「見えるか?」
「いやぁ、見えないね」

高台に登って、望遠鏡で確認していた次郎坊はそう答えながらも目的の建物に向かって照準を合わせてみた。
かなり堅牢な建物だ。
ご丁寧に強固な結界まで貼ってあることから、ターゲットがそこにいることに間違いはないだろう。

「確認したんだろうな」
「ウチの情報にケチつけるとかありえないんだけど」

気を悪くした女が、赤い長髪から覗く眼を吊り上げて怒りを露わにする。

「多由也は怒ると面倒くさいんだから怒らせちゃだめぜよ」
「はぁ!?」

呆れた呟きが更に怒りに火を注いだ。
ゴツンと拳骨を頭に落とされて、涙目で目の前の女を睨んだ。

「いってぇな」
「なんだ、やんのか」
「騒ぎを起こすな」

一触即発の雰囲気に、右目を前髪で隠した男が二人を諌める。

「もう帰ろうよ~」

望遠鏡を覗くのにも飽きたのか、肥満体型の奇妙な髪型をした男が、ぐうっとなるお腹を擦りながらお腹が空いたと呟いた。

「まぁ、待て」

この中ではリーダー格なのだろう。今にも踵を返しそうな三人を諌めて、太った男から受け取った望遠鏡で目的のポイントを覗き込む。
僅かだが漏れ出るチャクラにニヤリと笑うと、腹を擦る男を促す。

「チャクラ食いのお前だ。アレが何かわかるか?」
「え~?」

促されて覗きこんだ先に、微かに光るチャクラの輝きを見つけてゴクリと喉を鳴らす。

「ウマそう」
「・・・とうとう見つけたな」
「ほーら、ウチの言ったとおり」
「へっ調子に乗んなよ、ザコキャラが」

各々が好き勝手に言葉を発しても、目的は一つだ。
四人は顔を合わせて頷きあうと、主に報告すべく一瞬の内に姿を消した。



*****



「退屈だ・・・」

大きな木陰の下に大の字に寝転んで、降り注ぐ太陽から避難していたイルカはそう呟いて口を開いた。
日課である剣の稽古をした後は、こうして汗が引くまでぼんやり寝そべって過ごしている。
もちろんドレスは邪魔だが、こんな時は太ももあたりまで引き上げると風が通ってむしろ気持ちが良い。
ゴロリとうつ伏せになりながら頬杖をつき、足を曲げて、飛んできた小鳥が草むらで餌を探すのを見つめて微笑んだ。

「ふふっ」

啄む姿がまた可愛らしい。
驚かさないように小さく笑って、イルカは足を揺らしながらそんな小鳥たちの様子を眺めていた。

「すごい格好だーね」

不意にかけられた声に、ギョッとする。
三代目の強大な結界に守られた離宮だ。
そうそうたやすく出入りできるものではない。
瞬時に剣を手に立ち上がったイルカに、小鳥が驚いてバタバタと羽を広げて飛びたっていく。

「・・・誰だ・・?」

警戒もあわらな声をだす。
銀髪、隻眼。
顔の半分を口布で覆った男は、何も答えず瞳だけを笑みの形に変えるだけだ。
手に持った剣を構え、イルカはジリっと一歩足を踏み出した。
まるで殺気は感じられないが、この威圧感はどういうことだろう。
丸腰の男なのに、向かい合っただけで勝てる気がしない。

「あ~、そんな警戒しないでよ」
「・・・・」

こちらがピリピリとしているのに、目の前の男はいかにも呑気そうに辺りを見渡している。

「ここへは限られたものしか入れないはずだ。・・・どうやって入った?」
「・・・どうって・・・」

三代目の結界が破られたとは思えない。
ということは余程の術者か、考えられないことだがどこかに綻びが・・・?
訝しむイルカに、男が一瞬にして距離を狭めてきた。

「わっ」

驚いてのけぞるイルカの腰を大きな手が支える。

「・・・アンタがこの屋敷の主人?」

問われる声に答えることはない。
口を開く前に身体が動いた。
薙ぎ払われた剣の先をスルリと避けて、男が危ないなと笑う。
チラリと背後を確認しながら、イルカは更に剣を振るった。
強固な結界が張ってあるため、この屋敷に警備の人員はほとんどいない。
しかし室内まで近づけば、使用人か誰かが気づくはずだ。
隻眼の死角を狙って攻撃を繰り返しながら、ジリジリと退路を探る。
イルカだとて剣技に自信がないわけではない。
それなのに、繰り出される剣先をヒョイヒョイと躱しながら、男は合間にイルカの髪や頬、唇に指先で触れたりする。
人を喰ったような男の行動に、頭に血が上った。

「・・・ッ! バカに、するなッ!!」

叫んで踏み込んだ時だった。
足元にまとわりつくドレスの裾を、思いっきり踏んだ。

「うわッーーーー!!!」

体勢を崩し、つんのめって倒れこむ身体を引き寄せられて硬い胸に抱きしめられる。
剣を持つ手を取られ、見上げたその先に壮絶な美貌を持つ男が少しだけ驚いた顔をしていた。

「・・・お転婆」

苦笑と溜息を一つ。

「・・アゥッ!!」

ギリッと力を込められて、握りしめていた剣がポロリと落ちた。
クククッと笑う男の指が唇を擦り、何をと思う間もなく身体が宙を舞う。
空が目の前に来たところでドオッっと地面に身体を打ち付けられて、呻き声がもれた。
したたかに打った身体の痛みに顔をしかめる間もなく、のしかかってきた男の顔に言葉を失った。
太陽に照らされてキラキラと眩いばかりに輝く銀髪、整った鼻筋と少し暗い色の瞳は髪と同じように長い銀糸に縁取られている。
時間にすれば、それは瞬きほど。
そんなイルカに、男も少しだけ片目を見開いて互いに見つめ合った。

「・・・・」

驚愕に瞳を見開いたままのイルカが、人を呼ぼうと口を開いた瞬間、口布をおろした男の顔が近づき開いた唇に深く重なる。

「ンンーーーッ!!」

噛み付かれないように力づくで顎を掴まれ、逃げ惑うイルカを追って男の舌が奥まで潜り込む。
絡められて吸いつかれ、角度をかえて何度も舌が口腔内を探った。
唾液が糸をひくほどの濃厚さで蹂躙されて、イルカはパニックになった。
何をされているのかわからない。
侵入してきた曲者に、押し倒されてあまつさえ口付けられてるなんて。

「・・・ッ・・!!」

呼吸が苦しくなって夢中で背中を叩いた。
気づいた男が名残惜しげに音をたてて離れた瞬間、力いっぱい頬を打つ。
ハァハァと荒い息を吐き、頬を真っ赤にしたイルカに、打たれた頬を撫ぜながら男がニヤリと笑った。
それは、捕食者の笑みで。
ギクリと身体を強張らせたイルカは側に落ちている剣を拾おうと腕を伸ばした。

「駄目だよ」
「ーーーッ!!」

笑いながら男がその腕を押さえつける。
どちらかというと細身の男からは考えられないような強い力だった。
女の身体のイルカには到底敵うわけもない。

「・・・離せッ」
「嫌だーよ」

どこまでも人をおちょくったような言い方をする男を睨みつける。
再度殴りつけようとした手を掴まれて、地面に押さえつけられると、再び迫ってきた男の唇に驚愕して顔をそむけた。
そんなことをしても無駄だとでもいうように。
背けたせいで露わになる首筋に舌を這わせられる。

「やっ・・・」

耳たぶに歯を立て、首筋にきつく吸い付くと、赤くついた鬱血の印の上を仕上げとばかりに舐め上げた。
ゾクゾクと背筋を登ってくる何かに、恐怖を感じてイルカはギュッと瞳を閉じる。
両手を纏めて頭上で掴まれ、空いた手がドレスの裾を捲って顕になった太ももを撫で上げた。

「・や・・な、なに・・」
「可愛いねぇ」

怯える様子を楽しんででもいるような男の声が耳元で聞こえる。
どうにか逃げようと彷徨わせた視線の先に頼りになる人の姿を認めてイルカは叫んだ。

「ーーー助け、て・・ッ・・!!」

震える胸の膨らみを捕まれ、喘ぎともつかない悲鳴を上げた瞬間、男の背後で何かがキラリと光った。
それは短刀。
イルカにのしかかる男には見えなかったはずだ。

「遅い」

小さく呟いた男が、イルカの落とした剣を素早く掴み、飛んできた短刀を一瞬にして弾き飛ばした。

「ーーーーヤマトさんッ!!!」

叫ぶイルカが男の腕の中から逃れると、ヤマトに向かって走りだす。
何度も転びそうになりながら走りぬき、手を伸ばすヤマトの胸の中に飛び込む。
力強い腕に抱きこまれて、荒い呼吸をその胸に吐き出した。

「・・・センパイ・・」
「・・久し振りだね、テンゾ」

強張った声に、顔を上げた。
険しい表情のヤマトがイルカを腕に抱いたまま剣を構える。
そんな姿を嘲るように、ユラリと立つ男は怯えたようなイルカの視線に少しだけ眉尻を下げた。

「ここは不可侵の離宮です。あなたもご存知のはずだ」
「まぁね」
「今直ぐに出ていかなければ・・・」
「なに? オレとやり合おうって?」

ニヤリと笑う男が手にした剣をゆっくりと構える。
それはどこから見ても隙のない構えで。
イルカと相まみえた時には気配すらなかった殺気がもれた。
両者の間でピリピリと焼けつくような火花が散る。

「争うのは本意ではありません」
「そんなこと言っちゃって。女抱えたままでオレに勝てるとでも思ってるの?」

フンっと鼻を鳴らす男が一歩足を進める度に緊張が走った。
コノハでも剣豪で名の知られたヤマトが、気迫に飲まれる姿をイルカは初めて見た。

「・・・ヤマトさん・・」

イルカが小さく名前を呼ぶと、抱きしめる腕に力が入る。
息が詰まるような緊迫した空気にゴクリと喉を鳴らし、目の前の不審な男を力いっぱい睨みつけた。
何の目的でここに来たのか。
ヤマトと顔見知りのようだから間者ではないだろうが、男から漏れ出る殺気が尋常ではなかった。

「・・・・・」

イルカの刺すような視線に気づいた男が、驚いたような顔をして纏っていた殺気を瞬時に消す。
そのままなにか言いたげに唇を動かし、諦めたように苦笑した。

「・・・バカバカしい」

握っていたイルカの剣を地面に投げ出すと、男はあっさりと踵を返した。
トンっと地面を蹴った身体がフワリと浮いて樹の幹に飛び乗り、また跳躍して高みへと登っていく。
離宮を囲む城壁の上に立ち、どんどんと小さくなる後ろ姿を言葉もなく見送っていたイルカは、まだ緊張を解いていないヤマトの剣を握る手にそっと触れた。

「ーーーッ!!」

ビクリと震え、漸く気付いたように腕の中のイルカを見る。
それは初めて見る余裕のないヤマトの姿だった。

「・・・あの・・、助けて頂いて、ありがとうございました」
「・・いえ・・・」

答える声はらしくなく硬い。
いったいあの男は何者なのかと、尋ねようと口を開いたところで身体を引き寄せられた。
男の唇が這った首筋に、無骨な指先が触れる。
痕が・・・と呟かれる言葉に、先ほどの行為を思い出し、かぁっと赤くなった瞬間。
身体が軋むほど力いっぱい抱きしめられて、イルカが戸惑ったようにヤマトを見上げた。

「・・ッ!! ・・ヤマト、さん・・ッ?」
「ーーー無事で良かった・・」

小さく漏らされた安堵の溜息を耳に、イルカは抱きしめられるままその胸の中に顔を埋めた。
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【恋は銀色の翼にのりて】
恋は銀色の翼にのりて
恋の妙薬
とある晴れた日に

【Home Sweet Home】
Home Sweet Home
もう一度あなたと恋を
夜に引き裂かれても

2頁目

【幼馴染】
幼馴染
戦場に舞う花

【白銀の月よ】
白銀の月よ
愛しい緑の木陰よ
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あなたの愛になりたい

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【その他】
Beloved One(オメガバース)
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