「あけましておめでとうございます!」
「うあー」
「あけましておめでとうございます。・・ご馳走ですね」
机の上に並べた料理を前に、サクヤにミルクを飲ませながらカカシが目をぱちぱちとさせた。
おせち料理が珍しいとも思えないが、嬉しそうに重箱を開ける姿につい顔も綻んでしまう。
アカデミーが終わって、怒涛の大掃除からのおせち作りだったけれどこんなに嬉しそうな顔をされると作った甲斐もあるってもんだ。
「雑煮のお餅は何個にしますか?」
「取り敢えず一個で。そういや雑煮って白味噌?」
「うちは代々すまし仕立てですけど・・、白味噌が良かったんですか?」
白味噌、白味噌・・買ってないな。
冷蔵庫の中身を頭のなかで確認してみたが、そもそも白味噌なんて使わないから入っているわけもない。
「いえ、オレも実は苦手で・・」
子供の頃はあの甘じょっぱい味が嫌でねぇ、などとカカシが頭を掻きながら苦笑する。
あぁ、懐かしい味なんだなと思ったら、何だが切なくなってしまった。
「俺、白味噌の雑煮って食ったことないんで」
「そうなの?」
「今度白味噌仕立てにしてみます」
「無理しなくていいよ」
「いーえ、取り敢えずなんでもチャレンジしてみろって、子供たちにも教えてるんで」
「フフッ。それ関係ないでしょ」
「食わず嫌いが一番いかんのです」
「・・・じゃあ、そうだね。来年は白味噌の雑煮にしましょう」
白味噌忘れないようにしなくちゃ、なんて二人で笑いあって熱々の雑煮とともに食卓に付いた。
改めて新年の挨拶を交わし、ぎっちり詰めた重箱をつつく。
黒豆、栗きんとん、田作り、伊達巻、数の子。
奮発した尾頭付きのエビは、お高いだけあって見た目にもゴージャスだ。
「雑煮も美味しいです」
「へへっ。すまし仕立てって簡単なんですけどね」
「そうなの? あー、餅が2つでも良かったな」
「あ、次は醤油に海苔巻いて食いますか」
「いいね。オレが用意するから先生は待ってて」
ほいっと腕に抱いていたサクヤを渡して、カカシが席を立つ。
年末恒例アカデミー主催の餅つき大会では、大量に餅が配られる。今までなら一人でこの量の餅をどうすれば良いのだろうと途方にくれていたのだが、今年はカカシが居る。二馬力ならなんとかなるだろう。
「先生、何個食べますか?」
「2個お願いします」
「きなこと砂糖も用意しましょうか?」
「良いですねっ! じゃあ3個でっ!」
「ははっ」
焼いた餅と醤油の香ばしい匂いが鼻腔を刺激する。
思わずもう一個と口にしそうになるのをなんとか我慢した。
ただでさえ、年末年始は暴飲暴食になりがちだ。太りやすいとは思っていないが、完璧な肉体を持つ恋人の前で恥ずかしい思いをしたくはない。
少し太めの方が可愛いと思いますよ。なんて、カカシは言うけれど、そこはイルカにもプライドってもんがあるのだ。
そんなことを考えている内に、カカシがうまい具合に膨れた餅をもって戻ってくる。
膨れて少し形が崩れた餅は、こんがりと焼き色がついてなんとも旨そうだ。
醤油に浸してくるりと海苔を巻き、口の中に頬張った。
「うまっ」
「最高だーね」
同じように頬張ったカカシが幸せそうに笑う。
「あうっ」
「んー、サクヤはまだ餅はちょっとな。喉詰まらせちまうぞ」
「やぁん」
「あいてっ!」
パチンと涎まみれの手で顎を叩かれた。
ミルクと離乳食を併用しているというのに、最近のサクヤは食欲魔神だ。
特にイルカが何かを食べていると、じっと口元を見つめてその小さな手を伸ばす。
「こーら、叩いたらいてぇだろ」
「やーのぉ」
「さっきミルク飲んだくせに、まったく・・」
「うややぁん」
「あー、泣いても餅はやらねぇぞ」
「あうっ」
「イテテッ」
イルカの腕の中で身体を反らせたサクヤが、足を踏ん張って結い上げていないイルカの髪を掴んだ。
ペタペタと頬を触っていたかと思うと、急に顔が近づいてくる。気がついたときには小さくて柔らかい唇が当たっていた。
「せんせっ!!」
「―――・・ッ!!」
べろりと口の端を舐められる感触と、派手な音をたてて何かが落ちる音がしたのは同時だった。
「んまー」
「サク・・――・・わっ! カカシさん! 餅・・と、醤油が溢れてますっ!!」
慌てて布巾を探そうと手を伸ばせば、あっという間に腕の中が空っぽになる。
「サクヤッ!!!」
「へっ?」
「なにやってんの、おまえっ!」
「うやーん」
見上げれば、鬼の形相の里の誉れと嘘泣きの我が子の姿。
サクヤを抱き上げるより机に溢れた醤油を拭いてくださいと、言いたいのに言えない緊張感にガックリ脱力して布巾を手に取った。
「先生にキ、キスして良いのはオレだけだって言ってるでしょうがっ!」
「いやぁん」
「泣いてすむと思ったら大間違いなんだからね」
「ぷー」
ちょっと唇についた醤油を舐められただけなのに大げさだな、と。
小さな水たまりになった机の上を拭きながら、まだまだ乳児の我が子相手に憤るカカシに呆れて二人を見上げた。
何にでも寛容なカカシだが、ことイルカに関してだけ言えばその懐は狭量だ。
このままでは埒が明かないと、睨み合ったままの二人を分かつべく立ち上がる。
「なにやってんですか」
「何ってサクヤを叱ってる最中です」
「そんなこと言ったって、いつもしてるもんなぁ、サク」
「あー」
「ちょっ! いつもってどういう・・」
「おっと危ない」
「あう」
ズルリとカカシの腕の中から落ちそうになったサクヤをキャッチして、やいやいと煩い恋人に向かって「内緒です」と微笑んだ。
「さ、餅がかたくなっちまいますよ。はやく食っちまいましょう」
「イルカ先生ッ!!」
「んまー」
カカシとサクヤと、そしてイルカ。
こんな細やかな日常の喧騒がただ嬉しくて、大切で、また懐かしくて。カカシが焼いてくれた餅を頬張りながら、この幸せな日常がいつまでも続きますようにと祈った。
「うあー」
「あけましておめでとうございます。・・ご馳走ですね」
机の上に並べた料理を前に、サクヤにミルクを飲ませながらカカシが目をぱちぱちとさせた。
おせち料理が珍しいとも思えないが、嬉しそうに重箱を開ける姿につい顔も綻んでしまう。
アカデミーが終わって、怒涛の大掃除からのおせち作りだったけれどこんなに嬉しそうな顔をされると作った甲斐もあるってもんだ。
「雑煮のお餅は何個にしますか?」
「取り敢えず一個で。そういや雑煮って白味噌?」
「うちは代々すまし仕立てですけど・・、白味噌が良かったんですか?」
白味噌、白味噌・・買ってないな。
冷蔵庫の中身を頭のなかで確認してみたが、そもそも白味噌なんて使わないから入っているわけもない。
「いえ、オレも実は苦手で・・」
子供の頃はあの甘じょっぱい味が嫌でねぇ、などとカカシが頭を掻きながら苦笑する。
あぁ、懐かしい味なんだなと思ったら、何だが切なくなってしまった。
「俺、白味噌の雑煮って食ったことないんで」
「そうなの?」
「今度白味噌仕立てにしてみます」
「無理しなくていいよ」
「いーえ、取り敢えずなんでもチャレンジしてみろって、子供たちにも教えてるんで」
「フフッ。それ関係ないでしょ」
「食わず嫌いが一番いかんのです」
「・・・じゃあ、そうだね。来年は白味噌の雑煮にしましょう」
白味噌忘れないようにしなくちゃ、なんて二人で笑いあって熱々の雑煮とともに食卓に付いた。
改めて新年の挨拶を交わし、ぎっちり詰めた重箱をつつく。
黒豆、栗きんとん、田作り、伊達巻、数の子。
奮発した尾頭付きのエビは、お高いだけあって見た目にもゴージャスだ。
「雑煮も美味しいです」
「へへっ。すまし仕立てって簡単なんですけどね」
「そうなの? あー、餅が2つでも良かったな」
「あ、次は醤油に海苔巻いて食いますか」
「いいね。オレが用意するから先生は待ってて」
ほいっと腕に抱いていたサクヤを渡して、カカシが席を立つ。
年末恒例アカデミー主催の餅つき大会では、大量に餅が配られる。今までなら一人でこの量の餅をどうすれば良いのだろうと途方にくれていたのだが、今年はカカシが居る。二馬力ならなんとかなるだろう。
「先生、何個食べますか?」
「2個お願いします」
「きなこと砂糖も用意しましょうか?」
「良いですねっ! じゃあ3個でっ!」
「ははっ」
焼いた餅と醤油の香ばしい匂いが鼻腔を刺激する。
思わずもう一個と口にしそうになるのをなんとか我慢した。
ただでさえ、年末年始は暴飲暴食になりがちだ。太りやすいとは思っていないが、完璧な肉体を持つ恋人の前で恥ずかしい思いをしたくはない。
少し太めの方が可愛いと思いますよ。なんて、カカシは言うけれど、そこはイルカにもプライドってもんがあるのだ。
そんなことを考えている内に、カカシがうまい具合に膨れた餅をもって戻ってくる。
膨れて少し形が崩れた餅は、こんがりと焼き色がついてなんとも旨そうだ。
醤油に浸してくるりと海苔を巻き、口の中に頬張った。
「うまっ」
「最高だーね」
同じように頬張ったカカシが幸せそうに笑う。
「あうっ」
「んー、サクヤはまだ餅はちょっとな。喉詰まらせちまうぞ」
「やぁん」
「あいてっ!」
パチンと涎まみれの手で顎を叩かれた。
ミルクと離乳食を併用しているというのに、最近のサクヤは食欲魔神だ。
特にイルカが何かを食べていると、じっと口元を見つめてその小さな手を伸ばす。
「こーら、叩いたらいてぇだろ」
「やーのぉ」
「さっきミルク飲んだくせに、まったく・・」
「うややぁん」
「あー、泣いても餅はやらねぇぞ」
「あうっ」
「イテテッ」
イルカの腕の中で身体を反らせたサクヤが、足を踏ん張って結い上げていないイルカの髪を掴んだ。
ペタペタと頬を触っていたかと思うと、急に顔が近づいてくる。気がついたときには小さくて柔らかい唇が当たっていた。
「せんせっ!!」
「―――・・ッ!!」
べろりと口の端を舐められる感触と、派手な音をたてて何かが落ちる音がしたのは同時だった。
「んまー」
「サク・・――・・わっ! カカシさん! 餅・・と、醤油が溢れてますっ!!」
慌てて布巾を探そうと手を伸ばせば、あっという間に腕の中が空っぽになる。
「サクヤッ!!!」
「へっ?」
「なにやってんの、おまえっ!」
「うやーん」
見上げれば、鬼の形相の里の誉れと嘘泣きの我が子の姿。
サクヤを抱き上げるより机に溢れた醤油を拭いてくださいと、言いたいのに言えない緊張感にガックリ脱力して布巾を手に取った。
「先生にキ、キスして良いのはオレだけだって言ってるでしょうがっ!」
「いやぁん」
「泣いてすむと思ったら大間違いなんだからね」
「ぷー」
ちょっと唇についた醤油を舐められただけなのに大げさだな、と。
小さな水たまりになった机の上を拭きながら、まだまだ乳児の我が子相手に憤るカカシに呆れて二人を見上げた。
何にでも寛容なカカシだが、ことイルカに関してだけ言えばその懐は狭量だ。
このままでは埒が明かないと、睨み合ったままの二人を分かつべく立ち上がる。
「なにやってんですか」
「何ってサクヤを叱ってる最中です」
「そんなこと言ったって、いつもしてるもんなぁ、サク」
「あー」
「ちょっ! いつもってどういう・・」
「おっと危ない」
「あう」
ズルリとカカシの腕の中から落ちそうになったサクヤをキャッチして、やいやいと煩い恋人に向かって「内緒です」と微笑んだ。
「さ、餅がかたくなっちまいますよ。はやく食っちまいましょう」
「イルカ先生ッ!!」
「んまー」
カカシとサクヤと、そしてイルカ。
こんな細やかな日常の喧騒がただ嬉しくて、大切で、また懐かしくて。カカシが焼いてくれた餅を頬張りながら、この幸せな日常がいつまでも続きますようにと祈った。
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