15

少しよろしいですかと声をかけられて、その追い詰められた表情から容易には逃れられないことを悟った。

「場所をかえましょうか」

就業時間外の教員室内は疎らだとはいえ他に人がいないわけではない。
巴もそう思っていたのだろう。小さく頷いて二人して教員室を後にする。
裏庭のベンチに二人で腰掛け、晴れ渡った青い空を見上げるフリをしながらも、険しい顔で押し黙ったままの巴の姿をチラリと横目で盗み見た。
ミズキが言っていたように、本当にカカシと付き合っているのだろうか。
多忙なカカシから頻繁に式が届くというのなら、多分そうなのだろうと嘆息する。こんな冴えない同性の中忍から一方的な恋慕をぶつけられるより、巴のほうがお似合いに決まっている。
チクリと傷む胸に気づかぬふりで、もしそうならばちゃんと祝福しなきゃいけねぇなと言い聞かす。
なんでもないように笑うのは暫く無理かもしれないけれど、もう二度と不毛な恋心など抱かぬように、心の扉に開かない鍵をかけるのだ。
そう決意するイルカの隣で、俯いたまま足元の砂利を靴先で小突いていた巴が、思い切ったように口を開いた。

「言うべきかこのまま黙っているべきか・・・、ずっと迷っていたんですけれど」
「・・え・・?」
「いい加減バカバカしくて」

乱暴な言いように驚いて、思わず巴に視線をやった。

「ここ数ヶ月、私がはたけ上忍とやり取りをしてるのをご存知でしたか?」
「いえ・・」

先程ミズキに聞くまで知らなかった。
素直にそう口にしたイルカに、盛大なため息。呆れたような表情に、巴が何に対して苛ついているのかわからず戸惑った。

「手紙の内容を知りたいとは思いませんか?」

刺すような視線の意味を測りかねて困惑する。
そもそも個人的なやり取りを知る権利はイルカにはないし、巴もそれはわかって言っているのだ。
責められて狼狽えるだけのイルカに、巴は視線を地面に落として足先で小石を蹴りやった。

「アカデミーの様子はどうですか? 困った生徒はいませんか?」
「あの・・・」
「きっと今日も元気に生徒たちを追いかけ回しているんだろうな」
「・・巴先生?」
「怪我をしていませんか? あの人のことだから、生徒のこととなったらきっと無茶すると思うから」
「・・・・」

地面を蹴る靴先がピタリと止まる。
しばしの沈黙の後、顔を上げた巴が泣き笑いにもにた表情でイルカを見た。

「ねぇ、イルカ先生。はたけ上忍の手紙ってね、先生の事ばっかりなんですよ」

本当に嫌になっちゃう。
ごちるように呟いた巴の言葉に眼を見開いた。

「あの・・巴先生のおっしゃってることが俺にはよく・・・」

わからない。そう告げようとして顔を上げた巴の視線の強さに言葉を呑む。

「ほんと鬱陶しいったらないでしょう? イルカ先生も、振るなら未練なんて残らないようにもっとスパっと振ってあげてくださいっ!! それが男ってもんじゃないですかっ!」
「いえあの・・振られたのは・・」

むしろイルカの方だ。
ぶつけられた酷い言葉の数々を思い出すだけで胸が締め付けられる。
盛大な勘違いをしているらしい巴に状況を説明したいが、傷む古傷に触れるのが辛くて唇を噛んだ。

「大体はたけ上忍のどこが不満なんですかっ!」

不満なんてあるわけない。
初めて聞くことばかりで頭が混乱して言葉にならないイルカに、巴が怒りに任せて握りつぶしたカカシからの手紙を押し付けた。

「私もそろそろ都合のいい女で居るのも限界です」

勢い良く立ち上がった巴につられて、飛び上がるようにベンチから飛び上がった。

「その手紙差し上げます。・・煮るなり焼くなりイルカ先生のお好きにどーぞ」
「巴先生・・」

茫然自失とはこういうことをいうのだろう。
状況が全く判断できない。
黒髪をなびかせながら踵を返す巴の背中を見送って、糸の切れた人形のように再びベンチに座り直した。
しわくちゃになった手紙が、掌の中でカサリと音をたてた。
泥と煤で端々が少し焦げたそれは、戦場で書かれたものだとひと目で分かる。堪らなくなって封を開けた。
報告書と同じ少し神経質な、だけど整った筆跡。

「・・・なんだよ、くそっ・・」

そこに綴られた文字に、どうしようもなく胸が熱くなる。
見上げた空は突き抜けるように青くて。
ぼやけた視界のなかでキラキラと輝く光が、まるで彼の銀髪のようだと思った。
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1頁目

【恋は銀色の翼にのりて】
恋は銀色の翼にのりて
恋の妙薬
とある晴れた日に

【Home Sweet Home】
Home Sweet Home
もう一度あなたと恋を
夜に引き裂かれても

2頁目

【幼馴染】
幼馴染
戦場に舞う花

【白銀の月よ】
白銀の月よ
愛しい緑の木陰よ
それゆけ!湯けむり木の葉会

あなたの愛になりたい

3頁目

【その他】
Beloved One(オメガバース)
ひとりにしないで(オメガバース)
緋色の守護者(ファンタジー)
闇を駆け抜ける力(人外)
特別な愛の歌(ヤマイル風カカイル)
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