受付の扉を開けてすぐさま飛び込んできた笑顔に、心臓が鷲掴みにされたような気持ちになる。
ドッドッドッという激しい心音を誤魔化すように平静を装って、さぁ行っといでとばかりに子供たちの背中を押した。
「イルカ先生ーッ!」
ナルトはもちろんのこと、いつもは斜に構えたサスケまでが立ち上がって迎え入れるイルカの元へと駆け出すから、カカシはあえてのんびりとした動作で後を追った。
「よぉ!」
おかえりと、両手を広げて満面の笑顔で受け入れるイルカのなんと眩しいことよ。
眩しさに思わず目を細めてしまうじゃないか。
「これっ!芋だってばよっ!」
机の上にどさりと置かれた大量の芋。その量に一瞬だけ目を見開いて。
「あ~、今日の任務は芋掘りだったか? お前らちゃーんと役に立ったんだろうな?」
「当然だ」
「畑の隅から隅までくまなく掘りましたよ~! ほら、見てくださいよ!」
綺麗に整えた爪が汚れたと訴えるサクラに、ガハハと笑って働くいい手だと褒めた。
「イルカ先生、焼き芋にしてくれってば」
「お? そうだな……ってかお前ら、それより先に出すもんがあるだろ?」
「うん?」
「ほら」
「これ、よろしくお願いします」
ニコニコ笑って手を出したイルカの前に、カカシが任務完了書を差し出す。
乱雑な文字で書類を提出する忍が多い中、芋掘り任務について一語一句丁寧に書き込んだ報告書だ。カカシさんの報告書はいつも完結で俺たち受付は処理しやすくて助かります、そう言われたことが更にカカシの報告書に対する情熱に火を注ぐことになったのはつい先日から。
「お疲れ様です、カカシさん。書類お預かりしますね」
「ん」
「カカッ先生は疲れてねぇってばよぉ」
「そうよ、ね、聞いてくださいよイルカ先生! カカシ先生ったら作業中ず──っと寝ていたんですよ」
「フンッ、いつものことだ」
「こーら、お前ら。上忍師の方にそんなこと言うんじゃねぇっ! すみません、俺の教育がなってなくて…」
「いえいえ、可愛いです」
あなたが。
小声でそう言って微笑むと、イルカが一瞬キョトンとした後、真っ赤になってあたふたと俯いた。
書類を確認するふりをしているが、隠しきれない赤い耳に口布の中で本当に可愛いなぁと声にしてしまう。
ますます赤面具合を深くしたイルカに、ナルトたちが不可解な表情で覗き込む。
褒められるのになれていないのか。
はたまた照れているだけなのか。
カカシに対する脈は感じるのに、なかなかなびいてくれないのがもどかしい。
でもそれがまた良いものなんだけれど。
深くなる脈拍が思わぬ快感で、さらに鼓動が速くなる。
目線の先で揺れるしっぽを弄びたい衝動にかられながら、カカシはイルカが報告書を確認し終わるのを待った。
「これだけありゃ焼き芋だけじゃ勿体ねぇな」
狭いシンクの上にスーパーの袋二つ分、目一杯詰め込まれた芋を前に、う~むと唸る。
そんな表情も可愛いなと目を細めた。
「スイートポテトなんてどうですか?」
「サクラ、そんなオシャレなもんを俺が作れると思うか?」
「思いませーん」
「だろ?」
「俺は焼き芋だけで十分だってばよ。明日の昼飯にもなるし」
「ナルト、お前はちゃんと飯を食え」
「だって面倒くさいってば」
「…ったくお前ってやつは。いいか、忍とは栄養のあるものを食って健康管理をしっかりしてこそ…」
「先生は人のこと言えないだろ」
「む、そんなことないぞ。俺は毎日ちゃんと自炊してだな」
「「「はいウソーッ!!」」」
子供たちからの総ツッコミに、バレたかと茶目っ気たっぷりな笑顔。
眩しい。
眩しすぎて直視できないくらいだ。
気を抜けば仰け反って天を仰いでしまいそうになる身体を努めて平静に保ちながら、カカシは4人の後に続く。
と、イルカが笑顔のまま振り返った。
「カカシさんは何かリクエストありますか?」
「え!?」
「といっても、大した料理は出来ませんが。あ、そうだ! 酒を呑むなら天ぷらなんてどうです? 旨いんですよね、さつまいもの天ぷ……」
「だめ!!!」
みなまで言わせずに振り返ったイルカの肩を掴んだ。
「うわっ!?」
「───天ぷらはダメ!」
「は……?」
笑えるくらい必死の形相。
別にカカシが食べなくても、食べ手はいくらでもいるというのに何をムキになっているのか。
「……えーっと、天ぷらはお嫌いでしたか?」
戸惑ったイルカの表情に、カカシがハッとして掴んでいた手を離した。
濡れているような真っ黒な瞳に覗き込まれて、思わず視線が彷徨ってしまう。瞳の中の宇宙に吸い込まれそうだと思うなんて、自分で恥ずかしくなる。
「え、えぇ…まぁ」
「あ──、好き嫌いはダメだってばよぉ。カカシ先生! 俺には口を酸っぱくして野菜を食えって言うくせに」
「オレは大人だからい~んだよ」
「そんなのずりぃってばよ」
「馬鹿が」
「こーら、サスケくん。先生に向かって馬鹿はないでしょ」
「馬鹿に馬鹿と言って何が悪い」
「サスケっ!! ったくお前らいいかげんにしろよ。育ち盛りは肉も野菜も満遍なく食っときゃ間違いねぇんだ」
「イルカ先生ったらまたそんな適当なこと言って」
「サクラもちゃんと食わなきゃ育つとこ育たねぇぞ」
「もうっ、サイッテー!! イルカ先生のセクハラっ!!」
ぷうっと膨れたサクラの髪をガハハと笑ってくしゃりと撫ぜる。
すいーとぽてと作ってやるから機嫌直せよ、なんてイルカが言えば、絶対失敗するくせにとサクラが悪態をつく。
「じゃあ、サクラが作ってくれよ。サスケも食べたいよなぁ?」
「サスケくんも!?」
「オレは別に…」
食べられればなんでも、なんて照れ隠しに口をとがらせたサスケにサクラが俄然やる気を見せる。
「サクラちゃんのすいーとぽてと、俺も食べたいってばよっ!」
「ナルトはいいのっ!!」
「ひでぇってばサクラちゃーん」
「アハハ、振られちまったな、ナルト」
吹き出したイルカがひとしきり笑った後、再びカカシに顔を向けた。
「天ぷらはやめて、ポテサラにしますね。ちょっと甘いけど旨いですよ」
「……ん」
「すぐ出来ますから、カカシさんは座って待っていてください」
その笑顔に。
とくり。
胸が大きく鼓動するのを感じる。
とくとくとく、と。早鐘みたいに心臓が激しく動き出す。
停滞していた血流が、足先から頭の天辺に向かって一気に流れ出すみたいに上昇して行くのを感じる。冷えた指先が温まっていくような感覚に、カカシはすこしばかり戸惑って自分の指先を見つめた。
「カカシさん?」
「…………」
覗き込まれると、不思議と胸が締め付けられる。
高まる胸の鼓動を知られたくなくて顔を背けようと思うのに、まるで魅入られたみたいに視線を動かせない。
「もしかして、ポテサラもお嫌いでしたか?」
「…え、あぁ、いや……」
「大丈夫ですよ。遠慮なく言ってくださっても」
嫌いなものを無理やり食べるほうが問題だからと解くイルカに───、
「ナスが好きです」
「は?」
思わず好物を口にしてしまって、口布の上を手で覆った。
「ギャハハハ! なに言ってんだってばカカッ先生!!」
「ウスラトンカチ」
「こ、こら、お前らっ!!」
すかさず突っ込んだナルトたちに、慌ててイルカが咎める声を出す。
あぁもう、全くもって調子が狂う。
上忍師だとか、上官だとか。そんな垣根も何もかも、この人の前じゃ全部吹き飛んでしまうじゃないか。
「ナス…、ナスですね。わかりましたっ」
振り返ったイルカの、任せておけと言わんばかりのポーズと子供たちの呆れ返った表情を交互にみやって。
そんなものはもう関係ないのではないかと思った。
*****
「意外と食べ切れるもんですねぇ」
「育ち盛りの食欲を見誤っていましたよ」
「先生だって良い食べっぷりだったけど?」
「いや~、俺はもう動けないくらい満腹ですって」
これじゃ忍者失格だ、なんて膨れた腹を擦りながらイルカが笑う。
子供たちが満たされた腹を抱えて帰っていくのを見送ったのはつい先程のこと。カカシが子供たちと一緒に帰らなかったのは、二人きりになれるチャンスを虎視眈々と狙っていたから。
そんなわけで、これからは大人の時間だからとばかりにカカシはちゃっかりと居間に腰を据えてしまっていた。
「カカシさん、ビールで良いですか?」
「ん~まだ酒が残っているからこのままで」
「じゃ、俺はビールで…ったく、あいつら見事に全部食い尽くしやがったなぁ」
空っぽになった冷蔵庫を覗いたイルカが、ビールを取り出してプルトップに指をかける。
ぷしゅりという空気が抜ける音。ほろ酔い加減のイルカが机にいくつも出来た水滴の輪染みを袖口で拭きつつ缶ビールに口をつける。
喉仏が上下させて流し込むと、ぷはぁという満足気な声。カカシは酒が入ったグラスを回しながらその姿に見入った。
「つまみでもと思うんですけど、流石にこれ以上は入んなくて」
「ビールは入るのに?」
「コレは別腹ってやつですよ」
「炭酸で腹が膨れちゃうでしょ」
「そういえばそうですよね!」
思い当たったとばかりに目を見開いたイルカに吹き出した。
さっきまで動けないとさすっていた腹をみやってイルカも笑い声を上げる。そんな笑顔も可愛いなぁと思っていたら、どうやら口に出していたようだ。イルカが神妙な顔に戻ってカカシの前で居住まいを正した。
「あの、カカシさん」
「なんですか、あらたまって」
「はっきりいいますけど、俺、可愛くなんてないですから」
「ん~、可愛いですよ?」
「いやいや。自分のことは自分が一番よくわかっています。もちろん卑下するつもりは毛頭ありませんが、俺は至って普通の男で、見てくれだって中の上…」
「いいますねぇ」
「それくらいは言わせてください」
頑固一徹とばかりに眉毛をきりりと持ち上げて断言したイルカにアハハと声を上げた。
「ま、可愛い可愛くないはこの際置いといて。オレは先生が風呂上がりにパンイチでビールかっくらってたら漢らしくて良いなと思うし、泥酔して玄関先で寝てしまってたら、敷きっぱなしの布団まで運んであげたいと思うくらいにはあなたを構いたくてしかたな…───」
「ちょっ、ちょっと待ってください! 一体どこの情報ですかそれ…!」
「わかるでしょ」
「……くっ、あいつら。と、とにかくですね、モテないとは言いませんが、同性に言い寄られたのは初めてです」
「そりゃ良かった」
「良かないですよっ!」
突っ込んだイルカが、勢い任せに残ったビールを流し込む。
汚れた袖口で口元を拭いて、何かを考え込むように黙り込んだ。
短い沈黙。それなのに耐えきれなかったのはイルカよりもカカシの方だった。知らず口元に苦笑が浮かぶ。
「……先生は、オレに好かれるのは迷惑ですか?」
「そうじゃなくて、そうじゃなくてですね」
じゃあ良いじゃない、そう言いかけてイルカの瞳に悔しそうな光が浮かんでいるのに気がついた。
残念だが、押し黙った相手の意図を読み取ってやれるほどカカシは人間が出来ていない。
幼い頃より切った張ったの世界で生きてきたのだ。子供と接する機会の多いイルカのように、人の心の機微に敏感ではないことを自覚していた。
「そうじゃなくて、なんです?」
だから聞き返したというのに、イルカは押し黙ったまま唇を僅かに歪ませるだけで。
いつもの明朗快活なイルカらしくもない。言いたいのに言い出せない、複雑な表情を浮かべたイルカの前に、傾けていたグラスを置いて進み出た。
「言いたくないなら構いませんけど」
「カカシさん……」
「オレはどうやらあなたに惚れているらしいので、迷惑だって言われても引き下がるつもりはありませんよ」
ダメ押しみたいなセリフにピクリと眉を跳ね上げたイルカが、ようやく「だから」と口にした。
「それがウソだって言うんです」
「ウソ?」
「そうですよ。カカシさんだって覚えているでしょう? あのくノ一のことを」
「そりゃ、まぁ」
カカシがこんな状態に陥ることになった元凶。
憤るどころか正直感謝したいぐらいなのだが、イルカはそうはいかないらしい。
「彼女がどこにいるか、調べさせてもらいました」
「おや、職権乱用なんて感心しませんねぇ」
「そこは目をつぶってください」
守秘義務ってなんだっけ。しれっと受け流したイルカに、カカシも笑って先を促した。
「今は里外任務中で、帰還には数週間かかるそうです」
へぇと気のない返事をしたカカシに、イルカが眦を釣り上げる。
「彼女が帰還するまで待っているわけにもいかんでしょう。ちゃんと、然るべきところで検査を受けるべきです」
「どうして?」
「どうしてって、いくらなんでもその状態はおかしいじゃないですか」
「ん~、オレは別に構やしませんけど」
乗り出してきたイルカの頬に指先をするりと滑らせる。ぎゃっと声を上げて尻もちをつきながら後ずさりをするのを追いかけた。
「ね、好きですよ」
サラリと口にした言葉に、イルカが泣きそうな顔をする。
真剣に取り合ってもらえないのはカカシの素行が悪いからか、はたまた。
「──そういうの、困るって言ってんじゃないですかっ」
「イルカ先生って、ほんっと強情ですよねぇ」
自意識過剰だと思われても構わないが、カカシがここまでして拒まれたことなんて一度もない。逃げれば逃げるほど追いかけたくなる本能を、イルカが計算しているのだとしたら大したタマだと思うけれど。
違うよねぇ。
本格的に弱りきった表情。だけどイルカだって実のところ意識しまくっているくせに。
アルコールの酔も重なって、染まった頬を更に紅潮させるのに含み笑いが漏れる。
強引に壁際まで追い詰めれば、逃げ場を探して視線を右へ左へと彷徨わせる。悪乗りしたカカシの前で、イルカが「だって」と吐き捨てるように言うのに首を傾げた。
「だって、なに?」
「……そんなの、薬のせいじゃねぇか……!」
「はい?」
全身で拒否していますとばかりに両腕で頭を覆い、立てた膝の間に顔を埋めてしまったイルカの前で、伸ばした指先が拳を握る。
あぁ、そうか。今までイルカが何度も分析だの検査だのと口うるさくカカシを説得してきた理由がストンと胸に落ちた。
「そんなことだったの」
堪らえようと思っても、知らず口元が緩んでしまう。
だってそうでしょ。薬のせいで気持ちを信じられないなんて、すでに告白を受け入れているも同然じゃない。
「そんなことってなんですかっ! 大事なことじゃないですか…」
「大事なこと、ですよねぇ」
「そうです」
寄せた眉と、強情そうに引き絞られた唇。今すぐその唇を押し開いて存分に味わいたいなんて言ったら、火に油を注ぐかもしれないけれど。
カカシの気持ちを推し量ろうとでも言うように、まっすぐ見つめてくる瞳の強さにめまいがしそうだ。
「フッ…、ハハッ」
堪えきれず漏れた笑い声に、イルカが目を吊り上げるのがわかる。追い詰めた壁際から逃れられる前に、カカシはイルカへと手を伸ばした。
「ね、先生」
「なんですかっ」
「あんな薬の作用なんて、とっくの昔に消えているって言ったらどうします?」
「……………は?」
カカシが告げた事実に、イルカが目を丸くする。
そんな表情すら心がときめくだなんて、カカシをよく知る者が見れば驚き呆れるだろうか。
「昔とった杵柄っていうんですかねぇ。薬物には随分と耐性がありまして、もうすっかり」
もちろんあのくノ一だって、すべて承知の上だ。でなければ嫌がらせで同胞に薬をぶっかけるなんて所業は本来許されるものじゃない。劇薬に毒薬、はては催淫剤まで網羅したカカシだからこそためらいもなく浴びせかけたのだ。
そう考えるとほんと性格悪いよね、アイツ。
そこに至った経緯を都合よく無視したカカシが、だけど、と唇に笑みを刷く。
まさか本当にカカシが恋に落ちるだなんて、あのくノ一も予想外だっただろう。
「い、いつから?」
そんなわけない。
断固として認めない頑固さも可愛くって仕方ないけれど、本当のことだから納得してもらわねば。
「ん~、その日の夕刻ぐらいですかねぇ」
「夕刻!? だってアンタその後も……っ」
贈り物や待ち伏せの数々を指摘されて、一笑した。
「そりゃ好きな相手に何かしてあげたいと思うのは当然でしょ」
しらっと答えたカカシに、イルカが目を白黒させて口の中でなにやらごちゃごちゃと呟いている。
「そんなバカな」や、「信じられない」なんて困惑しきった言葉が聞き取れて、堪えきれず口布を引き下ろした。その瞬間イルカが身体を震わせて目をそらすのに、もしかしたらという思いが確信に変わる。
「オレもねぇ、ちょっとは疑ってみたんですよ。なんてったって先生は男だし、それ以前にいい友人でもありましたし」
こんな言葉に同感してもらいたくはないけれど、イルカがこくこくと頷いて見せる。
だけど騙されてなんてやらないよ、と心の中で呟いてみせる。
取っ掛かりは顔だって構わない。
何しろ女との別れ話に仕込針で脅して協力させるような性根の悪さを自覚しているカカシだから、好ましく思ってもらえる部分があるというだけで御の字なのだ。
それが顔だっていうのはなんだか切ないけれど。
今はそれにすら縋りたい気分だ。
「あの薬は単なる惚れ薬ってわけじゃありません」
「………」
「ましてはオレみたいな耐毒訓練を受けた忍には、その気がなければ発動すらしないでしょう」
「……その気…?」
「ええ」
彼女はあの日、カカシの気持ちを確かめるために薬を用意したのだ。
もし自分に少しでも気持ちがあるのなら、もう一度やり直せるのではと期待して。
結果として、(自分でも気づかなかった思いというのをカカシに自覚させてしまった時点で)彼女の企みは失敗してしまったわけだが、カカシにとってはまさに僥倖。
狂おしくすらある感情の波に、まさか己が他人をこんなに愛しいと思う日が来るなんてと感動すら覚えてしまう。
「あの……その気って、本当に俺のこと……?」
カカシの言葉の意味を探ろうと、目をそらさずに見つめてくる真摯な瞳がある。
それは不安と期待に揺らめいているけれど、不快さをたたえていないことに心底安堵して。
好きですよ。という告白に、初めて告げたときの戸惑いとは別の喜色を見つけて小躍りしたい気分になった。
きっかけが、たとえ薬や見てくれでも。
天から一直線に落ちてきた稲妻は、迷うことなく二人の胸を貫いた。
────それは、恋という名の狂おしい電撃となって。
ドッドッドッという激しい心音を誤魔化すように平静を装って、さぁ行っといでとばかりに子供たちの背中を押した。
「イルカ先生ーッ!」
ナルトはもちろんのこと、いつもは斜に構えたサスケまでが立ち上がって迎え入れるイルカの元へと駆け出すから、カカシはあえてのんびりとした動作で後を追った。
「よぉ!」
おかえりと、両手を広げて満面の笑顔で受け入れるイルカのなんと眩しいことよ。
眩しさに思わず目を細めてしまうじゃないか。
「これっ!芋だってばよっ!」
机の上にどさりと置かれた大量の芋。その量に一瞬だけ目を見開いて。
「あ~、今日の任務は芋掘りだったか? お前らちゃーんと役に立ったんだろうな?」
「当然だ」
「畑の隅から隅までくまなく掘りましたよ~! ほら、見てくださいよ!」
綺麗に整えた爪が汚れたと訴えるサクラに、ガハハと笑って働くいい手だと褒めた。
「イルカ先生、焼き芋にしてくれってば」
「お? そうだな……ってかお前ら、それより先に出すもんがあるだろ?」
「うん?」
「ほら」
「これ、よろしくお願いします」
ニコニコ笑って手を出したイルカの前に、カカシが任務完了書を差し出す。
乱雑な文字で書類を提出する忍が多い中、芋掘り任務について一語一句丁寧に書き込んだ報告書だ。カカシさんの報告書はいつも完結で俺たち受付は処理しやすくて助かります、そう言われたことが更にカカシの報告書に対する情熱に火を注ぐことになったのはつい先日から。
「お疲れ様です、カカシさん。書類お預かりしますね」
「ん」
「カカッ先生は疲れてねぇってばよぉ」
「そうよ、ね、聞いてくださいよイルカ先生! カカシ先生ったら作業中ず──っと寝ていたんですよ」
「フンッ、いつものことだ」
「こーら、お前ら。上忍師の方にそんなこと言うんじゃねぇっ! すみません、俺の教育がなってなくて…」
「いえいえ、可愛いです」
あなたが。
小声でそう言って微笑むと、イルカが一瞬キョトンとした後、真っ赤になってあたふたと俯いた。
書類を確認するふりをしているが、隠しきれない赤い耳に口布の中で本当に可愛いなぁと声にしてしまう。
ますます赤面具合を深くしたイルカに、ナルトたちが不可解な表情で覗き込む。
褒められるのになれていないのか。
はたまた照れているだけなのか。
カカシに対する脈は感じるのに、なかなかなびいてくれないのがもどかしい。
でもそれがまた良いものなんだけれど。
深くなる脈拍が思わぬ快感で、さらに鼓動が速くなる。
目線の先で揺れるしっぽを弄びたい衝動にかられながら、カカシはイルカが報告書を確認し終わるのを待った。
「これだけありゃ焼き芋だけじゃ勿体ねぇな」
狭いシンクの上にスーパーの袋二つ分、目一杯詰め込まれた芋を前に、う~むと唸る。
そんな表情も可愛いなと目を細めた。
「スイートポテトなんてどうですか?」
「サクラ、そんなオシャレなもんを俺が作れると思うか?」
「思いませーん」
「だろ?」
「俺は焼き芋だけで十分だってばよ。明日の昼飯にもなるし」
「ナルト、お前はちゃんと飯を食え」
「だって面倒くさいってば」
「…ったくお前ってやつは。いいか、忍とは栄養のあるものを食って健康管理をしっかりしてこそ…」
「先生は人のこと言えないだろ」
「む、そんなことないぞ。俺は毎日ちゃんと自炊してだな」
「「「はいウソーッ!!」」」
子供たちからの総ツッコミに、バレたかと茶目っ気たっぷりな笑顔。
眩しい。
眩しすぎて直視できないくらいだ。
気を抜けば仰け反って天を仰いでしまいそうになる身体を努めて平静に保ちながら、カカシは4人の後に続く。
と、イルカが笑顔のまま振り返った。
「カカシさんは何かリクエストありますか?」
「え!?」
「といっても、大した料理は出来ませんが。あ、そうだ! 酒を呑むなら天ぷらなんてどうです? 旨いんですよね、さつまいもの天ぷ……」
「だめ!!!」
みなまで言わせずに振り返ったイルカの肩を掴んだ。
「うわっ!?」
「───天ぷらはダメ!」
「は……?」
笑えるくらい必死の形相。
別にカカシが食べなくても、食べ手はいくらでもいるというのに何をムキになっているのか。
「……えーっと、天ぷらはお嫌いでしたか?」
戸惑ったイルカの表情に、カカシがハッとして掴んでいた手を離した。
濡れているような真っ黒な瞳に覗き込まれて、思わず視線が彷徨ってしまう。瞳の中の宇宙に吸い込まれそうだと思うなんて、自分で恥ずかしくなる。
「え、えぇ…まぁ」
「あ──、好き嫌いはダメだってばよぉ。カカシ先生! 俺には口を酸っぱくして野菜を食えって言うくせに」
「オレは大人だからい~んだよ」
「そんなのずりぃってばよ」
「馬鹿が」
「こーら、サスケくん。先生に向かって馬鹿はないでしょ」
「馬鹿に馬鹿と言って何が悪い」
「サスケっ!! ったくお前らいいかげんにしろよ。育ち盛りは肉も野菜も満遍なく食っときゃ間違いねぇんだ」
「イルカ先生ったらまたそんな適当なこと言って」
「サクラもちゃんと食わなきゃ育つとこ育たねぇぞ」
「もうっ、サイッテー!! イルカ先生のセクハラっ!!」
ぷうっと膨れたサクラの髪をガハハと笑ってくしゃりと撫ぜる。
すいーとぽてと作ってやるから機嫌直せよ、なんてイルカが言えば、絶対失敗するくせにとサクラが悪態をつく。
「じゃあ、サクラが作ってくれよ。サスケも食べたいよなぁ?」
「サスケくんも!?」
「オレは別に…」
食べられればなんでも、なんて照れ隠しに口をとがらせたサスケにサクラが俄然やる気を見せる。
「サクラちゃんのすいーとぽてと、俺も食べたいってばよっ!」
「ナルトはいいのっ!!」
「ひでぇってばサクラちゃーん」
「アハハ、振られちまったな、ナルト」
吹き出したイルカがひとしきり笑った後、再びカカシに顔を向けた。
「天ぷらはやめて、ポテサラにしますね。ちょっと甘いけど旨いですよ」
「……ん」
「すぐ出来ますから、カカシさんは座って待っていてください」
その笑顔に。
とくり。
胸が大きく鼓動するのを感じる。
とくとくとく、と。早鐘みたいに心臓が激しく動き出す。
停滞していた血流が、足先から頭の天辺に向かって一気に流れ出すみたいに上昇して行くのを感じる。冷えた指先が温まっていくような感覚に、カカシはすこしばかり戸惑って自分の指先を見つめた。
「カカシさん?」
「…………」
覗き込まれると、不思議と胸が締め付けられる。
高まる胸の鼓動を知られたくなくて顔を背けようと思うのに、まるで魅入られたみたいに視線を動かせない。
「もしかして、ポテサラもお嫌いでしたか?」
「…え、あぁ、いや……」
「大丈夫ですよ。遠慮なく言ってくださっても」
嫌いなものを無理やり食べるほうが問題だからと解くイルカに───、
「ナスが好きです」
「は?」
思わず好物を口にしてしまって、口布の上を手で覆った。
「ギャハハハ! なに言ってんだってばカカッ先生!!」
「ウスラトンカチ」
「こ、こら、お前らっ!!」
すかさず突っ込んだナルトたちに、慌ててイルカが咎める声を出す。
あぁもう、全くもって調子が狂う。
上忍師だとか、上官だとか。そんな垣根も何もかも、この人の前じゃ全部吹き飛んでしまうじゃないか。
「ナス…、ナスですね。わかりましたっ」
振り返ったイルカの、任せておけと言わんばかりのポーズと子供たちの呆れ返った表情を交互にみやって。
そんなものはもう関係ないのではないかと思った。
*****
「意外と食べ切れるもんですねぇ」
「育ち盛りの食欲を見誤っていましたよ」
「先生だって良い食べっぷりだったけど?」
「いや~、俺はもう動けないくらい満腹ですって」
これじゃ忍者失格だ、なんて膨れた腹を擦りながらイルカが笑う。
子供たちが満たされた腹を抱えて帰っていくのを見送ったのはつい先程のこと。カカシが子供たちと一緒に帰らなかったのは、二人きりになれるチャンスを虎視眈々と狙っていたから。
そんなわけで、これからは大人の時間だからとばかりにカカシはちゃっかりと居間に腰を据えてしまっていた。
「カカシさん、ビールで良いですか?」
「ん~まだ酒が残っているからこのままで」
「じゃ、俺はビールで…ったく、あいつら見事に全部食い尽くしやがったなぁ」
空っぽになった冷蔵庫を覗いたイルカが、ビールを取り出してプルトップに指をかける。
ぷしゅりという空気が抜ける音。ほろ酔い加減のイルカが机にいくつも出来た水滴の輪染みを袖口で拭きつつ缶ビールに口をつける。
喉仏が上下させて流し込むと、ぷはぁという満足気な声。カカシは酒が入ったグラスを回しながらその姿に見入った。
「つまみでもと思うんですけど、流石にこれ以上は入んなくて」
「ビールは入るのに?」
「コレは別腹ってやつですよ」
「炭酸で腹が膨れちゃうでしょ」
「そういえばそうですよね!」
思い当たったとばかりに目を見開いたイルカに吹き出した。
さっきまで動けないとさすっていた腹をみやってイルカも笑い声を上げる。そんな笑顔も可愛いなぁと思っていたら、どうやら口に出していたようだ。イルカが神妙な顔に戻ってカカシの前で居住まいを正した。
「あの、カカシさん」
「なんですか、あらたまって」
「はっきりいいますけど、俺、可愛くなんてないですから」
「ん~、可愛いですよ?」
「いやいや。自分のことは自分が一番よくわかっています。もちろん卑下するつもりは毛頭ありませんが、俺は至って普通の男で、見てくれだって中の上…」
「いいますねぇ」
「それくらいは言わせてください」
頑固一徹とばかりに眉毛をきりりと持ち上げて断言したイルカにアハハと声を上げた。
「ま、可愛い可愛くないはこの際置いといて。オレは先生が風呂上がりにパンイチでビールかっくらってたら漢らしくて良いなと思うし、泥酔して玄関先で寝てしまってたら、敷きっぱなしの布団まで運んであげたいと思うくらいにはあなたを構いたくてしかたな…───」
「ちょっ、ちょっと待ってください! 一体どこの情報ですかそれ…!」
「わかるでしょ」
「……くっ、あいつら。と、とにかくですね、モテないとは言いませんが、同性に言い寄られたのは初めてです」
「そりゃ良かった」
「良かないですよっ!」
突っ込んだイルカが、勢い任せに残ったビールを流し込む。
汚れた袖口で口元を拭いて、何かを考え込むように黙り込んだ。
短い沈黙。それなのに耐えきれなかったのはイルカよりもカカシの方だった。知らず口元に苦笑が浮かぶ。
「……先生は、オレに好かれるのは迷惑ですか?」
「そうじゃなくて、そうじゃなくてですね」
じゃあ良いじゃない、そう言いかけてイルカの瞳に悔しそうな光が浮かんでいるのに気がついた。
残念だが、押し黙った相手の意図を読み取ってやれるほどカカシは人間が出来ていない。
幼い頃より切った張ったの世界で生きてきたのだ。子供と接する機会の多いイルカのように、人の心の機微に敏感ではないことを自覚していた。
「そうじゃなくて、なんです?」
だから聞き返したというのに、イルカは押し黙ったまま唇を僅かに歪ませるだけで。
いつもの明朗快活なイルカらしくもない。言いたいのに言い出せない、複雑な表情を浮かべたイルカの前に、傾けていたグラスを置いて進み出た。
「言いたくないなら構いませんけど」
「カカシさん……」
「オレはどうやらあなたに惚れているらしいので、迷惑だって言われても引き下がるつもりはありませんよ」
ダメ押しみたいなセリフにピクリと眉を跳ね上げたイルカが、ようやく「だから」と口にした。
「それがウソだって言うんです」
「ウソ?」
「そうですよ。カカシさんだって覚えているでしょう? あのくノ一のことを」
「そりゃ、まぁ」
カカシがこんな状態に陥ることになった元凶。
憤るどころか正直感謝したいぐらいなのだが、イルカはそうはいかないらしい。
「彼女がどこにいるか、調べさせてもらいました」
「おや、職権乱用なんて感心しませんねぇ」
「そこは目をつぶってください」
守秘義務ってなんだっけ。しれっと受け流したイルカに、カカシも笑って先を促した。
「今は里外任務中で、帰還には数週間かかるそうです」
へぇと気のない返事をしたカカシに、イルカが眦を釣り上げる。
「彼女が帰還するまで待っているわけにもいかんでしょう。ちゃんと、然るべきところで検査を受けるべきです」
「どうして?」
「どうしてって、いくらなんでもその状態はおかしいじゃないですか」
「ん~、オレは別に構やしませんけど」
乗り出してきたイルカの頬に指先をするりと滑らせる。ぎゃっと声を上げて尻もちをつきながら後ずさりをするのを追いかけた。
「ね、好きですよ」
サラリと口にした言葉に、イルカが泣きそうな顔をする。
真剣に取り合ってもらえないのはカカシの素行が悪いからか、はたまた。
「──そういうの、困るって言ってんじゃないですかっ」
「イルカ先生って、ほんっと強情ですよねぇ」
自意識過剰だと思われても構わないが、カカシがここまでして拒まれたことなんて一度もない。逃げれば逃げるほど追いかけたくなる本能を、イルカが計算しているのだとしたら大したタマだと思うけれど。
違うよねぇ。
本格的に弱りきった表情。だけどイルカだって実のところ意識しまくっているくせに。
アルコールの酔も重なって、染まった頬を更に紅潮させるのに含み笑いが漏れる。
強引に壁際まで追い詰めれば、逃げ場を探して視線を右へ左へと彷徨わせる。悪乗りしたカカシの前で、イルカが「だって」と吐き捨てるように言うのに首を傾げた。
「だって、なに?」
「……そんなの、薬のせいじゃねぇか……!」
「はい?」
全身で拒否していますとばかりに両腕で頭を覆い、立てた膝の間に顔を埋めてしまったイルカの前で、伸ばした指先が拳を握る。
あぁ、そうか。今までイルカが何度も分析だの検査だのと口うるさくカカシを説得してきた理由がストンと胸に落ちた。
「そんなことだったの」
堪らえようと思っても、知らず口元が緩んでしまう。
だってそうでしょ。薬のせいで気持ちを信じられないなんて、すでに告白を受け入れているも同然じゃない。
「そんなことってなんですかっ! 大事なことじゃないですか…」
「大事なこと、ですよねぇ」
「そうです」
寄せた眉と、強情そうに引き絞られた唇。今すぐその唇を押し開いて存分に味わいたいなんて言ったら、火に油を注ぐかもしれないけれど。
カカシの気持ちを推し量ろうとでも言うように、まっすぐ見つめてくる瞳の強さにめまいがしそうだ。
「フッ…、ハハッ」
堪えきれず漏れた笑い声に、イルカが目を吊り上げるのがわかる。追い詰めた壁際から逃れられる前に、カカシはイルカへと手を伸ばした。
「ね、先生」
「なんですかっ」
「あんな薬の作用なんて、とっくの昔に消えているって言ったらどうします?」
「……………は?」
カカシが告げた事実に、イルカが目を丸くする。
そんな表情すら心がときめくだなんて、カカシをよく知る者が見れば驚き呆れるだろうか。
「昔とった杵柄っていうんですかねぇ。薬物には随分と耐性がありまして、もうすっかり」
もちろんあのくノ一だって、すべて承知の上だ。でなければ嫌がらせで同胞に薬をぶっかけるなんて所業は本来許されるものじゃない。劇薬に毒薬、はては催淫剤まで網羅したカカシだからこそためらいもなく浴びせかけたのだ。
そう考えるとほんと性格悪いよね、アイツ。
そこに至った経緯を都合よく無視したカカシが、だけど、と唇に笑みを刷く。
まさか本当にカカシが恋に落ちるだなんて、あのくノ一も予想外だっただろう。
「い、いつから?」
そんなわけない。
断固として認めない頑固さも可愛くって仕方ないけれど、本当のことだから納得してもらわねば。
「ん~、その日の夕刻ぐらいですかねぇ」
「夕刻!? だってアンタその後も……っ」
贈り物や待ち伏せの数々を指摘されて、一笑した。
「そりゃ好きな相手に何かしてあげたいと思うのは当然でしょ」
しらっと答えたカカシに、イルカが目を白黒させて口の中でなにやらごちゃごちゃと呟いている。
「そんなバカな」や、「信じられない」なんて困惑しきった言葉が聞き取れて、堪えきれず口布を引き下ろした。その瞬間イルカが身体を震わせて目をそらすのに、もしかしたらという思いが確信に変わる。
「オレもねぇ、ちょっとは疑ってみたんですよ。なんてったって先生は男だし、それ以前にいい友人でもありましたし」
こんな言葉に同感してもらいたくはないけれど、イルカがこくこくと頷いて見せる。
だけど騙されてなんてやらないよ、と心の中で呟いてみせる。
取っ掛かりは顔だって構わない。
何しろ女との別れ話に仕込針で脅して協力させるような性根の悪さを自覚しているカカシだから、好ましく思ってもらえる部分があるというだけで御の字なのだ。
それが顔だっていうのはなんだか切ないけれど。
今はそれにすら縋りたい気分だ。
「あの薬は単なる惚れ薬ってわけじゃありません」
「………」
「ましてはオレみたいな耐毒訓練を受けた忍には、その気がなければ発動すらしないでしょう」
「……その気…?」
「ええ」
彼女はあの日、カカシの気持ちを確かめるために薬を用意したのだ。
もし自分に少しでも気持ちがあるのなら、もう一度やり直せるのではと期待して。
結果として、(自分でも気づかなかった思いというのをカカシに自覚させてしまった時点で)彼女の企みは失敗してしまったわけだが、カカシにとってはまさに僥倖。
狂おしくすらある感情の波に、まさか己が他人をこんなに愛しいと思う日が来るなんてと感動すら覚えてしまう。
「あの……その気って、本当に俺のこと……?」
カカシの言葉の意味を探ろうと、目をそらさずに見つめてくる真摯な瞳がある。
それは不安と期待に揺らめいているけれど、不快さをたたえていないことに心底安堵して。
好きですよ。という告白に、初めて告げたときの戸惑いとは別の喜色を見つけて小躍りしたい気分になった。
きっかけが、たとえ薬や見てくれでも。
天から一直線に落ちてきた稲妻は、迷うことなく二人の胸を貫いた。
────それは、恋という名の狂おしい電撃となって。
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