注意!!!
これは、某MJRさんの「猿カカイルでオフィスラブ」という呟きにつられて書いたお話です。
途中まで書いたのですが、なんか違う……書き直しだっ!!!と、ボツにしたものをUPしています(貧乏性なもので)
「猿」でもいいよ!
未完でもドーンとこいっ!!
という心の広〜い方だけ↓へお進みください(・∀・)ノ
↓
↓
↓
コンクリートジャングル。
その呼び名の通り、ここには見渡すかぎりの緑もない。
緩やかな季節の移り変わりを感じることもなく、草花の香りや耳に馴染んだ川のせせらぎさえ聞こえることはない。
頬をなぜる風は冷たく切り裂くようで、その厳しさに首をすくめながらイルカは既に冷めてしまった缶コーヒーを喉の奥に流し込んだ。
カツン。放り投げた空き缶が、冷え冷えとした音をたててゴミ箱の中へと命中する。
「―――ストライークッ! ……なんてな」
なにか願掛けでもしておけばよかった、なんて思うこと自体が既に虚しい。
木の葉リゾート計画はイルカが以前から憧れていたプロジェクトだった。
就業後に何度も精査し練り直した計画書が通過したと上司から伝えられたときは、一瞬頭が真っ白になったぐらいだ。
嬉しかった。
これでやりたいことがやれる。そんな喜びで有頂天になっていたイルカに突きつけられたのは、他社から集められた一癖も二癖もある精鋭たちだった。
自らの未熟さを突きつけられたのは当然のこと、一介の平社員にしか過ぎないイルカの言葉など馬鹿にするばかりで耳を傾けてくれるはずもなし、あげる声は徐々に小さく誰の耳にも止まらなくなった。
四方八方ふさがりとはよく言ったもので、やることなすこと全てが裏目に出ているような気がした。
はぁ…と、重苦しいため息を付いてベンチから立ち上がる。
イルカがここでこうしていることなんて、彼らは誰一人として気づいてはいないだろう。
いないも同然の存在。
その事実が胸をぎゅっと締め付ける。
そのままノロノロと身体を引きずって手摺へと近づくと、真新しい塗装が施されたそれに指先を滑らせ、ゆっくりと握り込んだ。
外気にさらされた鉄柵の冷たさが身体の芯まで冷やしていくようで、イルカはコツンと鉄柵へと額をぶつけた。
眼下に広がる無機質なオフィス街は冷え冷えとしていて、まるでこの世に立った一人で取り残されたみたいな気分になる。
ここは、こんなにも寂しい。
もしこのビル群のはるか遠くまで見渡すことができたなら、懐かしく温かい場所が見られるかもしれないのに。
もう少し。
せめてもう少しだけ―――。
ブルリと毛並みを震わせて、イルカは手摺からぐいっと身体を乗り出した。
「そろそろ休憩時間だから、やめておいたほうがいいですよ」
ふわりと漂う香水の匂いが鼻先をくすぐったかと思えば、すぐさま風に乗って消えていく。
「下には昼食目当ての社員たちが一斉に出てくる頃でしょ? 上から突然猿が振ってきたなんてことになったら目も当てられない」
小さいけれど耳に響く甘い声色。例えば女だったら、耳元で優しく囁かれただけで腰砕けになるのではと想像してしまうほど。
そんな声の持ち主は、顔の上に伏せた本を持ち上げるとベンチに寝そべったまま軽くひらひらとさせてみせた。
「空きっ腹抱えた猿を道連れにするには寝覚めも悪いですしねぇ」
男が横たえていたベンチからのそりと身を起こす。ジャリッと革靴の底がアスファルトを擦る音。それがゆっくりと近づいてくる。
陽の光を浴びてキラキラ光る見事な灰毛を見た目にも高級だと分かるスーツで覆っている。袖の先まで計算され尽くしたシャツにはシワひとつない。スーツだって生地から選んだオーダーメイド品なのだろう。イルカが着ている専門店で3着いくらのものとは桁が違う品物だ。
そればかりじゃない。
視線の動きや身のこなしのそこここから男が只者ではないと窺い知れた。
この男には他を圧倒するなにかがある。
それがイルカの眼を釘付けにした。
「ま、それでも飛び降りるってんなら……」
汚れることも厭わず、鉄柵に背中を預けた男は手にした本を小脇に抱えながら瞳だけで微笑んでみせた。
整いすぎている顔というのは得てして冷たい印象を受けるものだが、笑うと少しだけ親しみが持てるような気がした。
知らず見惚れてしまっていることに気がづいて、イルカは慌てて視線をビル群へと戻した。
「……別に飛び降りるつもりなんてありませんよ」
「そ?」
「えぇ。あんたの勘違いです」
「なら良かった。思いつめた顔をしていたもんだから、てっきり」
「てっきり? 俺が自殺でもするんじゃないかと思って見守っていてくださっていたんですか?」
「まぁそんなとこですかね」
前言撤回。親しみが持てるなんてとんでもない。眼の前の男はただにこにことしているだけで、まるで掴みどころがなかった。
「おせっかいだな」
「ん~?」
「どこのどなたか存じ上げませんが、俺もまだまだ自分の命は惜しいんで。自殺なんて勿体無いことしませんから、ほうっておいてくれ」
本当は、飛び降りるつもりだったんじゃないか。
男に声をかけられなければ、いっそこのまま……なんてヤケになっていた自覚はあった。
「それだけ憎まれ口がきけるなら心配無用のようですねぇ」
「―――だからそう言っているだろっ!」
どうしてなのかわからないけれど、のんびりとした口調で話す男の姿に思わずムキになった。
言い捨てたイルカの言葉に、男の眼が一瞬だけ驚いたように見開かれる。
ふ、と口元だけで笑われて、サァッと顔に朱がさした。
真っ直ぐに自分を見つめてくる男に、心の底まで見透かされているような気がしていたたまれない。
何やってんだ、俺は。
見ず知らずの猿(多分エリート)相手に喧嘩を売るような真似をするなんて。
「なにかありましたか?」
「な、なにかって……」
「天気はいいし、爽やかな風は心地よく、街は活気に溢れている。投げた空き缶だって見事ゴミ箱に命中したっていうのに、お葬式みたいな顔して下を覗き込んでいるなんて、何かあったとしか思えないでしょ」
「あんたいつから見てたんだよ」
「最初からですねぇ」
「は? だってここには誰も――」
「気づかなかっただけじゃないですか?」
「そんなわけ……」
眉をしかめ、飄々とした態度でのたまう灰毛の猿を見やる。
これだけ圧倒的な気配を感じるのにまるで気がつかないなんて、それだけ俺が追い詰められていたということか。
「そんなに怖い顔しないでよ。オレはここでのーんびり惰眠を貪っていただけなんですから」
「チッ! どんだけお気楽なんだよ」
エリートだと思っていたけれど、就業中に昼寝とはどこぞのお偉いさんの縁故社員らしい。一気に態度も悪くなる。
「おや、手厳しい」
「こちとら血の汗流して働いて――……っ」
言ってから、それもすべて徒労に終わったと思うと一気に力が抜けた。
「……もうどうでもいいんですけど…」
言い捨てて後にしようとした時だった。
「いいわけないでしょう」
サラリと言われた言葉に振り返った。
「そんな顔されて、あぁそうですかって帰せるわけないじゃないですか」
「あ――、あんたには関係ねぇだろ」
高いスーツを身にまとって、仕事中に昼寝をしている身分の男に何がわかるものか。
「関係ないからこそ話しやすいと思うんですけど。えーっと、うみのイルカさん?」「どうして名前…」
近づいてきた男が、ついと指を伸ばして胸の社員証をつついた。
慌てて掌で握り込んだイルカに、眠たそうな瞳がニコリと弓なりになる。
「こういうのは飲みながら話すほうが話しやすいでしょ」
「は……?」
「19時に、近くの酒々屋で待ち合わせしましょう。場所はわかりますよね?」
ふわりとビターオレンジににた苦い匂いが鼻先をくすぐる。
「は? なに言ってんだばーかっ! んなもん行くわけねぇだろっ!」
「しょうがないですねぇ。じゃあ、それまでこいつは預かっておきます」
強引にそう言って、男がすれ違いざまにイルカのポケットからスマホを盗み出す。
イルカの毛がぶわっと逆立った。
「ちょっ、ちょっと何すんだっ! この泥棒猿っ!!」
「泥棒とは人聞きが悪い」
灰毛の男がスマホを取り返そうとするイルカを交わしながらくるりと振り返る。
「カカシです。はたけカカシ」
手にした本は(よく見たら)眼を疑うようなあからさまなエロ本。
それをなんとも格好良く振った灰猿は、バチンと小気味いいウィンクだけを残して消えた。
これは、某MJRさんの「猿カカイルでオフィスラブ」という呟きにつられて書いたお話です。
途中まで書いたのですが、なんか違う……書き直しだっ!!!と、ボツにしたものをUPしています(貧乏性なもので)
「猿」でもいいよ!
未完でもドーンとこいっ!!
という心の広〜い方だけ↓へお進みください(・∀・)ノ
↓
↓
↓
コンクリートジャングル。
その呼び名の通り、ここには見渡すかぎりの緑もない。
緩やかな季節の移り変わりを感じることもなく、草花の香りや耳に馴染んだ川のせせらぎさえ聞こえることはない。
頬をなぜる風は冷たく切り裂くようで、その厳しさに首をすくめながらイルカは既に冷めてしまった缶コーヒーを喉の奥に流し込んだ。
カツン。放り投げた空き缶が、冷え冷えとした音をたててゴミ箱の中へと命中する。
「―――ストライークッ! ……なんてな」
なにか願掛けでもしておけばよかった、なんて思うこと自体が既に虚しい。
木の葉リゾート計画はイルカが以前から憧れていたプロジェクトだった。
就業後に何度も精査し練り直した計画書が通過したと上司から伝えられたときは、一瞬頭が真っ白になったぐらいだ。
嬉しかった。
これでやりたいことがやれる。そんな喜びで有頂天になっていたイルカに突きつけられたのは、他社から集められた一癖も二癖もある精鋭たちだった。
自らの未熟さを突きつけられたのは当然のこと、一介の平社員にしか過ぎないイルカの言葉など馬鹿にするばかりで耳を傾けてくれるはずもなし、あげる声は徐々に小さく誰の耳にも止まらなくなった。
四方八方ふさがりとはよく言ったもので、やることなすこと全てが裏目に出ているような気がした。
はぁ…と、重苦しいため息を付いてベンチから立ち上がる。
イルカがここでこうしていることなんて、彼らは誰一人として気づいてはいないだろう。
いないも同然の存在。
その事実が胸をぎゅっと締め付ける。
そのままノロノロと身体を引きずって手摺へと近づくと、真新しい塗装が施されたそれに指先を滑らせ、ゆっくりと握り込んだ。
外気にさらされた鉄柵の冷たさが身体の芯まで冷やしていくようで、イルカはコツンと鉄柵へと額をぶつけた。
眼下に広がる無機質なオフィス街は冷え冷えとしていて、まるでこの世に立った一人で取り残されたみたいな気分になる。
ここは、こんなにも寂しい。
もしこのビル群のはるか遠くまで見渡すことができたなら、懐かしく温かい場所が見られるかもしれないのに。
もう少し。
せめてもう少しだけ―――。
ブルリと毛並みを震わせて、イルカは手摺からぐいっと身体を乗り出した。
「そろそろ休憩時間だから、やめておいたほうがいいですよ」
ふわりと漂う香水の匂いが鼻先をくすぐったかと思えば、すぐさま風に乗って消えていく。
「下には昼食目当ての社員たちが一斉に出てくる頃でしょ? 上から突然猿が振ってきたなんてことになったら目も当てられない」
小さいけれど耳に響く甘い声色。例えば女だったら、耳元で優しく囁かれただけで腰砕けになるのではと想像してしまうほど。
そんな声の持ち主は、顔の上に伏せた本を持ち上げるとベンチに寝そべったまま軽くひらひらとさせてみせた。
「空きっ腹抱えた猿を道連れにするには寝覚めも悪いですしねぇ」
男が横たえていたベンチからのそりと身を起こす。ジャリッと革靴の底がアスファルトを擦る音。それがゆっくりと近づいてくる。
陽の光を浴びてキラキラ光る見事な灰毛を見た目にも高級だと分かるスーツで覆っている。袖の先まで計算され尽くしたシャツにはシワひとつない。スーツだって生地から選んだオーダーメイド品なのだろう。イルカが着ている専門店で3着いくらのものとは桁が違う品物だ。
そればかりじゃない。
視線の動きや身のこなしのそこここから男が只者ではないと窺い知れた。
この男には他を圧倒するなにかがある。
それがイルカの眼を釘付けにした。
「ま、それでも飛び降りるってんなら……」
汚れることも厭わず、鉄柵に背中を預けた男は手にした本を小脇に抱えながら瞳だけで微笑んでみせた。
整いすぎている顔というのは得てして冷たい印象を受けるものだが、笑うと少しだけ親しみが持てるような気がした。
知らず見惚れてしまっていることに気がづいて、イルカは慌てて視線をビル群へと戻した。
「……別に飛び降りるつもりなんてありませんよ」
「そ?」
「えぇ。あんたの勘違いです」
「なら良かった。思いつめた顔をしていたもんだから、てっきり」
「てっきり? 俺が自殺でもするんじゃないかと思って見守っていてくださっていたんですか?」
「まぁそんなとこですかね」
前言撤回。親しみが持てるなんてとんでもない。眼の前の男はただにこにことしているだけで、まるで掴みどころがなかった。
「おせっかいだな」
「ん~?」
「どこのどなたか存じ上げませんが、俺もまだまだ自分の命は惜しいんで。自殺なんて勿体無いことしませんから、ほうっておいてくれ」
本当は、飛び降りるつもりだったんじゃないか。
男に声をかけられなければ、いっそこのまま……なんてヤケになっていた自覚はあった。
「それだけ憎まれ口がきけるなら心配無用のようですねぇ」
「―――だからそう言っているだろっ!」
どうしてなのかわからないけれど、のんびりとした口調で話す男の姿に思わずムキになった。
言い捨てたイルカの言葉に、男の眼が一瞬だけ驚いたように見開かれる。
ふ、と口元だけで笑われて、サァッと顔に朱がさした。
真っ直ぐに自分を見つめてくる男に、心の底まで見透かされているような気がしていたたまれない。
何やってんだ、俺は。
見ず知らずの猿(多分エリート)相手に喧嘩を売るような真似をするなんて。
「なにかありましたか?」
「な、なにかって……」
「天気はいいし、爽やかな風は心地よく、街は活気に溢れている。投げた空き缶だって見事ゴミ箱に命中したっていうのに、お葬式みたいな顔して下を覗き込んでいるなんて、何かあったとしか思えないでしょ」
「あんたいつから見てたんだよ」
「最初からですねぇ」
「は? だってここには誰も――」
「気づかなかっただけじゃないですか?」
「そんなわけ……」
眉をしかめ、飄々とした態度でのたまう灰毛の猿を見やる。
これだけ圧倒的な気配を感じるのにまるで気がつかないなんて、それだけ俺が追い詰められていたということか。
「そんなに怖い顔しないでよ。オレはここでのーんびり惰眠を貪っていただけなんですから」
「チッ! どんだけお気楽なんだよ」
エリートだと思っていたけれど、就業中に昼寝とはどこぞのお偉いさんの縁故社員らしい。一気に態度も悪くなる。
「おや、手厳しい」
「こちとら血の汗流して働いて――……っ」
言ってから、それもすべて徒労に終わったと思うと一気に力が抜けた。
「……もうどうでもいいんですけど…」
言い捨てて後にしようとした時だった。
「いいわけないでしょう」
サラリと言われた言葉に振り返った。
「そんな顔されて、あぁそうですかって帰せるわけないじゃないですか」
「あ――、あんたには関係ねぇだろ」
高いスーツを身にまとって、仕事中に昼寝をしている身分の男に何がわかるものか。
「関係ないからこそ話しやすいと思うんですけど。えーっと、うみのイルカさん?」「どうして名前…」
近づいてきた男が、ついと指を伸ばして胸の社員証をつついた。
慌てて掌で握り込んだイルカに、眠たそうな瞳がニコリと弓なりになる。
「こういうのは飲みながら話すほうが話しやすいでしょ」
「は……?」
「19時に、近くの酒々屋で待ち合わせしましょう。場所はわかりますよね?」
ふわりとビターオレンジににた苦い匂いが鼻先をくすぐる。
「は? なに言ってんだばーかっ! んなもん行くわけねぇだろっ!」
「しょうがないですねぇ。じゃあ、それまでこいつは預かっておきます」
強引にそう言って、男がすれ違いざまにイルカのポケットからスマホを盗み出す。
イルカの毛がぶわっと逆立った。
「ちょっ、ちょっと何すんだっ! この泥棒猿っ!!」
「泥棒とは人聞きが悪い」
灰毛の男がスマホを取り返そうとするイルカを交わしながらくるりと振り返る。
「カカシです。はたけカカシ」
手にした本は(よく見たら)眼を疑うようなあからさまなエロ本。
それをなんとも格好良く振った灰猿は、バチンと小気味いいウィンクだけを残して消えた。
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