カカシさんの様子がおかしい。
以前から下忍の指導をしながらエロ本を読んだり(顔の殆どを隠しているから)何を考えているのか読めなかったりとよくわからない人だったが、それに輪をかけておかしいのだ。
理由は多分アレだ。
あの美人のくノ一にかけられた液体。アレのせいで、ちょっと変わった人だったのが、本格的におかしな人になってしまった。
鉛筆の尻で頭を書きながら、イルカは先日のカカシの告白を思い出す。
結婚を前提にお付き合いしてくださいって言われてもなぁ。
そもそも俺、男だし。
突然のプロポーズに、驚かなかったわけじゃない。
告白はもちろんのことだが、それにもましてイルカを驚愕させたのはその素顔だ。
うっすら格好いいんだろうなぁと思ってはいたが、カカシの素顔はイルカの想像を超えていた。
なんなんだあの顔。
格好良すぎて顔を隠さなければいけない呪いにでもかかっているのかよ。
男だからこそなんとか踏みとどまれたものの、もしイルカが女だったら間違いなくイチコロだ。
そのまま胸に飛び込んでもおかしくないくらいの威力だった。
……イケメンの本気って恐ろしいな。
ふう。
重苦しいため息を付いて鉛筆の先で書類を叩く。
あの時は、なんとか冗談で笑い飛ばして誤魔化したがカカシは諦めるつもりはないらしい。
翌日から続く受付での待ち伏せ、家へのお仕掛け攻撃に正直イルカは辟易していた。
だいたい任務で忙しいはずなのに、俺より早く受付に居座っているとは何事だよ。
ナルトたちの修行はどうした!
強引な食事へのお誘いも、カカシの機嫌を損ねないように丁重にお断りしていたら、何を勘違いしたのか両手に抱えきれないほどの花束を抱えて受付までやってきやがった。
あのときの受付の雰囲気と言ったら。
………いたたまれない……。
キリキリと痛む胃をおさえ、ゴツンと勢いよく机に額を打ち付ければ、隣でイワシがぎょっとしたのがわかった。
しかもさぁ。
しかも。
花束持ってニコニコしているカカシを前にイルカは断るに断りきれなかった。やむを得ず「受付に飾らせていただきますね」と言ったイルカに、カカシはなんとも、そう、なんとも悲しそうな顔をしたのだ。
いやいやいやいや、だってあんなでかい花束を飾れるような花瓶が男やもめの家にあると思うか?
受付にだってそんなもん置いていなかったから、わざわざ三代目に花器を借りてきたんだぞっ!?
おかげで、一部始終を見ていたくノ一連中には「ここはホテルのフロントだったかしら」なんて皮肉を言われたりして、図太いはずのイルカの神経はゴリゴリに削られていた。
男相手に花束抱えてくるヤツがどこに居るよ?
勘弁してくれ。
どんだけロマンチストなんだ。
いつもくノ一をそばに纏わりつかせているから、女慣れしているのかと思っていたけど、あの人本当はモテないんじゃないか?
いや、それはないか。
イルカは机に突っ伏したままふるふると頭を左右に振った。
第一顔が良いだけの男に、目の肥えたくノ一たちが群がるはずもない。
暗部上がりの上忍という肩書のわりに温和で人当たりもいいし、忍としては当然のこと、カカシは男としても一流だということはイルカだって知っている。
だからこそ、カカシが平々凡々としたイルカにご執心なのがくノ一たちの癇に障るのだ。
ひしひしと感じるくノ一たちの冷ややかな視線と物理的態度。
あの妙な液体のせいだとわかっているからこそカカシにはさっさと元に戻ってもらいたい。
実際、液体の成分を分析してもらおうとイルカは幾度もカカシを説得してみたりしたのだ。しかしそのたびに「心配してくれるの? 優しいね」なんてイルカの手を握りしめながら頬を染めるカカシに、イルカは心の中で絶叫した。
なまじっか素顔を見てしまったもんだから、口布の下を容易に想像できてしまって質が悪い。
今まではなんとな〜くだが自分は清楚な可愛い系がタイプだと思っていたのに、カカシの素顔を見た瞬間すべてを塗り替えられてしまった。
心ごと奪われたといっていい。
はっきり言って、己がこんなにも面食いだとは思ってもいなかった。
くノ一との修羅場にイルカを巻き込んだ性格の悪さを差し引いてもお釣りがくる顔面力に、正直困惑していた。
そもそもイルカの世代ではたけカカシに憧れを抱かない忍などいないのだ。
若くして上忍にまでのぼりつめた天才忍者。
華々しい武勇伝の数々は語り草にもなっているほどだ。
一度だけ、イルカは任務でカカシと一緒になった事がある。見聞きするのではなく肌で感じたカカシの圧倒的な戦闘能力の高さや統率力に、下忍だったイルカは心酔してしまった。
気安く飲みに行けるような間柄になった今も、イルカはあの頃の恋心にも似た淡い想いを忘れたわけではない。
ま、そんな事を言ったって俺とあの人がどうにかなるというわけでもないんだけど。
第一、カカシは今、妙な薬でおかしくなってるだけなのだから。
「…………」
突っ伏したまま、机の表面に額当てをグリグリと擦りつける。
───「好きです」だって。
カカシが自分に向ける、はにかんだような笑みを思い浮かべるだけで、胸がきゅっと締め付けられるような気がした。
……馬鹿だな。
勘違いするなよ、俺。
ずっと憧れていた人に、好きだと言われたくらいで何を意識しているんだよ。
「……本気にするな」
呟いて、イルカは乾いた笑いを漏らした。
*****
どうにもうまくいかない。
食事にプレゼント、ありとあらゆる手段を使って落とそうとしているのに、意中の相手は喜ぶどころか完全に引いてしまっているようだ。
相手から言い寄ってくるのを受け入れてきただけのカカシには、誰かを振り向かせようと努力したことなんてない。
女に困ったこともないし、後腐れなく楽しむだけの相手ならカカシの周りにはいくらでもいたのだ。
考えてみれば、カカシには誰か特定の相手を好ましく思ったりすることなんて今までなかった気がした。
あの日、雷に打たれたような衝撃を受けるまでは。
「…………」
ぼんやりとベンチに寝そべり、日除け代わりにしていた愛読書を閉じて空を仰ぎ見た。
ここに書いてあることはあらかた実践してみたつもりだ。イチャパラに出てくるヒロインなら、あっという間に恋に落ちるというのにカカシの相手はそうはいかないらしい。
手強いってのもまた良いもんだけどねぇ。
そんなことを思い、口布の中でふふふと忍び笑いを漏らす。
「思い出し笑いは気持ち悪いってばよ」
「そんな本ばっかり読んでいるからですよー! いやらしいっ!!」
「思い出し笑いするやつはムッツリだって言うからな」
「お前ら…」
揃いも揃ってまるで薄気味悪いものでもみたような渋面。
今年から受け持つことになった可愛い教え子たちは、カカシが寝そべるベンチを囲み、胡乱気な視線を向けていた。
「任務は?」
「とっくの昔に終わったってばよ」
「あんな簡単な任務、瞬殺だ」
「これ、おばあさんがお礼にどうぞって」
「芋?」
カカシ先生の分と、袋いっぱいに詰められた芋を差し出され苦笑した。
「今年は早く終わったってすっげぇ喜んでた」
「そりゃいいことしたねぇ」
「でも……、あんなの任務って言えねぇてばっ」
「おや、不服そうじゃない」
「「「だってっ!!」」」
術を使いたい盛のナルトたちにとって、里人の手伝い程度の任務は不満が残るというわけだ。
手応えのある任務に就きたいという気持ちもわからないでもないが、アカデミーを卒業したての下忍に割り当てられるには妥当なランク。
カカシはベンチからのそりと立ち上がると、ふくれっ面をした部下たちの頭をコツンと小突いた。
「ま、もう少し我慢しなさいって」
「ちぇ〜」
「しっかし、こんなにたくさんの芋は流石に食べきれないねぇ」
「チョウジたちにも配ったってばよ」
「それでもまだこんなに余ったの?」
「今年は豊作だったらしいからな」
ずしりと重い袋を片手に、連れ立って報告所へ歩き出す。
ちょろちょろと後をついてくる部下たちが可愛くないと言ったら嘘になる。
「受付にもおすそわけだーね」
「俺ってばイルカ先生んちで焼き芋にしてもらうってばよ」
「そうねぇ」
はふはふと芋を頬張る姿を思い浮かべてつい口角が緩んでしまう。いつも困った顔で断られる貢物だが、元生徒たちからだと言えば喜んで受け取ってもらえるだろうか。
「そう言えば、お前らイルカ先生の好きなものって知ってる?」
「イルカ先生? そりゃ一楽のラーメンだってばよ」
「ラーメン?」
「だな」
「イルカ先生と言ったらそれしか考えられないわ」
うんうんと頷く子供たちに、眉を寄せた。
「本当に?」
「本当だってばよ。イルカ先生、一楽の味噌豚骨チャーシュー大盛りをいつも食べてるってば」
「常連よね!」
「食べすぎて先生からはラーメンの汗が出るって言われてた」
「あんなに可憐で、可愛らしい人の好物がラーメン? すごいギャップだーね」
「………可憐?」
「ギャップ…?」
人は見かけによらないねぇ。感慨深げに頷きながら前を歩くカカシに、子供たちが足を止めて顔を見合わせる。
「カカシ先生、イルカ先生にギャップなんてないですよ?」
「そうだってばよ。先生ってば布団は敷きっぱなしだし、風呂上がりはいつもパンイチで腰に手ぇあててビール飲んでるってば」
「泥酔して玄関で寝ているときもあったな」
「そうそう。この間先生のところに遊びに行ったら、洗い物が台所に山積みになっててね」
ドン引きのサクラの視線に慌てたイルカが、薬缶のまま飲めととんでもないことを言っていたのを思い出す。
「支給服も臭くなるまで洗ってねぇってば」
臭いでわかるというナルトに、サクラが顔をひきつらせてやだーっ!! と叫ぶ。
「とにかく! 教師じゃないときの先生は、ただのだらしないオッサンなの!」
「オッサンは言いすぎだってばよ。先生は、と、父ちゃんみたいな感じだってば……」
「何言ってる。あんなに威厳のない父さんがいるか」
もじもじしだしたナルトに、サスケが厳しい一瞥を投げつける。
「お前たち……」
口々に言い募る部下たちの顔をニコニコしながら見渡して───、
「いったい誰の話をしているの?」
「「「………だからイルカ先生だって(ばよぉ)!!」」」
首を傾げたカカシの前で、教え子たちは呆れた声を上げた。
以前から下忍の指導をしながらエロ本を読んだり(顔の殆どを隠しているから)何を考えているのか読めなかったりとよくわからない人だったが、それに輪をかけておかしいのだ。
理由は多分アレだ。
あの美人のくノ一にかけられた液体。アレのせいで、ちょっと変わった人だったのが、本格的におかしな人になってしまった。
鉛筆の尻で頭を書きながら、イルカは先日のカカシの告白を思い出す。
結婚を前提にお付き合いしてくださいって言われてもなぁ。
そもそも俺、男だし。
突然のプロポーズに、驚かなかったわけじゃない。
告白はもちろんのことだが、それにもましてイルカを驚愕させたのはその素顔だ。
うっすら格好いいんだろうなぁと思ってはいたが、カカシの素顔はイルカの想像を超えていた。
なんなんだあの顔。
格好良すぎて顔を隠さなければいけない呪いにでもかかっているのかよ。
男だからこそなんとか踏みとどまれたものの、もしイルカが女だったら間違いなくイチコロだ。
そのまま胸に飛び込んでもおかしくないくらいの威力だった。
……イケメンの本気って恐ろしいな。
ふう。
重苦しいため息を付いて鉛筆の先で書類を叩く。
あの時は、なんとか冗談で笑い飛ばして誤魔化したがカカシは諦めるつもりはないらしい。
翌日から続く受付での待ち伏せ、家へのお仕掛け攻撃に正直イルカは辟易していた。
だいたい任務で忙しいはずなのに、俺より早く受付に居座っているとは何事だよ。
ナルトたちの修行はどうした!
強引な食事へのお誘いも、カカシの機嫌を損ねないように丁重にお断りしていたら、何を勘違いしたのか両手に抱えきれないほどの花束を抱えて受付までやってきやがった。
あのときの受付の雰囲気と言ったら。
………いたたまれない……。
キリキリと痛む胃をおさえ、ゴツンと勢いよく机に額を打ち付ければ、隣でイワシがぎょっとしたのがわかった。
しかもさぁ。
しかも。
花束持ってニコニコしているカカシを前にイルカは断るに断りきれなかった。やむを得ず「受付に飾らせていただきますね」と言ったイルカに、カカシはなんとも、そう、なんとも悲しそうな顔をしたのだ。
いやいやいやいや、だってあんなでかい花束を飾れるような花瓶が男やもめの家にあると思うか?
受付にだってそんなもん置いていなかったから、わざわざ三代目に花器を借りてきたんだぞっ!?
おかげで、一部始終を見ていたくノ一連中には「ここはホテルのフロントだったかしら」なんて皮肉を言われたりして、図太いはずのイルカの神経はゴリゴリに削られていた。
男相手に花束抱えてくるヤツがどこに居るよ?
勘弁してくれ。
どんだけロマンチストなんだ。
いつもくノ一をそばに纏わりつかせているから、女慣れしているのかと思っていたけど、あの人本当はモテないんじゃないか?
いや、それはないか。
イルカは机に突っ伏したままふるふると頭を左右に振った。
第一顔が良いだけの男に、目の肥えたくノ一たちが群がるはずもない。
暗部上がりの上忍という肩書のわりに温和で人当たりもいいし、忍としては当然のこと、カカシは男としても一流だということはイルカだって知っている。
だからこそ、カカシが平々凡々としたイルカにご執心なのがくノ一たちの癇に障るのだ。
ひしひしと感じるくノ一たちの冷ややかな視線と物理的態度。
あの妙な液体のせいだとわかっているからこそカカシにはさっさと元に戻ってもらいたい。
実際、液体の成分を分析してもらおうとイルカは幾度もカカシを説得してみたりしたのだ。しかしそのたびに「心配してくれるの? 優しいね」なんてイルカの手を握りしめながら頬を染めるカカシに、イルカは心の中で絶叫した。
なまじっか素顔を見てしまったもんだから、口布の下を容易に想像できてしまって質が悪い。
今まではなんとな〜くだが自分は清楚な可愛い系がタイプだと思っていたのに、カカシの素顔を見た瞬間すべてを塗り替えられてしまった。
心ごと奪われたといっていい。
はっきり言って、己がこんなにも面食いだとは思ってもいなかった。
くノ一との修羅場にイルカを巻き込んだ性格の悪さを差し引いてもお釣りがくる顔面力に、正直困惑していた。
そもそもイルカの世代ではたけカカシに憧れを抱かない忍などいないのだ。
若くして上忍にまでのぼりつめた天才忍者。
華々しい武勇伝の数々は語り草にもなっているほどだ。
一度だけ、イルカは任務でカカシと一緒になった事がある。見聞きするのではなく肌で感じたカカシの圧倒的な戦闘能力の高さや統率力に、下忍だったイルカは心酔してしまった。
気安く飲みに行けるような間柄になった今も、イルカはあの頃の恋心にも似た淡い想いを忘れたわけではない。
ま、そんな事を言ったって俺とあの人がどうにかなるというわけでもないんだけど。
第一、カカシは今、妙な薬でおかしくなってるだけなのだから。
「…………」
突っ伏したまま、机の表面に額当てをグリグリと擦りつける。
───「好きです」だって。
カカシが自分に向ける、はにかんだような笑みを思い浮かべるだけで、胸がきゅっと締め付けられるような気がした。
……馬鹿だな。
勘違いするなよ、俺。
ずっと憧れていた人に、好きだと言われたくらいで何を意識しているんだよ。
「……本気にするな」
呟いて、イルカは乾いた笑いを漏らした。
*****
どうにもうまくいかない。
食事にプレゼント、ありとあらゆる手段を使って落とそうとしているのに、意中の相手は喜ぶどころか完全に引いてしまっているようだ。
相手から言い寄ってくるのを受け入れてきただけのカカシには、誰かを振り向かせようと努力したことなんてない。
女に困ったこともないし、後腐れなく楽しむだけの相手ならカカシの周りにはいくらでもいたのだ。
考えてみれば、カカシには誰か特定の相手を好ましく思ったりすることなんて今までなかった気がした。
あの日、雷に打たれたような衝撃を受けるまでは。
「…………」
ぼんやりとベンチに寝そべり、日除け代わりにしていた愛読書を閉じて空を仰ぎ見た。
ここに書いてあることはあらかた実践してみたつもりだ。イチャパラに出てくるヒロインなら、あっという間に恋に落ちるというのにカカシの相手はそうはいかないらしい。
手強いってのもまた良いもんだけどねぇ。
そんなことを思い、口布の中でふふふと忍び笑いを漏らす。
「思い出し笑いは気持ち悪いってばよ」
「そんな本ばっかり読んでいるからですよー! いやらしいっ!!」
「思い出し笑いするやつはムッツリだって言うからな」
「お前ら…」
揃いも揃ってまるで薄気味悪いものでもみたような渋面。
今年から受け持つことになった可愛い教え子たちは、カカシが寝そべるベンチを囲み、胡乱気な視線を向けていた。
「任務は?」
「とっくの昔に終わったってばよ」
「あんな簡単な任務、瞬殺だ」
「これ、おばあさんがお礼にどうぞって」
「芋?」
カカシ先生の分と、袋いっぱいに詰められた芋を差し出され苦笑した。
「今年は早く終わったってすっげぇ喜んでた」
「そりゃいいことしたねぇ」
「でも……、あんなの任務って言えねぇてばっ」
「おや、不服そうじゃない」
「「「だってっ!!」」」
術を使いたい盛のナルトたちにとって、里人の手伝い程度の任務は不満が残るというわけだ。
手応えのある任務に就きたいという気持ちもわからないでもないが、アカデミーを卒業したての下忍に割り当てられるには妥当なランク。
カカシはベンチからのそりと立ち上がると、ふくれっ面をした部下たちの頭をコツンと小突いた。
「ま、もう少し我慢しなさいって」
「ちぇ〜」
「しっかし、こんなにたくさんの芋は流石に食べきれないねぇ」
「チョウジたちにも配ったってばよ」
「それでもまだこんなに余ったの?」
「今年は豊作だったらしいからな」
ずしりと重い袋を片手に、連れ立って報告所へ歩き出す。
ちょろちょろと後をついてくる部下たちが可愛くないと言ったら嘘になる。
「受付にもおすそわけだーね」
「俺ってばイルカ先生んちで焼き芋にしてもらうってばよ」
「そうねぇ」
はふはふと芋を頬張る姿を思い浮かべてつい口角が緩んでしまう。いつも困った顔で断られる貢物だが、元生徒たちからだと言えば喜んで受け取ってもらえるだろうか。
「そう言えば、お前らイルカ先生の好きなものって知ってる?」
「イルカ先生? そりゃ一楽のラーメンだってばよ」
「ラーメン?」
「だな」
「イルカ先生と言ったらそれしか考えられないわ」
うんうんと頷く子供たちに、眉を寄せた。
「本当に?」
「本当だってばよ。イルカ先生、一楽の味噌豚骨チャーシュー大盛りをいつも食べてるってば」
「常連よね!」
「食べすぎて先生からはラーメンの汗が出るって言われてた」
「あんなに可憐で、可愛らしい人の好物がラーメン? すごいギャップだーね」
「………可憐?」
「ギャップ…?」
人は見かけによらないねぇ。感慨深げに頷きながら前を歩くカカシに、子供たちが足を止めて顔を見合わせる。
「カカシ先生、イルカ先生にギャップなんてないですよ?」
「そうだってばよ。先生ってば布団は敷きっぱなしだし、風呂上がりはいつもパンイチで腰に手ぇあててビール飲んでるってば」
「泥酔して玄関で寝ているときもあったな」
「そうそう。この間先生のところに遊びに行ったら、洗い物が台所に山積みになっててね」
ドン引きのサクラの視線に慌てたイルカが、薬缶のまま飲めととんでもないことを言っていたのを思い出す。
「支給服も臭くなるまで洗ってねぇってば」
臭いでわかるというナルトに、サクラが顔をひきつらせてやだーっ!! と叫ぶ。
「とにかく! 教師じゃないときの先生は、ただのだらしないオッサンなの!」
「オッサンは言いすぎだってばよ。先生は、と、父ちゃんみたいな感じだってば……」
「何言ってる。あんなに威厳のない父さんがいるか」
もじもじしだしたナルトに、サスケが厳しい一瞥を投げつける。
「お前たち……」
口々に言い募る部下たちの顔をニコニコしながら見渡して───、
「いったい誰の話をしているの?」
「「「………だからイルカ先生だって(ばよぉ)!!」」」
首を傾げたカカシの前で、教え子たちは呆れた声を上げた。
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