『こーら、暴れないでよパックン。気持ちいいでしょ? ほらじっとして』
扉一枚隔てた場所から聞こえるなんとも呑気な声と水音にため息を付いて、残された薄汚い布団に手をかけた。想像以上に汚れているシーツはゴミ袋にまとめ、掛布団は脱ぎ散らかした男の忍服とまとめて洗濯機へと放り込むんだ。
「足の指の間まで洗ってきてくださいよ」
『はーい』
「シャワーだけじゃなくて、ちゃんとお湯につかって温まるのも忘れずに」
『………』
「返事~!」
『はいはい』
「はいは一回です!」
ザブンという音を確認し、薄くて硬い敷布団をベランダの手摺へと引っ掛ける。ついでに超特急で部屋に掃除機をかければ、もともと物が少ない室内はそれだけで随分と小奇麗な部屋へと蘇った。
「これでよし! あとは……」
自らの素晴らしい仕事っぷりに満足し、棚から取り出した鍋をガスコンロの上にかける。ふつふつと湯が湧いてきたところで持参した袋麺を取り出した。
「なに作ってるんですか?」
「わっ!!」
気配を感じさせないところはさすが上忍と言うべきか。驚いて落っことした袋麺をすんでのところでキャッチして振り向いた。
「気配を消して背後に立たないでくださいよ」
誤って殺っちまったらどうするんですか、なんて脅しは凄腕の上忍には通用しないのだろう。
こてんとイルカの肩に顎を乗せた男が背後から袋麺に手を伸ばしてきた。
「……ピリ辛味噌豚骨麻婆ラーメン、刻みタマネギ入り…?」
「新作ですよ」
「先生好きですもんねぇ、木の葉ラーメン」
「俺は暁より木の葉推しですから」
「ふふっ」
「っと、それより少し離れてくださいよ」
ふわりとしたシャンプーの匂い。男が話すたび耳にかかる呼吸がくすぐったくて、何度も肩をすくめるのにも動じてくれない。そればかりか伸びた髭でザラリと頬を撫ぜられた。思わず変な声が出て、身体が垂直に跳ね上がる。
「ぎゃっ!」
「あぶないなぁ。舌噛んだらどうするんですか」
「アンタが変なことするからでしょう」
「ん~? 変なことってコレ?」
ぞりりと再び髭を擦り付けられて鳥肌が立った。加えて逃げられないように背後から抱きすくめるおまけ付きだ。
「ふんぎゃあぁぁぁっ! や、やめっ!! ひっ!!」
「んふふ~」
「この…っ! ふっざけんなよっ」
ぐわしっと顔を掌で押し返そうにも凄い力で押し返される。ついでとばかりに耳に息を吹きかけられて、イルカは声にならない悲鳴を上げた。反射的にビクビクと身体が反応してしまう。
「あははっ! かぁわいいねぇ、イルカ先生」
大の男を捕まえて、何が可愛いもんか。
「いーかげんに、しろっ!!」
「わぁ、危ない」
耳元でフンフンと楽しんでいる男の足を踏んづけてやろうと構えたところで、瞬時に身を引かれて空振りに終わる。悔しいけれど、この男の危機管理能力の高さが本気で憎たらしい。
「アンタなっ!」
「だって先生が新鮮な反応するから」
「新鮮な反応ってなんだよっ! ってかアンタ裸じゃねぇかよ」
「失礼な。大事なところは隠してます」
ふんぞり返った男にため息しかでない。
大層立派な身体かも知れないが、腰にタオル姿でいばるなってんだ。
「風邪ひきますよ」
「まだ熱いくらいです」
「ったくしょうがねぇなぁ」
肩にかかっているタオルを奪い、ポタポタと雫を落とす髪を拭ってやる。本当に熱いのだろう。風呂上がりで真っ白な肌がほんのり赤く染まっている。大人しくされるがままになっている男が、唇に嬉しそうな笑みを刷く姿にドキリとした。
下手をするとうっとり見とれてしまいそうな自分が怖いがこの男、同性でありながらイルカが今まで見た中でも一、二をあらそう美丈夫なのだ。ここからは想像なのだが、引く手あまたな見た目のせいか、面倒もみられ慣れているのだろう。自然なスキンシップに加えて女と間違われた挙げ句に危うく布団の中に引き摺り込まれそうになったこともはや数回……。
なんとか事なきを得たものの、本気の美形の力を思い知らされた。
「………」
ふいになんとも恥ずかしいような妙な気持ちになったイルカが視線をそらしたその先に―――。
「あ」
「ん~?」
「犬が」
「犬がどうしました?」
「濡れたままそこに――」
慌てるイルカの目の前で、濡れ鼠の小型犬がとことことリビングに歩いてくるのが見えた。
男を拭っていたタオルを掴んだまま走り出すイルカを見やり、立ち止まったかと思うとぶわりと毛並みをふくらませる。
「ま、待て、そのまま……わあぁぁ!!」
短毛で良かった。
とは、風呂上がりの犬を放置した男を盛大に叱った後のイルカの言葉で、沸騰する鍋を尻目に2人はそこかしこに飛び散った水滴を拭う仕事に追われたのだった。
扉一枚隔てた場所から聞こえるなんとも呑気な声と水音にため息を付いて、残された薄汚い布団に手をかけた。想像以上に汚れているシーツはゴミ袋にまとめ、掛布団は脱ぎ散らかした男の忍服とまとめて洗濯機へと放り込むんだ。
「足の指の間まで洗ってきてくださいよ」
『はーい』
「シャワーだけじゃなくて、ちゃんとお湯につかって温まるのも忘れずに」
『………』
「返事~!」
『はいはい』
「はいは一回です!」
ザブンという音を確認し、薄くて硬い敷布団をベランダの手摺へと引っ掛ける。ついでに超特急で部屋に掃除機をかければ、もともと物が少ない室内はそれだけで随分と小奇麗な部屋へと蘇った。
「これでよし! あとは……」
自らの素晴らしい仕事っぷりに満足し、棚から取り出した鍋をガスコンロの上にかける。ふつふつと湯が湧いてきたところで持参した袋麺を取り出した。
「なに作ってるんですか?」
「わっ!!」
気配を感じさせないところはさすが上忍と言うべきか。驚いて落っことした袋麺をすんでのところでキャッチして振り向いた。
「気配を消して背後に立たないでくださいよ」
誤って殺っちまったらどうするんですか、なんて脅しは凄腕の上忍には通用しないのだろう。
こてんとイルカの肩に顎を乗せた男が背後から袋麺に手を伸ばしてきた。
「……ピリ辛味噌豚骨麻婆ラーメン、刻みタマネギ入り…?」
「新作ですよ」
「先生好きですもんねぇ、木の葉ラーメン」
「俺は暁より木の葉推しですから」
「ふふっ」
「っと、それより少し離れてくださいよ」
ふわりとしたシャンプーの匂い。男が話すたび耳にかかる呼吸がくすぐったくて、何度も肩をすくめるのにも動じてくれない。そればかりか伸びた髭でザラリと頬を撫ぜられた。思わず変な声が出て、身体が垂直に跳ね上がる。
「ぎゃっ!」
「あぶないなぁ。舌噛んだらどうするんですか」
「アンタが変なことするからでしょう」
「ん~? 変なことってコレ?」
ぞりりと再び髭を擦り付けられて鳥肌が立った。加えて逃げられないように背後から抱きすくめるおまけ付きだ。
「ふんぎゃあぁぁぁっ! や、やめっ!! ひっ!!」
「んふふ~」
「この…っ! ふっざけんなよっ」
ぐわしっと顔を掌で押し返そうにも凄い力で押し返される。ついでとばかりに耳に息を吹きかけられて、イルカは声にならない悲鳴を上げた。反射的にビクビクと身体が反応してしまう。
「あははっ! かぁわいいねぇ、イルカ先生」
大の男を捕まえて、何が可愛いもんか。
「いーかげんに、しろっ!!」
「わぁ、危ない」
耳元でフンフンと楽しんでいる男の足を踏んづけてやろうと構えたところで、瞬時に身を引かれて空振りに終わる。悔しいけれど、この男の危機管理能力の高さが本気で憎たらしい。
「アンタなっ!」
「だって先生が新鮮な反応するから」
「新鮮な反応ってなんだよっ! ってかアンタ裸じゃねぇかよ」
「失礼な。大事なところは隠してます」
ふんぞり返った男にため息しかでない。
大層立派な身体かも知れないが、腰にタオル姿でいばるなってんだ。
「風邪ひきますよ」
「まだ熱いくらいです」
「ったくしょうがねぇなぁ」
肩にかかっているタオルを奪い、ポタポタと雫を落とす髪を拭ってやる。本当に熱いのだろう。風呂上がりで真っ白な肌がほんのり赤く染まっている。大人しくされるがままになっている男が、唇に嬉しそうな笑みを刷く姿にドキリとした。
下手をするとうっとり見とれてしまいそうな自分が怖いがこの男、同性でありながらイルカが今まで見た中でも一、二をあらそう美丈夫なのだ。ここからは想像なのだが、引く手あまたな見た目のせいか、面倒もみられ慣れているのだろう。自然なスキンシップに加えて女と間違われた挙げ句に危うく布団の中に引き摺り込まれそうになったこともはや数回……。
なんとか事なきを得たものの、本気の美形の力を思い知らされた。
「………」
ふいになんとも恥ずかしいような妙な気持ちになったイルカが視線をそらしたその先に―――。
「あ」
「ん~?」
「犬が」
「犬がどうしました?」
「濡れたままそこに――」
慌てるイルカの目の前で、濡れ鼠の小型犬がとことことリビングに歩いてくるのが見えた。
男を拭っていたタオルを掴んだまま走り出すイルカを見やり、立ち止まったかと思うとぶわりと毛並みをふくらませる。
「ま、待て、そのまま……わあぁぁ!!」
短毛で良かった。
とは、風呂上がりの犬を放置した男を盛大に叱った後のイルカの言葉で、沸騰する鍋を尻目に2人はそこかしこに飛び散った水滴を拭う仕事に追われたのだった。
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1頁目
【恋は銀色の翼にのりて】
恋は銀色の翼にのりて
恋の妙薬
とある晴れた日に
【Home Sweet Home】
Home Sweet Home
もう一度あなたと恋を
夜に引き裂かれても
恋は銀色の翼にのりて
恋の妙薬
とある晴れた日に
【Home Sweet Home】
Home Sweet Home
もう一度あなたと恋を
夜に引き裂かれても
2頁目
【幼馴染】
幼馴染
戦場に舞う花
【白銀の月よ】
白銀の月よ
愛しい緑の木陰よ
それゆけ!湯けむり木の葉会
あなたの愛になりたい
幼馴染
戦場に舞う花
【白銀の月よ】
白銀の月よ
愛しい緑の木陰よ
それゆけ!湯けむり木の葉会
あなたの愛になりたい
3頁目
【その他】
Beloved One(オメガバース)
ひとりにしないで(オメガバース)
緋色の守護者(ファンタジー)
闇を駆け抜ける力(人外)
特別な愛の歌(ヤマイル風カカイル)
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緋色の守護者(ファンタジー)
闇を駆け抜ける力(人外)
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