「書類お預かりします」
「はい、よろしく」
軽い挨拶とともに報告書を手渡して、そう言えばこの人とこんなふうに挨拶を交わすのは久しぶりだと思った。
アカデミー教師であるイルカが、数ヶ月に一度別の里へ赴任していると聞いたのは最近のこと。戦忍として里外へ出るカカシとは入れ違いになることも多かったが、受付でこの人の顔を見るとなんだか疲れも吹き飛ぶ気がするから不思議だ。
ナルトの担任だったイルカとは意見の食い違いでギクシャクしたこともあったが、子供達の上忍師になった頃から親しくしてくれた数少ない友人の一人だ。
他の上忍師にも顔が広く、彼らを交えての飲み会や、勿論二人で幾度も酒を酌み交わしたこともある。
普段は熱血漢で情に厚い男だが、ときおり見せる脆い一面に、つい手を差し伸べたくなる。
そう。
カカシにとって、うみのイルカという男はどういうわけか何かと気になる相手なのである。
同性なのに不思議なもんだねぇ。
イルカを慕うナルトに幼い頃の自分を重ねて、今は亡き恩師を偲んでいるとでもいうのだろうか。考えようとして、じっと自分を見つめているイルカの視線に目を瞬かせた。
「なに?」
「…随分とお疲れのようですね」
眉間にしわを寄せながらぺらりとめくる書類には、隊長として赴任した任務報告書の他に、「ついでにこれも行ってきな」と軽い口調で押し付けられた単独任務のものも一緒にまとめてある。
ちなみに任務の内容は、とてもじゃないが何かのついでにこなせるような可愛いものではなかった。
「ま、それなりに」
「また五代目ですか?」
任務続きのチャクラ切れで病院送りになったのはつい先月のこと。
緊急支援要請の式を受け取り、医療忍を派遣してくれたのは目の前にいるこの男で、あろうことか五代目に苦言まで呈したと知ったときには少々驚いたものだ。
「先生のお灸が効いたのか、最近はそこまでこき使われることもなくなりましたよ」
「本当ですか?」
「えぇ。有能な事務方にそっぽを向かれるのがよほど怖いとみえます」
「あはは、ご冗談を」
中忍の中でも火影に忌憚なく意見を言えるのはこの人ぐらいだというのに、照れ隠しだろうか。鼻の頭を掻きながらにかりと笑う姿にこちらの相好まで崩れてしまいそうである。
ダメだーね。
この人に会うと、つい自分の調子を崩しそうになる。
「おやこれは」
「んん?」
「単独任務のほうが大変じゃないですか」
連携体制のとれた大隊の指揮官業はともかく、単独任務は全てを一人で担わなければならない。他に気を使わなくて良い分気が楽なのだが、装備の申請から敵地での情報収集、当然のことながら戦闘までを全て一人で遂行しなくてはならないのだ。
はっきり言って骨が折れる。
しかも昨今の人手不足のため、補佐役一人付けてもらえないとは本当にひどい話である。
そういったわけで、帰還後すぐに報告所へ訪れたカカシの髪は砂塵で鈍色にくすみ、支給服はところどころ泥まみれになっている。
はっきり言って小汚いを通り越して汚い。
戦忍としてトップクラスと謳われる男の身なりとは思えぬ出で立ちは、カカシが過酷な任務から漸くのことで生還したことを物語っていた。
「確認する間に待機所でシャワーでも浴びて帰られますか?」
「そうだねぇ」
気のない返事に、イルカが少しばかり小首を傾げた。
すぐに次の代案を提示するつもりなのだろう。鈍感なようで敏いところは、カカシが好ましく思っているイルカの佳所の一つだ。
「そういや銭湯がちょうど空いている時間帯かと思いますよ」
予定表を見ながらのセリフ。
チラリと手元を盗み見れば、早朝にかけて中隊が何組か帰還するようだ。
「銭湯ねぇ」
「俺もよく利用するんですけど、広い風呂ってのはやっぱり開放感が違いますから」
力説する姿に、「イルカ先生は湯治が趣味だってばよ」とナルトが言っていたかと思い出す。
まさか里の銭湯にまで足繁く通っているとは知らなかったけれど。
「へぇ」
「差し障りもあるでしょうが、閑散とした今ならカカシさんもゆっくり出来るのでは?」
差し障りとは、顔の殆どを覆い隠した口布のことか。
妙な気遣いに笑いながら、そうだねぇと考えるふりをする。
家に帰ってしまえば風呂よりも先にベッドに直行するのは目に見えている。それぐらいにはカカシは疲れ果てていた。
はっきりいって面倒臭い。
だけど、何の思惑もなくニコニコと勧めてくる姿を見ると、どうにも断りづらくなって来るから困ったものだ。
「ま、たまには銭湯も良いかもね」
「やった! では、そんなカカシさんに、割引券をプレゼントしちゃいましょう」
「なにそれ」
ハハッ。思わず漏れた笑いに、イルカがポケットからくしゃくしゃになった紙切れを差し出した。
「実はこれ今日までなんですけど、一枚余っていまして。貰っていただけるとコイツも喜びます」
「もう一枚は?」
「俺もこの仕事が終わったら、ひとっ風呂浴びようと思いまして」
「この仕事って、コレ?」
トントン。渡した報告書を叩けば、そうですよと笑われた。
「では一緒に行きますか」
「え? カカシさんをお待たせするわけには…」
「構いませんよ。別に予定もありませんし」
「でも、俺…」
人に薦めておきながら、どうやら乗り気ではないようだ。
湯治を趣味としているのだから、裸の付き合いに抵抗があるわけでは無いと思うのだが。
「いいでしょ? くたびれ果てた背中でも流してやって下さい」
冗談のつもりで言ったのに、ふいに真顔になったイルカが神妙な顔で頷く。
それはなんというか、言うなれば覚悟を決めたとも取れるような真剣な表情で。どうしてイルカがそんな顔をしたのかをカカシは後で知るのだけれど。
「超特急で仕上げます」
「…ゆっくりどーぞ」
待機所のソファに腰掛けると、にわかに焦りだしたイルカへ向けてポーチの中からイチャイチャパラダイスを取り出して見せる。
開いたページに視線を落としてみるものの、暗記するほど読み込んだはずの愛読書は今日に限って頭に入ってこなかった。
「はい、よろしく」
軽い挨拶とともに報告書を手渡して、そう言えばこの人とこんなふうに挨拶を交わすのは久しぶりだと思った。
アカデミー教師であるイルカが、数ヶ月に一度別の里へ赴任していると聞いたのは最近のこと。戦忍として里外へ出るカカシとは入れ違いになることも多かったが、受付でこの人の顔を見るとなんだか疲れも吹き飛ぶ気がするから不思議だ。
ナルトの担任だったイルカとは意見の食い違いでギクシャクしたこともあったが、子供達の上忍師になった頃から親しくしてくれた数少ない友人の一人だ。
他の上忍師にも顔が広く、彼らを交えての飲み会や、勿論二人で幾度も酒を酌み交わしたこともある。
普段は熱血漢で情に厚い男だが、ときおり見せる脆い一面に、つい手を差し伸べたくなる。
そう。
カカシにとって、うみのイルカという男はどういうわけか何かと気になる相手なのである。
同性なのに不思議なもんだねぇ。
イルカを慕うナルトに幼い頃の自分を重ねて、今は亡き恩師を偲んでいるとでもいうのだろうか。考えようとして、じっと自分を見つめているイルカの視線に目を瞬かせた。
「なに?」
「…随分とお疲れのようですね」
眉間にしわを寄せながらぺらりとめくる書類には、隊長として赴任した任務報告書の他に、「ついでにこれも行ってきな」と軽い口調で押し付けられた単独任務のものも一緒にまとめてある。
ちなみに任務の内容は、とてもじゃないが何かのついでにこなせるような可愛いものではなかった。
「ま、それなりに」
「また五代目ですか?」
任務続きのチャクラ切れで病院送りになったのはつい先月のこと。
緊急支援要請の式を受け取り、医療忍を派遣してくれたのは目の前にいるこの男で、あろうことか五代目に苦言まで呈したと知ったときには少々驚いたものだ。
「先生のお灸が効いたのか、最近はそこまでこき使われることもなくなりましたよ」
「本当ですか?」
「えぇ。有能な事務方にそっぽを向かれるのがよほど怖いとみえます」
「あはは、ご冗談を」
中忍の中でも火影に忌憚なく意見を言えるのはこの人ぐらいだというのに、照れ隠しだろうか。鼻の頭を掻きながらにかりと笑う姿にこちらの相好まで崩れてしまいそうである。
ダメだーね。
この人に会うと、つい自分の調子を崩しそうになる。
「おやこれは」
「んん?」
「単独任務のほうが大変じゃないですか」
連携体制のとれた大隊の指揮官業はともかく、単独任務は全てを一人で担わなければならない。他に気を使わなくて良い分気が楽なのだが、装備の申請から敵地での情報収集、当然のことながら戦闘までを全て一人で遂行しなくてはならないのだ。
はっきり言って骨が折れる。
しかも昨今の人手不足のため、補佐役一人付けてもらえないとは本当にひどい話である。
そういったわけで、帰還後すぐに報告所へ訪れたカカシの髪は砂塵で鈍色にくすみ、支給服はところどころ泥まみれになっている。
はっきり言って小汚いを通り越して汚い。
戦忍としてトップクラスと謳われる男の身なりとは思えぬ出で立ちは、カカシが過酷な任務から漸くのことで生還したことを物語っていた。
「確認する間に待機所でシャワーでも浴びて帰られますか?」
「そうだねぇ」
気のない返事に、イルカが少しばかり小首を傾げた。
すぐに次の代案を提示するつもりなのだろう。鈍感なようで敏いところは、カカシが好ましく思っているイルカの佳所の一つだ。
「そういや銭湯がちょうど空いている時間帯かと思いますよ」
予定表を見ながらのセリフ。
チラリと手元を盗み見れば、早朝にかけて中隊が何組か帰還するようだ。
「銭湯ねぇ」
「俺もよく利用するんですけど、広い風呂ってのはやっぱり開放感が違いますから」
力説する姿に、「イルカ先生は湯治が趣味だってばよ」とナルトが言っていたかと思い出す。
まさか里の銭湯にまで足繁く通っているとは知らなかったけれど。
「へぇ」
「差し障りもあるでしょうが、閑散とした今ならカカシさんもゆっくり出来るのでは?」
差し障りとは、顔の殆どを覆い隠した口布のことか。
妙な気遣いに笑いながら、そうだねぇと考えるふりをする。
家に帰ってしまえば風呂よりも先にベッドに直行するのは目に見えている。それぐらいにはカカシは疲れ果てていた。
はっきりいって面倒臭い。
だけど、何の思惑もなくニコニコと勧めてくる姿を見ると、どうにも断りづらくなって来るから困ったものだ。
「ま、たまには銭湯も良いかもね」
「やった! では、そんなカカシさんに、割引券をプレゼントしちゃいましょう」
「なにそれ」
ハハッ。思わず漏れた笑いに、イルカがポケットからくしゃくしゃになった紙切れを差し出した。
「実はこれ今日までなんですけど、一枚余っていまして。貰っていただけるとコイツも喜びます」
「もう一枚は?」
「俺もこの仕事が終わったら、ひとっ風呂浴びようと思いまして」
「この仕事って、コレ?」
トントン。渡した報告書を叩けば、そうですよと笑われた。
「では一緒に行きますか」
「え? カカシさんをお待たせするわけには…」
「構いませんよ。別に予定もありませんし」
「でも、俺…」
人に薦めておきながら、どうやら乗り気ではないようだ。
湯治を趣味としているのだから、裸の付き合いに抵抗があるわけでは無いと思うのだが。
「いいでしょ? くたびれ果てた背中でも流してやって下さい」
冗談のつもりで言ったのに、ふいに真顔になったイルカが神妙な顔で頷く。
それはなんというか、言うなれば覚悟を決めたとも取れるような真剣な表情で。どうしてイルカがそんな顔をしたのかをカカシは後で知るのだけれど。
「超特急で仕上げます」
「…ゆっくりどーぞ」
待機所のソファに腰掛けると、にわかに焦りだしたイルカへ向けてポーチの中からイチャイチャパラダイスを取り出して見せる。
開いたページに視線を落としてみるものの、暗記するほど読み込んだはずの愛読書は今日に限って頭に入ってこなかった。
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1頁目
【恋は銀色の翼にのりて】
恋は銀色の翼にのりて
恋の妙薬
とある晴れた日に
【Home Sweet Home】
Home Sweet Home
もう一度あなたと恋を
夜に引き裂かれても
恋は銀色の翼にのりて
恋の妙薬
とある晴れた日に
【Home Sweet Home】
Home Sweet Home
もう一度あなたと恋を
夜に引き裂かれても
2頁目
【幼馴染】
幼馴染
戦場に舞う花
【白銀の月よ】
白銀の月よ
愛しい緑の木陰よ
それゆけ!湯けむり木の葉会
あなたの愛になりたい
幼馴染
戦場に舞う花
【白銀の月よ】
白銀の月よ
愛しい緑の木陰よ
それゆけ!湯けむり木の葉会
あなたの愛になりたい
3頁目
【その他】
Beloved One(オメガバース)
ひとりにしないで(オメガバース)
緋色の守護者(ファンタジー)
闇を駆け抜ける力(人外)
特別な愛の歌(ヤマイル風カカイル)
拍手文
Beloved One(オメガバース)
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