ローストチキンとケーキ。

「サラダは簡単なものを作ればいいとして、・・・あとはキャンドルとか?」

いや、キャンドルはねぇな。
閉店間際の木の葉スーパーは、ケーキだって叩き売りである。
なにも安くなったからって買うわけではない。
いつも以上に押した受付業務が就業時間を大幅にオーバーし、スーパーの閉店間際に駆け込むことになったのだ。
けして狙っていたわけじゃないぞ。
そう自分に言い聞かせて、袋の中の照り照りしたチキンを見やる。
いつもならクリスマスなんて祝わない。
カカシはそういうことに全く興味が無いし、イルカだって家族でクリスマスを祝ったのは両親が健在だった子供の頃だけだ。
それでもナルトやサクラ達がまだアカデミーの生徒だった頃は、狭いアパートの部屋を解放してクリスマスパーティなんかを開催したものだが、最近は子供たちも大きくなって、気の合う仲間達と記念日を過ごしている。

「・・・・・」

寂しいわけではないが、なんだか取り残された気分になるのもまた確かだ。
だからだろうか。
きらびやかなクリスマスのディスプレイに彩られたケーキやチキンに手を伸ばしてしまったのは。

「今日はそんなに高いランクの任務じゃなかったはずだけど・・・」

両手に持った袋の中身を見ながら呟く。
この時期に里にいるのが珍しくて、受付特権で探した依頼書を思い出す。
Cランク。
カカシ程の忍びなら、難なくこなす任務だ。

「大丈夫、だよな」

任務に絶対はない。下忍の子供たちにも口を酸っぱくしていつも言っている言葉だ。
ランクが低いから簡単だと一概にそう決めつけることが一番危険なのだが、何故かカカシなら大丈夫だと、つい思ってしまう。
それはその実績と実力をかねた評価だったが、それはすなわちそれだけ過酷な任務を彼がこなしてきたという事にほかならない。

「ーーー・・・っ」

きゅっと口元を引き締めて、眉をしかめる。
今でこそ飄々とした態度で接するカカシだが、暗部に在籍していた頃はイルカでさえも近寄りがたい雰囲気を纏っていた。
今だって偶にそんな時があることを知っているから、胸が痛むのだ。
イルカがただ両親の腕の中で笑っていた頃、すでにカカシはその手を血に染めていた。
大人になった今でさえ、カカシはイルカを守ろうと必死なのだ。
そう思うだけで、鼻の奥がツンとする。

「俺だって、守りたいのに」

そう口にすれば、手にした袋がカサリと鳴った。
クリスマスなんて。
きっとカカシは喜ばない。
甘いもの好きじゃないし、どちらかというとローストチキンなんかよりサンマ定食が好きだ。
だけど、今日ぐらいは皆と一緒の楽しみを味わったって良いじゃないか。

「食わなきゃ俺が全部食えばいい話だよな」
「何が?」
「わっ!」

よしっと顔をあげれば、眼の前で笑う怪しい風貌の男。
外套の下にみえる顔は片目意外全部隠れてるし、その上からマフラーまで巻いての完全防備だ。

「カカシッ!」
「待ってても全然帰ってこないから迎えに来たよ。・・買い物?」

袋に手を引っ掛けて覗きこむ顔が破顔する。

「へぇ・・。チキンに・・ケーキ・・?」

明らかに曇った声色に、スーパーの袋をひったくった。

「食いたくなきゃ・・」
「食べるよ」
「へっ?」

パチパチと目を瞬かせるイルカに右目が弧を描く。

「クリスマスだもんねぇ」
「しってたのか?」
「当たり前でしょ、朝からサクラがうるさくって」
「あー・・・」

おませな桃色の髪の少女を思い浮かべて笑った。
きっと今日は任務なんて手につかなかったことだろう。

「・・・クリスマスは家族と過ごすんだって、ね」
「・・・・・」

ポツリと呟いたカカシの言葉に眼を見開いた。
少し照れたように俯く顔が、僅かに赤らんでいるのは気のせいなんかじゃない。

「帰ろ」

解かれたマフラーが、フワリと頬や首筋を包み込む。
手にした袋を奪い取って、先を歩くカカシが振り返らずに掌を差し出した。
馬鹿だな。
耳まで真っ赤じゃないか。

「おう!」

駈け出して、差し出された掌に指を絡める。
少しかじかんだ指先を離れないように繋ぎ止めれば、外套のポケットにそのまま突っ込まれた。

「寒いから」

ぼそぼそと口にするカカシが、へにゃりと眉を下げて猫背の背を更に丸める。
そう言いながらも目元が薄っすらと赤く染まるのに、声を上げて笑った。


Merry Christmas  お幸せに♡
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