きながら尚も言い募る。
「どうなの?」
「・・はい・・・」
振り絞るように紡がれた肯定の言葉に、赤い唇が歪む。
赤い唇が左右に引き伸ばされるのを、まるで般若のようだと思いながらイルカは再度頷いた。
「そ、良かった。それだけ確認したかったの」
明らかにご機嫌な様子で微笑むサツキが、ポンっと気安くイルカの肩を叩く。
「上忍と中忍じゃ立場も違うから、会うこともあまり無いでしょうけど、これからはあまりカカシと親しくしないで」
「・・・・え・・」
「鈍いわね」
邪魔なのと、はっきり告げられた言葉に目を見開いた。
一線を引けと言われている。
カカシに真実を告げないと決めた時から覚悟していたことだ。
イルカに否やはない。
けれど・・・それを赤の他人から言われると、それはそれでいい気分はしなかった。
「じゃ、お願いね」
ニコリと微笑んで去っていくサツキの背中を見ないように、丼に視線を移したイルカは、残りの一口を食べるべく箸を持った。
「・・・良いのかよ・・?」
本当にそれで、と。
モグモグと口を動かすイルカに、残り少なくなった茶をすするイワシが呆れたような声を出す。
「いんだよ」
投げやりな答えに、ピクリと眉を動かした。
「・・・お前さぁ・・」
自分がどんな表情をしているか知っているのだろうか?
鏡でも持ってきて見せてやりたいが、身なりに頓着しないイワシは、そんな洒落たものは常備していなかった。
「ーーーなんて言えばいいんだよ」
「そりゃ・・・」
「俺がサクヤの母親ですって? 信じられるか? そんなこと」
どうみたってむさい男だ。しかもサツキの言うとおり、鈍くてしがない万年中忍だよ、チクショウ。
「・・・それに・・」
戦場でだって女に不自由していないカカシが、男とどうこうなんて考えたこともないだろう。
きっと気持ち悪いとイルカを嫌悪するはずだ。
そうなったらもう。
「耐えられねぇ」
呟いて、ことさら大口を開けてかっ食らう。
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