ガサゴソと隣で動く気配に、悲しいかな忍びの習性で眼が覚めた。
気配の主といえば、寝付けないのか何度もごろりごろりと寝返りをうっていたが、とうとう諦めたらしい。
一応は気を使ってくれているのか、慎重に起き上がったと思ったら聞こえてくるのはなんとも悩ましげな溜息。
イルカがこっそりだがこちらを伺っているのがわかる。

「はぁ・・」

再び聞こえた溜息にも気づかないふりで、カカシは狸寝入りを続行することにした。
暫くの沈黙の後、スプリングの軋む音とともにイルカがこちらへ顔を寄せる気配を感じる。
首筋に鼻先がつくほどの距離。躊躇った後に思い切り息が吸い込まれた。

「・・・っ!」

吸えば当然のことながら吐かれるわけで、ふがふがと匂いを嗅がれる度にゾクゾクとしたこそばゆさが腰のあたりから駆け上がってくる。
なんともむず痒いような感覚に必死で耐えながら、一心不乱に匂いを嗅いでいるイルカに気づかれぬようにカカシは奥歯を噛み締めて耐えた。
オメガの習性なのだろうか? 発情期前になると、どういうわけかイルカは番であるカカシの匂いを嗅ぎたがる。
力いっぱい吸い込んでは吐き出す。それを満足するまで繰り返すので、はっきり言ってカカシのほうはたまったもんじゃない。
こそばゆいのは勿論のこと、その度にかかるイルカの熱っぽい呼気と甘い匂いに危うく反応をしてしまいそうな自身を宥めるのに必死なのである。
一度我慢をしきれず、匂いを嗅いでいる最中のイルカに襲いかかったところ、吃驚しすぎたイルカがベッドから転がり落ち、その後暫く布団に包まったまま出てこなくなった。それどころか拗ねて数日口もきいてくれない始末。
発情期が来たらそんなものお構いなしに仲直りしてしまうのだけど、あれは本当にまいったよねぇ。
クククッ。必死に匂いを嗅いでいるイルカに気づかれないように、喉の奥でほくそ笑む。
しかしこの行動がイルカにとって、「カカシには気づいてほしくない習性」なのだとわかってからは、カカシは必死になって知らぬふりを決め込んでいるのである。
あぁ、でも辛いな。
番にとって、匂いを嗅ぐ嗅がれるという行為は求愛の印でもある。
しかもいつもは性の匂いなどさっぱり感じない、良く言えばあっけらかんとしたイルカからの求愛である。
いくら我慢強いことに定評があるカカシでも、忍耐に限界があるのは事実。
発情期の営みが周期を追う毎に激しくなるのは、コレが起因しているのはまず間違いがないだろう。
あと数日かな。
兆してしまう自身を宥めるため、イルカの発情期を指折り数えて計算し、頭のなかで任務の調整をする。
指名任務だけはどうしようもないが、後は信頼できる後輩に振り分けてしまえと思った時。

「・・は、ふぅ」

悦にいったようなイルカの声に、一気に現実に引き戻された。

「・・・・?」

いつもなら、満足すればそのまま寝入ってしまうイルカだ。
それが今日はなぜだかそのままカカシの寝顔を見つめている。
なんだ?
チラリと薄めを開けてイルカの様子を確認しようとした時。

「良い匂いだな、カカシ」
「・・・ッ!!」

―――吹き出すかと思った。
カカシの声色を真似て囁かれた言葉に、布団の中で自分の太ももを思い切り抓りあげて笑い声を上げるのを必死で耐える。

「・・なーんてなっ! 何言ってんだよ俺っ! うわーっ!!」

自分で言って照れた様子のイルカが、シーツの上をゴロゴロと転がるのを上忍の忍耐力を総動員して押さえ込んだ。
何なのこの人。
信じられない。
混乱の極みのカカシをよそに、満足しきったイルカが脇腹に顔を埋め、寝る体制に入る。
瞬間聞こえてきた寝息に張りつめたままの息を吐きだして。

「も、可愛すぎて死にそう」

片脇にイルカを抱えたまま天を仰いだ。
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