ジョッキを傾けて、グビリとビールを流し込んだ。
刺激の強い冷えたドライな喉越しが、暑い季節によく合う。
くーっと声を上げてササミはその感覚を楽しんだ。

今日は受付担当者達との飲み会だ。
事務方だからといって、けしてその業務は簡単なものではない。
戦忍達が円滑に任務を運べるように、資料集めやら地図やらはたまた侵入経路の下調べなど様々な仕事をこなしている。

最近はそんなこともないが、一昔前なら任務帰りのえらぶった上忍が、些細なことでいちゃもんを付け、受付の中忍及び下忍に暴行を働く事件があったが、最近はそんなこともめっきりとなくなった。

というのも。

「はたけ上忍のおかげだよなぁ」
「はぁ?」

ササミが感慨深げに呟くのに、隣でビールをおかわりしていたイルカが何だとふりむいた。

「いや・・、ほら上忍達の嫌がらせ。昔はよくあったろ?」
「あぁ、まぁなぁ」

思い出そうとしているのか、イルカは首をかしげた。

「イルカが報告所の仕事を受け持つようになって、劇的に変わったんだぜ」
「そうだったか?」

頭に「?」をつけたイルカに、ササミが力説する。

「ちょうどはたけ上忍が暗部から正規に復帰した頃で」
「そうそう。暗部上がりの上忍なんて、またおっそろしーのが来るぜって噂してたんだよな」

隣に座っていたイワシが口を挟んだ。

そんなこともあったかなぁとイルカは酔っ払った頭で思い出す。

「そういや・・・」

そんなこともあった気がする?

「あれは・・そうだ! 質の悪い外回りの戦忍がたまたま帰ってきた時だよ」
「ん〜」
「お前の態度がなってないって、いきなり」
「あぁ」

あったな。
そんなこと。
普通に「お疲れ様でした」と笑いながら書類を受け取ったイルカを、その上忍は「ニヤニヤ笑ってんじゃねーよ」といきなり襟首を掴んで殴りつけたのだ。
すっかり気を抜いていたイルカは、ふっとばされて壁に激突した。
まわりにいた他の上忍達が、何とかなだめたりしてくれたおかげでそれ以上の被害はなかったものの、イルカの腹には酷い青あざが残った。

「・・・あの後、カカシに見つかったんだよ」
「ん?」

イルカのセリフに、ササミとイワシが訝しげに顔を見合わせた。

「風呂場で服脱がされて、青あざ発見した時のアイツの顔ったら」

ハハハッと笑ってイルカはビールを流しこむ。

「誰にやられたか言わなかったら、言うまでイカせないとか言うし」

告げ口なんて、するわけねぇだろ恰好悪ぃ。
プハーッと息を吐きだして、イルカはそう言って眉をしかめた。

おいおい、何を言い出すんだ・・・イルカよ。
はたけ上忍との仲は秘密なんじゃなかったのか?
イワシは少し慌ててキョロキョロと周りを見渡す。

「朝まで風呂場で責め立てられて、もう次の日腰が怠くてさぁ・・・」

遠い場所に視線を飛ばしながら語るイルカに、騒がしかった店内が徐々に静かになっていく。

「結局、あの上忍に殴られたことより、カカシに突っ込・・」
「わーわーわーッ!!!!!」

焦ったイワシがイルカの口を掌で覆った。

「ムグッ!!」
「それ以上言うな」

イワシが真剣な声でいうのに、イルカは眉間にシワを寄せたままコクコクと頷いた。

そうだ。
イルカを傷つけられて大激怒したカカシが、その上忍を割り出してとんでも無い目に合わせたのだ。

『木の葉の里の受付嬢に手を出すべからず』

そんな掟が報告所に出来たのはそんな事件があったからだった。

「あれぐらいなんでもねぇのに、ほんとカカシって過保護だよな」
「・・・・・」

まさか風呂場でのアンアンがあったおかげで報告所の治安が改善されていたとは知らなかったと、同僚達はイルカの言葉に力なく頷くのだった。



*****



お猪口に注いだ日本酒をチビリ。
少し辛めの後口に、カカシは満足気な吐息を吐いた。

「カカッさん、次はスッキリしたの呑みましょうーよ」
「・・・いや、冷にしようぜ」

ゲンマの言葉に、アスマが冷酒を提案する。
少しぬるくなった酒を舐めながら、カカシはなんでもどーぞと答えた。
今日は気心の知れた上忍達との飲み会だが、あまり酔わないカカシは甘くなければなんでも飲めてしまう。
別に熱燗だろうが冷酒だろうが構わないのだ。

「そういやカカッさんって、イルカと暮らしてるんすよねぇ?」
「まぁね」
「それって、面倒じゃないんすか?」
「?」

問われている意味が分からなくて、カカシははて?と首を傾げた。

「だって、男同士で暮らしてたらほら」

あれが。
ニヤニヤと笑うゲンマが、いやらしく手で擦る仕草をしてみせた。

「何がよ?」

言われてる意味がわからないカカシが、そんなゲンマに気のない返事を返す。

「そりゃ、カカッさんは任務で里外に出りゃ女はたくさんいるだろうけど」

イルカは?
そんな言葉に、カカシの眉がピクリと跳ねる。

「ずっと一緒じゃ溜まってくるだろうし、いくら幼馴染だっつっても目の前でヌくのはお互い勘弁じゃねぇ?」

ニヤリと笑うゲンマに、カカシが不機嫌に顔をしかめた。
アスマはそんなゲンマの言葉に素知らぬふりでタバコをプカリとふかすばかりだ。

「・・・溜まるわけないじゃない」
「はい?」

憮然とした言葉に、ゲンマが何だと眉をひそめる。
カカシはお猪口に入った酒をぐいっと煽って、差し出した。
注げという意味だろう。
大人しく酒を注ぐ。

「里にいる時は毎晩抱いてるし、任務に出る前は寂しくないようにめちゃくちゃヤッてる」
「・・へ・・ぇ・・」
「帰ってきた日は寂しい思いをさせた分、寝かせないーよ」

キリッとした顔で言い放つカカシに、ゲンマは無表情で固まる。

えーっと。
いま、聞いてもいいことを聞いたのかな?
チラリと視線をやれば、アスマが今にも吹き出しそうに肩を揺らしていた。

それにね。
ギロリとゲンマを睨みつけ、カカシは更に口を開いた。

「外に女なんかいないし。オレはずっとイルカ一筋なんだから」

写輪眼を剥き出しにして、変な噂流さないでよねと釘を刺すカカシに、アスマがもう堪らんと、耐え切れずに吹き出す。
驚愕するゲンマを睨みつけ、カカシは憮然とした表情のまま注がれた酒を一気に飲み干した。



*****



なんだろ?
あの人達。

中忍達と、上忍達のちょうど真ん中あたりで飲んでいたヤマトは、小さく呟きながらツマミのクルミを割って口に入れた。

聞けば二人が二人共『幼馴染』だと主張する割に、話がアレじゃないか。

「・・・・・」

きっと一週間もしない内に噂は里中に広がるんだろうなぁなんて考えて、別にどうでもいいかとヤマトは遠い目をして最後のクルミを口に放り込んだ。
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