「カカシさんは、どうして俺なんかの贔屓なんどすか?」
「ん〜、どうしてだろうねぇ」
舞妓のおちょぼ口でも食べられるように、工夫された小さなサンドイッチを二切れ纏めて鷲掴む。
そのままあーんと開けた大きな口に、躊躇なく放り込んだ。咀嚼する姿がまるで頬袋をいっぱいに膨らませたリスみたいだ、なんて思っていたら、更にもう二切れ手に取ったイルカが不思議そうに小首をかしげた。
「くぁわってますよね〜」
「そうかな?」
「そ、ですよっ、ンングッ!!」
「あぁ、ちゃんと噛んで。お喋りは後から」
トントンと背中を叩いてやれば、胸を抑えたイルカがゴクリと喉を上下する。
「ぅはー、うま」
「うま、じゃないでしょ」
「美味しおす」
「ん」
きっと、こんなところを置屋の女将に見られたら大目玉を食うに違いない。舞妓を仕込むことにとかく厳しい千手綱手の顔を思い出し、クククと喉の奥で笑う。
ご飯食べと称して連れ出した贔屓のイルカは、花街ではそこそこ有名な舞妓らしくない舞妓だった。
言葉遣いや物腰が全てにおいて粗野とは言葉が悪いが、芸事に真面目にとりくんでいるハズなのに、何故だかいつもからまわりしている。要領が悪いと言ってしまえばそれまでなのだけれど、あけっぴろげな奔放さがなんとも憎めなくて目が離せなくなるのだ。
目をつけたのは見世出しの時から。高いおこぼについた鈴をチリチリと鳴らしながら挨拶に向かう姿は可憐な花のようなのに、その足元は皆が慌てて注意するほど大股だった。
丸石が敷き詰められた道ではよろけかけ、店前の小さな段差では足を踏み外して派手に転びそうになった。
『ヌォーーッ!!』なんて、およそ舞妓に相応しくない野太い声が出た時は笑っちゃったよね。
そんな姿を見かけて以来、事ある毎に座敷に呼んでは親交を深め、漸く二人きりのデートへと洒落込むことに成功したのだ。
こうるさい女将への挨拶にも誠心誠意心を砕き、こぎつけた初デートに心浮き立たないわけがない。
そういったわけで、今日のカカシは最高に機嫌が良かった。
「次はラーメンでも食べに行きますか」
「うぉっ」
「おや、キライでした?」
「大好物です、どす」
「よかった。今日はイルカさんが食べたい物を思いっきりご馳走しますよ」
ラーメン好きなのはリサーチ済み。
仕事のない時に通いつめているという一楽には、手を回して「本日貸切」の札をたてさせている。
だって二人きりの時間を邪魔されたくないじゃない。
「……うるさいな」
だからチラチラと店の外から見え隠れする手下の顔に、カカシはイルカに気づかれないように呟くとその酷薄な唇を歪めてみせた。
「カカシさん」
「ん?」
「ラーメンは、俺が奢ります」
最後のサンドイッチを一気に飲み込んだイルカが、やけに真剣な顔でそう口にする。
「何いってんの」
「奢られっぱなしは嫌ですから…どす」
舞妓に給料なんてものはない。可愛いカエルのがま口財布には、女将から貰った小遣いが少しばかり入ってるだけだ。
「イルカさんに腹いっぱいご馳走したいのは、オレの方なの」
だから気にしないでと、黙ったままこちらを見つめるイルカに向かって微笑みながら手を伸ばす。
「…くち、ついてるよ」
紅がさされた下唇の上を指先でゆっくりと辿り、口の端についた玉子を摘んで自らの指ごと口に含んだ。
「美味しいね」
「……すごく旨いです」
「ふふっ」
間接キスだなんて、まだおぼこい舞妓相手に何を青臭いことを、と。自らの浮かれっぷりが可笑しくて、カカシは思わず笑ってしまった。
「ん〜、どうしてだろうねぇ」
舞妓のおちょぼ口でも食べられるように、工夫された小さなサンドイッチを二切れ纏めて鷲掴む。
そのままあーんと開けた大きな口に、躊躇なく放り込んだ。咀嚼する姿がまるで頬袋をいっぱいに膨らませたリスみたいだ、なんて思っていたら、更にもう二切れ手に取ったイルカが不思議そうに小首をかしげた。
「くぁわってますよね〜」
「そうかな?」
「そ、ですよっ、ンングッ!!」
「あぁ、ちゃんと噛んで。お喋りは後から」
トントンと背中を叩いてやれば、胸を抑えたイルカがゴクリと喉を上下する。
「ぅはー、うま」
「うま、じゃないでしょ」
「美味しおす」
「ん」
きっと、こんなところを置屋の女将に見られたら大目玉を食うに違いない。舞妓を仕込むことにとかく厳しい千手綱手の顔を思い出し、クククと喉の奥で笑う。
ご飯食べと称して連れ出した贔屓のイルカは、花街ではそこそこ有名な舞妓らしくない舞妓だった。
言葉遣いや物腰が全てにおいて粗野とは言葉が悪いが、芸事に真面目にとりくんでいるハズなのに、何故だかいつもからまわりしている。要領が悪いと言ってしまえばそれまでなのだけれど、あけっぴろげな奔放さがなんとも憎めなくて目が離せなくなるのだ。
目をつけたのは見世出しの時から。高いおこぼについた鈴をチリチリと鳴らしながら挨拶に向かう姿は可憐な花のようなのに、その足元は皆が慌てて注意するほど大股だった。
丸石が敷き詰められた道ではよろけかけ、店前の小さな段差では足を踏み外して派手に転びそうになった。
『ヌォーーッ!!』なんて、およそ舞妓に相応しくない野太い声が出た時は笑っちゃったよね。
そんな姿を見かけて以来、事ある毎に座敷に呼んでは親交を深め、漸く二人きりのデートへと洒落込むことに成功したのだ。
こうるさい女将への挨拶にも誠心誠意心を砕き、こぎつけた初デートに心浮き立たないわけがない。
そういったわけで、今日のカカシは最高に機嫌が良かった。
「次はラーメンでも食べに行きますか」
「うぉっ」
「おや、キライでした?」
「大好物です、どす」
「よかった。今日はイルカさんが食べたい物を思いっきりご馳走しますよ」
ラーメン好きなのはリサーチ済み。
仕事のない時に通いつめているという一楽には、手を回して「本日貸切」の札をたてさせている。
だって二人きりの時間を邪魔されたくないじゃない。
「……うるさいな」
だからチラチラと店の外から見え隠れする手下の顔に、カカシはイルカに気づかれないように呟くとその酷薄な唇を歪めてみせた。
「カカシさん」
「ん?」
「ラーメンは、俺が奢ります」
最後のサンドイッチを一気に飲み込んだイルカが、やけに真剣な顔でそう口にする。
「何いってんの」
「奢られっぱなしは嫌ですから…どす」
舞妓に給料なんてものはない。可愛いカエルのがま口財布には、女将から貰った小遣いが少しばかり入ってるだけだ。
「イルカさんに腹いっぱいご馳走したいのは、オレの方なの」
だから気にしないでと、黙ったままこちらを見つめるイルカに向かって微笑みながら手を伸ばす。
「…くち、ついてるよ」
紅がさされた下唇の上を指先でゆっくりと辿り、口の端についた玉子を摘んで自らの指ごと口に含んだ。
「美味しいね」
「……すごく旨いです」
「ふふっ」
間接キスだなんて、まだおぼこい舞妓相手に何を青臭いことを、と。自らの浮かれっぷりが可笑しくて、カカシは思わず笑ってしまった。
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