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「いただきます」
「なんで俺より先に食おうとしているんだよっ!」
「え、だって麺が伸びちゃうじゃない」

伸びたラーメンほど不味いものはない。麺はスープを吸って膨れ上がるし、なんと言ってもその触感が最悪だ。
歯ごたえのない麺なんて麺じゃねぇ。
常々そう言ってはばからないイルカは、出来上がりを即食らうのを信条としていた。
だから男が出来上がったラーメンに箸をつけるのを咎めるわけじゃないが。

「だからなんで俺が犬にまで餌をやらなきゃなんねぇんだよ…」

アンタの犬だろ。
アンタが面倒みてやれよっ!
などと声を荒げつつも、大人しく待機している小型犬の前へ餌を盛った皿を差し出した。

「あ、パックン今回はかーなり頑張ったから、ご褒美に金印の缶詰も追加しておいてやって」
「はぁ?」

なーにが追加しておいてやって、だよ。
心の底から湧き出てくる怒りを抑え込み、戸棚に手を伸ばした。フリフリと尻尾を振って歓迎する小型犬の前で、缶を開ける小気味いい音が鳴る。さすが金印、チキンのいい匂いがイルカの鼻まで刺激した。

「待てよ〜、待て。………よしっ!」

イルカの号令とともに、小型犬が餌に食らいつく。
とぼけた名前を付けられているけれど、なんて賢い犬だろう。
それに引き換え飼い主は………。
呆れた視線で食卓に目をやれば、男がずるるっと音を立てて麺を吸い込むところだった。

「おや、なかなかイケるじゃない」
「そりゃ良うございました」
「先生もグズグズしてると食べる前に伸びちゃうよ」
「アンタのせいだろうが、アンタのっ!」

イルカはいそいそと椅子に座ると、箸をひっつかんでラーメン鉢の中の麺を掬い上げた。

「 うわっ、本当に伸びてるじゃねぇか。俺のピリ辛味噌豚骨麻婆ラーメン~!!」
「そう?」
「そうですよっ! 食感が違うでしょう。食感が!」
「意外と細かいですよねぇ」
「アンタが大雑把すぎるんですよ」

だから部屋の中もとっちらかっているんだよ。と言ってやりたいものだが、この男に世話をしてくれと頼まれているわけでもなく、イルカが勝手にやっていることなので強くは言い返せない。イルカはニコニコとラーメンを啜っている男の姿を横目に盛大なため息を付いた。

「で? しばらくは休暇なんですか?」
「ん〜どうでしょう。休ませてくれるとありがたいんだけど、そうもいかないでしょうねぇ」

不思議なことだがこの男、受付で見かけたことがない。
たまたま会っていないのか、はたまたイルカが非番の日にやって来ているのか、それとも……。
やっぱり暗部なのかなぁ。
ふと脳裏に浮かんだ言葉に出会ったときのことを思い出す。
ボロボロに破れていたけれど、正規服を着ていた。
イルカがいつも手配しているのも正規の支給服だから、暗部ではないと思う。多分だけど。
いまいち確信がもてないのは、こんなド派手な見た目でありながら噂にものぼらないからだろう。
だとしたら、考えられるのは一つだ。
火影直轄の極秘任務。それも受付では回すことができないくらい危険なSランク以上の。

「ま、適当に休んでまた働きますよ」

男はのほほんとした口調でそう言ってラーメン鉢を持ち上げると、あっという間に最後のスープまで飲み干した。

「ごちそうさまでした。旨かったです」
「20両です」
「お金取るの?」
「トーゼン」

ラーメンを啜りつつ手を出したイルカは、その後「身体で払っていい?」と続いた男の言葉に盛大に吹き出したのだった。
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1頁目

【恋は銀色の翼にのりて】
恋は銀色の翼にのりて
恋の妙薬
とある晴れた日に

【Home Sweet Home】
Home Sweet Home
もう一度あなたと恋を
夜に引き裂かれても

2頁目

【幼馴染】
幼馴染
戦場に舞う花

【白銀の月よ】
白銀の月よ
愛しい緑の木陰よ
それゆけ!湯けむり木の葉会

あなたの愛になりたい

3頁目

【その他】
Beloved One(オメガバース)
ひとりにしないで(オメガバース)
緋色の守護者(ファンタジー)
闇を駆け抜ける力(人外)
特別な愛の歌(ヤマイル風カカイル)
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