空を飛来する小さな鳥が頭上で幾度も旋回するのに気づき、鬱蒼と茂る樹の枝に腰を下ろした。
カカシめがけて急降下し、ポフンと小さな破裂音とともに結び目状になって掌の上に落ちた式を、待ちかねたとばかりに解いて苦笑する。
「・・ま、そろそろかなとは思っていたけどね」
それでも交わした式の数は十分すぎるほどだった。
自嘲混じりの言葉とともに、一文字すら綴られていない真っ白な紙をひらひらと風に靡かせる。
イルカと同じ、人のいい女だった。
向けられた好意につけこんだのは褒められた所業ではないし、我ながら女々しいとさえ思う。
だけどそんな情けない真似をしても彼の近況を知りたいと願ったのだ。
酷い言葉でイルカを傷つけておいて何を言っているのだろう。
報告所で顔を合わすのが気まずくて、里に帰ることを拒んだままいくつもの戦場を渡り歩いた。
いつかはきっと時間が解決してくれる。
それこそイルカが人生を共にする伴侶を得て、二人の過去が笑い話になれば――。
「・・・・・・」
残酷な妄想。立てた膝の間に額を乗せたまま眉間にシワを寄せた。
そんなことになるわけがないと知っている。
離れれば離れるほど想いは募り、思い出されるのはイルカと過ごした楽しくも幸せな日々ばかりだ。
カカシがいない世界に住む人。
育った環境も、今生きている場所も全く違う。
奪うものと、与えるもの。
真逆だからこそ惹かれたのか、それとも持ち得ない物を持っているから求めたのか。
そんなことはもうどうだって良い。
全ては終わってしまった後で、繋がっていた糸を断ち切ったのはカカシの方だ。
「コレが本当のさよならってヤツだ―ね」
ハハッ。思わず漏れた笑い声は少しばかり湿っていたか。
思いを、気持ちを押し殺す術は嫌というほど染み付いているのだから。
これからは、また死んだように生きるだけ。
ひらひらと揺れていた紙から指を離せば、風に乗って空高くへと舞い上がる。
見上げた太陽の光に眼を細めながらその行方を追っていた時。
「お前、カカシさんのところの犬か?」
飛び込んできた声に、思わず地上へ視線を落とした。
「そうだよな? 見たことあると思ったんだ」
「わふっ」
青草を踏みしめる音が近づいている。
心臓が信じられないほどにドキドキと大きく撥ねるのに、思わず胸に手をやった。
眩しい光線を受けた瞳では、すぐにその姿を確認することは出来ないけれど。
穏やかな声と気配に、必死で目を凝らした。
「おいで」
少し警戒しながらも近づいてきた忍犬の前にしゃがみ込むと、驚かせないようにゆっくりと手を差し出す。
その指先を、ぺろりと長い舌が舐めた。
「・・・カカシさんは元気か?」
尻尾を振った忍犬が、イルカに何かを伝えるように頭上へ向けて首を伸ばした。
視線が絡んだのは一瞬。
「待って下さいっ!」
印を結びきる前に叫ばれて、枝の上で身体を硬直させた。
どうして彼がここに居るのかわからない。戦地とはいえ比較的安全な後方野営地だが、教師であるイルカが派遣されるべき場所ではないハズだ。
「逃げたら、俺は一生あんたを許しませんから」
「・・・・・」
「墓の中でも恨んで、成仏出来ないように恨み続けます」
「なにそれ。冗談でしょ」
「冗談だと思うなら、やってみろ!!」
普段アカデミー生を怒鳴っている喉を張り上げられて、慌てて枝の上から飛び降りた。
腐っても中忍というより流石教師というべきだろうか。逃走されないように、体を包むマントをイルカが素早い動きで鷲掴む。
「イルカ先生・・ど・・――ッ!」
どうしてここに。なんて疑問を投げかける前に唇が押し付けられる。
突き飛ばす事もできず直立不動になったカカシの姿に、ざまあみろとでもいうような表情でイルカが笑う。
いつもカカシから挑むものではない。ただ唇を押し付けるだけの無骨で乱暴なキスなのに胸の鼓動が信じられないほど速くなる。
だけどここまでが精一杯だと、必死にマントを握りしめたイルカの手が語ってる。
「ぶっ・・ククッ」
「・・なに、笑ってんですか」
「いやぁ、あんまりにも下手くそ過ぎて」
失礼な。
その言い様に、唇を重ね合ったまま憮然とする。
ぐいぐいと唇を押し付けるだけでは確かに拙いかと思い直したのだろうか。イルカが唇を開いた瞬間を狙ってぬるりと舌を押し込んだ。
「・・むっ・・あっ!」
反り返る背を、回した腕で抱きとめてのしかかる。
怯えて奥に引っ込んだ舌をすくい取り、絡めらとった。口内を逃げるように暴れる舌に、腰がジンと熱くなる。
久しぶりのイルカの匂い、感触。それだけで身体が歓喜するのがわかる。
口吻を交わしたまま草むらの中に膝をつき、透明な糸を引きながら離れた唇が熱い吐息を零すのを、熱に潤んだ瞳で見やった。
「は・・・」
しばしの沈黙のあと、もう一度その唇を味わおうと寄せれば、拒絶するように掌で押し返された。
「待ってください」
「・・なに?」
揺るぎない視線。その瞳の強さに、先程の口付けも忘れて息を呑む。
イルカがここに居る理由に、天を仰ぎたい気持ちになった。
「巴先生から、あなたが書いた手紙をもらいました」
「・・・そ」
気まずくて逸した顔に温かな掌が触れ、両手でしっかりと両頬を包み込まれる。
逃げられないそうもない状況に、観念して唇の端を吊り上げた。
「それで? 一体何の要件でアカデミー教師ごときがわざわざこんなところに?」
「俺をまた傷つけるつもりなら、無理だと思ってください」
嘲りを滲ませた言葉にもその視線は怯まない。
もう騙されない。
そう断言されて、スッとカカシが真顔になる。
ゆっくりとイルカの手を掴み自ら距離を取ると、立ち上がって背を向けた。
「帰れ」
「嫌です」
「戦場に不慣れな教師が来るところじゃない」
「そんなことはわかってますっ!」
「だったらなんでっ!」
まるで子供の喧嘩みたいだ。
さっきまで唇を重ね合っていたというのに、今はまたこうして睨み合っている。
だけど。
「この手紙」
ポケットから差し出された手紙に、自分でも笑ってしまいそうなほど動揺したのがわかった。
「・・っ」
「ここに書かれてるのって・・」
「何が言いたい? ・・それがアンタのことだって、なんで――」
「自意識過剰だって言われても構わない。俺は、この手紙にかかれていることが、俺の事だって思ったから・・志願してここに来ました。ちゃんと、自分の目で確かめたくて・・」
思わず舌打ちをした。威嚇するように纏った殺気にも怯まず、イルカが一歩足を進める。
怯える野良犬を宥めるようにゆっくりとまた一歩。
触れられてピクリと震えた手は、温かな掌の中にしっかりと握りしめられた。じんっと、冷えた指先から温もりが流れ込んでくる。カカシはその場から動くことが出来ずに、面前のイルカを見下ろした。
「どうして俺を拒絶したんですか?」
「・・・・・」
「俺が万年中忍の冴えないアカデミー教師で、カカシさんにふさわしくないから?」
「・・違う」
「それともちょっと遊んでやろうと思った相手に嵌りそうになったから? 写輪眼のカカシが怖くなって逃げ出し――・・っ!」
自らを貶める言葉に、殺気がこもる。
僅かに青ざめたイルカが、それでも怯むまいと唇を噛み締めた。
「俺は、この手紙の真意が知りたくてここに来ました」
それまでは絶対に離すまいでもいうのだろうか。きつく握りしめられた手を、カカシが見やる。
上忍の本気の殺気にさらされて、恐れを抱かぬはずはないのに。
健気にも耐える様子に、観念して身体の力を抜いた。
「アンタの手は綺麗だから」
「綺麗・・?」
「・・アンタといると、自分が汚れているように感じる」
敵を屠ることをもうなんとも思わなくなった。
爪の奥まで血がこびりついた自分とは違う。
誰かを育てることも、慈しむことすらもなく、ただ生き残るために戦場を駆る。
命を奪うための武器を握る指先はいつも凍えるように冷たくて、その事にすら無関心になっていたのに。
温もりに触れてしまったが故に、互いの違いを痛感させられた。
「・・なんだよ、それっ! 忍家業に綺麗も汚いもないでしょうっ! そんな当たり前なこと、どうして・・っ」
「・・・・・」
「俺が、誰かを殺めたことがないとでも思っているですかっ?」
食って掛かるイルカを強引に払い除けた。
だけど食い下がる手が、腕が、払い除ける度カカシに掴みかかる。
「この手が、里を、みんなを守ってきたんだ。もっと、自分を誇っていいっ!」
その必死さに圧倒される。
まるで自分が子供に戻ったような気分にさせられて、不覚にも笑ってしまった。
「せっかく自由にしてあげたのに、わざわざ舞い戻ってくるなんてバカなんじゃないの」
「あいにく馬鹿が付くほど一本気なもんで」
「・・許されるはずないでしょ」
手を引くように勧告された。
ふさわしくないのはカカシの方だと、里を統べる炯眼が語っていたのだ。
嘲るように首を振れば、その胸ぐらをものすごい力で掴みかかられた。
「許すも許さないも関係ないっ! 俺は、カカシさんの気持ちが知りたい」
「・・・・」
「だいたいアンタはもっと、わがままになって良いんです。欲しいものは欲しいって言わなきゃ、伝わるもんも伝わらねぇだろっ!」
「・・子供じゃないんだから」
「コソコソ人の様子を嗅ぎ回る方が、よっぽど子供っぽいじゃないですか」
図星をさされて返す言葉を失ってしまう。
胸ぐらを掴んだまま、勝利を確信したようにイルカが目の前でニヤリと笑った。
「駄々っ子を教育するのが俺の仕事なんでね」
だからもう諦めて観念しちまえよ。
雄弁に語る瞳に、心のほうがあっけなく白旗を上げる。
「ハハッ。負けましたよ、アンタには」
自分でも、驚くほど自然に笑みが溢れた。
してやったりとばかりに相好を崩したイルカの身体を、カカシは力いっぱい抱きしめる。
「好きだって、言っていいの?」
「愛してるって言ってもいいですよ」
「なにそれ恥ずかしい」
凍えきった冷たい身体に火が灯るように、温もりが染み渡ってくる。
「一度繋いだ手は、離さないのが俺の忍道ですから」
力いっぱい抱きしめかえされて、言い含めるように語られた言葉に眼を見開いた。
「・・ほんと、馬鹿だ―ね」
強がりは、満面の笑みの前に崩れ去ってしまう。
ずっと気づかないふりをしていた。
手に入らないものと諦めていた。
「覚悟してください」
厳重に鍵をかけて心の奥にしまい込み、自分ですら忘れていた感情を揺さぶり起こした人。
降参しよう。
もう抗うすべもない。
カカシめがけて急降下し、ポフンと小さな破裂音とともに結び目状になって掌の上に落ちた式を、待ちかねたとばかりに解いて苦笑する。
「・・ま、そろそろかなとは思っていたけどね」
それでも交わした式の数は十分すぎるほどだった。
自嘲混じりの言葉とともに、一文字すら綴られていない真っ白な紙をひらひらと風に靡かせる。
イルカと同じ、人のいい女だった。
向けられた好意につけこんだのは褒められた所業ではないし、我ながら女々しいとさえ思う。
だけどそんな情けない真似をしても彼の近況を知りたいと願ったのだ。
酷い言葉でイルカを傷つけておいて何を言っているのだろう。
報告所で顔を合わすのが気まずくて、里に帰ることを拒んだままいくつもの戦場を渡り歩いた。
いつかはきっと時間が解決してくれる。
それこそイルカが人生を共にする伴侶を得て、二人の過去が笑い話になれば――。
「・・・・・・」
残酷な妄想。立てた膝の間に額を乗せたまま眉間にシワを寄せた。
そんなことになるわけがないと知っている。
離れれば離れるほど想いは募り、思い出されるのはイルカと過ごした楽しくも幸せな日々ばかりだ。
カカシがいない世界に住む人。
育った環境も、今生きている場所も全く違う。
奪うものと、与えるもの。
真逆だからこそ惹かれたのか、それとも持ち得ない物を持っているから求めたのか。
そんなことはもうどうだって良い。
全ては終わってしまった後で、繋がっていた糸を断ち切ったのはカカシの方だ。
「コレが本当のさよならってヤツだ―ね」
ハハッ。思わず漏れた笑い声は少しばかり湿っていたか。
思いを、気持ちを押し殺す術は嫌というほど染み付いているのだから。
これからは、また死んだように生きるだけ。
ひらひらと揺れていた紙から指を離せば、風に乗って空高くへと舞い上がる。
見上げた太陽の光に眼を細めながらその行方を追っていた時。
「お前、カカシさんのところの犬か?」
飛び込んできた声に、思わず地上へ視線を落とした。
「そうだよな? 見たことあると思ったんだ」
「わふっ」
青草を踏みしめる音が近づいている。
心臓が信じられないほどにドキドキと大きく撥ねるのに、思わず胸に手をやった。
眩しい光線を受けた瞳では、すぐにその姿を確認することは出来ないけれど。
穏やかな声と気配に、必死で目を凝らした。
「おいで」
少し警戒しながらも近づいてきた忍犬の前にしゃがみ込むと、驚かせないようにゆっくりと手を差し出す。
その指先を、ぺろりと長い舌が舐めた。
「・・・カカシさんは元気か?」
尻尾を振った忍犬が、イルカに何かを伝えるように頭上へ向けて首を伸ばした。
視線が絡んだのは一瞬。
「待って下さいっ!」
印を結びきる前に叫ばれて、枝の上で身体を硬直させた。
どうして彼がここに居るのかわからない。戦地とはいえ比較的安全な後方野営地だが、教師であるイルカが派遣されるべき場所ではないハズだ。
「逃げたら、俺は一生あんたを許しませんから」
「・・・・・」
「墓の中でも恨んで、成仏出来ないように恨み続けます」
「なにそれ。冗談でしょ」
「冗談だと思うなら、やってみろ!!」
普段アカデミー生を怒鳴っている喉を張り上げられて、慌てて枝の上から飛び降りた。
腐っても中忍というより流石教師というべきだろうか。逃走されないように、体を包むマントをイルカが素早い動きで鷲掴む。
「イルカ先生・・ど・・――ッ!」
どうしてここに。なんて疑問を投げかける前に唇が押し付けられる。
突き飛ばす事もできず直立不動になったカカシの姿に、ざまあみろとでもいうような表情でイルカが笑う。
いつもカカシから挑むものではない。ただ唇を押し付けるだけの無骨で乱暴なキスなのに胸の鼓動が信じられないほど速くなる。
だけどここまでが精一杯だと、必死にマントを握りしめたイルカの手が語ってる。
「ぶっ・・ククッ」
「・・なに、笑ってんですか」
「いやぁ、あんまりにも下手くそ過ぎて」
失礼な。
その言い様に、唇を重ね合ったまま憮然とする。
ぐいぐいと唇を押し付けるだけでは確かに拙いかと思い直したのだろうか。イルカが唇を開いた瞬間を狙ってぬるりと舌を押し込んだ。
「・・むっ・・あっ!」
反り返る背を、回した腕で抱きとめてのしかかる。
怯えて奥に引っ込んだ舌をすくい取り、絡めらとった。口内を逃げるように暴れる舌に、腰がジンと熱くなる。
久しぶりのイルカの匂い、感触。それだけで身体が歓喜するのがわかる。
口吻を交わしたまま草むらの中に膝をつき、透明な糸を引きながら離れた唇が熱い吐息を零すのを、熱に潤んだ瞳で見やった。
「は・・・」
しばしの沈黙のあと、もう一度その唇を味わおうと寄せれば、拒絶するように掌で押し返された。
「待ってください」
「・・なに?」
揺るぎない視線。その瞳の強さに、先程の口付けも忘れて息を呑む。
イルカがここに居る理由に、天を仰ぎたい気持ちになった。
「巴先生から、あなたが書いた手紙をもらいました」
「・・・そ」
気まずくて逸した顔に温かな掌が触れ、両手でしっかりと両頬を包み込まれる。
逃げられないそうもない状況に、観念して唇の端を吊り上げた。
「それで? 一体何の要件でアカデミー教師ごときがわざわざこんなところに?」
「俺をまた傷つけるつもりなら、無理だと思ってください」
嘲りを滲ませた言葉にもその視線は怯まない。
もう騙されない。
そう断言されて、スッとカカシが真顔になる。
ゆっくりとイルカの手を掴み自ら距離を取ると、立ち上がって背を向けた。
「帰れ」
「嫌です」
「戦場に不慣れな教師が来るところじゃない」
「そんなことはわかってますっ!」
「だったらなんでっ!」
まるで子供の喧嘩みたいだ。
さっきまで唇を重ね合っていたというのに、今はまたこうして睨み合っている。
だけど。
「この手紙」
ポケットから差し出された手紙に、自分でも笑ってしまいそうなほど動揺したのがわかった。
「・・っ」
「ここに書かれてるのって・・」
「何が言いたい? ・・それがアンタのことだって、なんで――」
「自意識過剰だって言われても構わない。俺は、この手紙にかかれていることが、俺の事だって思ったから・・志願してここに来ました。ちゃんと、自分の目で確かめたくて・・」
思わず舌打ちをした。威嚇するように纏った殺気にも怯まず、イルカが一歩足を進める。
怯える野良犬を宥めるようにゆっくりとまた一歩。
触れられてピクリと震えた手は、温かな掌の中にしっかりと握りしめられた。じんっと、冷えた指先から温もりが流れ込んでくる。カカシはその場から動くことが出来ずに、面前のイルカを見下ろした。
「どうして俺を拒絶したんですか?」
「・・・・・」
「俺が万年中忍の冴えないアカデミー教師で、カカシさんにふさわしくないから?」
「・・違う」
「それともちょっと遊んでやろうと思った相手に嵌りそうになったから? 写輪眼のカカシが怖くなって逃げ出し――・・っ!」
自らを貶める言葉に、殺気がこもる。
僅かに青ざめたイルカが、それでも怯むまいと唇を噛み締めた。
「俺は、この手紙の真意が知りたくてここに来ました」
それまでは絶対に離すまいでもいうのだろうか。きつく握りしめられた手を、カカシが見やる。
上忍の本気の殺気にさらされて、恐れを抱かぬはずはないのに。
健気にも耐える様子に、観念して身体の力を抜いた。
「アンタの手は綺麗だから」
「綺麗・・?」
「・・アンタといると、自分が汚れているように感じる」
敵を屠ることをもうなんとも思わなくなった。
爪の奥まで血がこびりついた自分とは違う。
誰かを育てることも、慈しむことすらもなく、ただ生き残るために戦場を駆る。
命を奪うための武器を握る指先はいつも凍えるように冷たくて、その事にすら無関心になっていたのに。
温もりに触れてしまったが故に、互いの違いを痛感させられた。
「・・なんだよ、それっ! 忍家業に綺麗も汚いもないでしょうっ! そんな当たり前なこと、どうして・・っ」
「・・・・・」
「俺が、誰かを殺めたことがないとでも思っているですかっ?」
食って掛かるイルカを強引に払い除けた。
だけど食い下がる手が、腕が、払い除ける度カカシに掴みかかる。
「この手が、里を、みんなを守ってきたんだ。もっと、自分を誇っていいっ!」
その必死さに圧倒される。
まるで自分が子供に戻ったような気分にさせられて、不覚にも笑ってしまった。
「せっかく自由にしてあげたのに、わざわざ舞い戻ってくるなんてバカなんじゃないの」
「あいにく馬鹿が付くほど一本気なもんで」
「・・許されるはずないでしょ」
手を引くように勧告された。
ふさわしくないのはカカシの方だと、里を統べる炯眼が語っていたのだ。
嘲るように首を振れば、その胸ぐらをものすごい力で掴みかかられた。
「許すも許さないも関係ないっ! 俺は、カカシさんの気持ちが知りたい」
「・・・・」
「だいたいアンタはもっと、わがままになって良いんです。欲しいものは欲しいって言わなきゃ、伝わるもんも伝わらねぇだろっ!」
「・・子供じゃないんだから」
「コソコソ人の様子を嗅ぎ回る方が、よっぽど子供っぽいじゃないですか」
図星をさされて返す言葉を失ってしまう。
胸ぐらを掴んだまま、勝利を確信したようにイルカが目の前でニヤリと笑った。
「駄々っ子を教育するのが俺の仕事なんでね」
だからもう諦めて観念しちまえよ。
雄弁に語る瞳に、心のほうがあっけなく白旗を上げる。
「ハハッ。負けましたよ、アンタには」
自分でも、驚くほど自然に笑みが溢れた。
してやったりとばかりに相好を崩したイルカの身体を、カカシは力いっぱい抱きしめる。
「好きだって、言っていいの?」
「愛してるって言ってもいいですよ」
「なにそれ恥ずかしい」
凍えきった冷たい身体に火が灯るように、温もりが染み渡ってくる。
「一度繋いだ手は、離さないのが俺の忍道ですから」
力いっぱい抱きしめかえされて、言い含めるように語られた言葉に眼を見開いた。
「・・ほんと、馬鹿だ―ね」
強がりは、満面の笑みの前に崩れ去ってしまう。
ずっと気づかないふりをしていた。
手に入らないものと諦めていた。
「覚悟してください」
厳重に鍵をかけて心の奥にしまい込み、自分ですら忘れていた感情を揺さぶり起こした人。
降参しよう。
もう抗うすべもない。
スポンサードリンク
1頁目
【恋は銀色の翼にのりて】
恋は銀色の翼にのりて
恋の妙薬
とある晴れた日に
【Home Sweet Home】
Home Sweet Home
もう一度あなたと恋を
夜に引き裂かれても
恋は銀色の翼にのりて
恋の妙薬
とある晴れた日に
【Home Sweet Home】
Home Sweet Home
もう一度あなたと恋を
夜に引き裂かれても
2頁目
【幼馴染】
幼馴染
戦場に舞う花
【白銀の月よ】
白銀の月よ
愛しい緑の木陰よ
それゆけ!湯けむり木の葉会
あなたの愛になりたい
幼馴染
戦場に舞う花
【白銀の月よ】
白銀の月よ
愛しい緑の木陰よ
それゆけ!湯けむり木の葉会
あなたの愛になりたい
3頁目
【その他】
Beloved One(オメガバース)
ひとりにしないで(オメガバース)
緋色の守護者(ファンタジー)
闇を駆け抜ける力(人外)
特別な愛の歌(ヤマイル風カカイル)
拍手文
Beloved One(オメガバース)
ひとりにしないで(オメガバース)
緋色の守護者(ファンタジー)
闇を駆け抜ける力(人外)
特別な愛の歌(ヤマイル風カカイル)
拍手文