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「うぉーい! イルカこっちだッ!」
「うわっ! もしかしなくても、もう出来上がってませんか?」

一升瓶振り上げての歓待。
座敷の一室を借りきって、机の上には様々な料理が並ぶ。
食い散らかしているのはだいたいライドウで、ゲンマはお猪口に注いだ日本酒を傾けている。

「スミマセン、出る寸前に中隊の帰還と重なりまして」
「あー、一番ヤなやつな」
「ハハッ・・でも残りは同僚に押し付けて来ちまいました」
「偶にはいんじゃね? お前はいつもよく働いてんだからさ」
「イールカー、何呑む? 今日はゲンマの奢りだからな。なんでもいいぞー」
「おい、誰が俺の奢りだなんて言ったよ」
「いいじゃねーか、可愛いネェちゃんにはホイホイ驕ってるくせによーぉ、俺にも奢れ~」
「・・ったく仕方ねぇな」
「ぷっ・・」

どさくさに紛れて自分の分もと強請るライドウに溜息一つ。
呆れたような顔をしつつ、まぁいいかと杯を傾けるゲンマに吹き出した。

「相変わらず仲良いですね」
「腐れ縁みたいなもんだ」

けしてコイツが可愛いネェちゃんに見えるわけじゃねぇぞと釘を差し、一升瓶を抱きかかえるライドウを足先で小突く。

「最近は里外任務が多くて、お前とも呑んでねぇしな」
「そうですよね」

三代目との関わりが深い二人とは、気安い仲だ。
まだイルカが新米だった頃はこうして呑みに連れて行ってもらった。

「同じ酒でいいか?」

そう言いながらももうお銚子を傾けているゲンマに、慌ててお猪口を差し出す。
注がれた杯に口をつけて飲み干せば、空きっ腹に焼け付く酒が喉物を通り過ぎていった。

「うあー、きくッ!」
「飯も食っとけよ。あと、食いたいもんあったら勝手に注文しろ」
「うす! いただきます」

机の上を見渡せば、とりあえずは何も注文する必要もないように思えたのでそのままドカリと座敷に腰を据えた。
明日も仕事なわけだから、酔いつぶれるわけにはいかないのでとりあえず腹ごしらえは必要だと、カラリと揚がった鶏の唐揚げに齧り付く。
程よい塩気と口の中でじゅわっと溢れる肉汁に舌鼓をうった。

「あー、ウマ」
「相変わらず幸せそうに食うな、お前は」
「旨いもん食ってる時はそりゃ旨い顔するでしょう?」
「ま、そうだな」

見てるこっちまで幸せになりそうな顔に、酒を舐めながら笑った。
イルカだとて悲しい過去がなかったわけじゃないのに、昔から変わらない天真爛漫さはある意味稀有だと思う。

「それにしても、なんか久々ですよね」
「だな」
「元気だったかー、イルカ」
「まぁ、そこそこには」
「なんだぁそれっ・・」

笑うライドウが満腹になった腹を抱えて畳の上に寝転がった。
抱き枕よろしくその腕の中には空になった一升瓶。
むにゃむにゃと何かを呟きながら転がる姿に、呆れたような溜息をつく。

「おい、こんなところで寝るなよ」
「・・・うるせー」

一応咎めはするが、慣れているのか苦笑しただけのゲンマはころりと向けた背中に苦笑する。

「ったくしかたねぇな」
「こんなところも変わらないですよね」
「全くだ」

酒好きなのに酒には弱い。
いつもこうして酒にのまれてはゲンマに背負われて帰る二人を思い出す。

「お前は意外と強いのにな」
「俺もそこそこですよ」
「嘘つけ、三代目の酒くすねて呑んでたの知ってるぞ」
「わっ! バレて・・?」
「もちろん三代目にもバレてる」
「げー・・・」

マズイ。そう言って舌を出すも、それを三代目が黙認してくれていることも互いが知っているのだ。

「・・・そういやお前、最近カカッさんと懇意にしてるんだって?」
「ーー・・・ゴホッ・・っ!!」

ちょうど杯を傾けた瞬間だった。
勢いよく流れ込んできた酒と、一気に締まった喉に思い切りむせた。

「おいおい大丈夫か?」
「・・っ・・なん・・っで、それ・・」

不意打ちだった。
まさかゲンマからそんなことを言い出すとは思っても見なくて、焦るあまり咳が止まらなくなる。
背中を撫ぜられながら聞き返すも、ゲンマはニヤリと唇を歪めるだけだ。
教員室どころでない噂の広まり具合に、背中にヒヤリと冷たい汗が流れた。

「おいおい、なんて顔してんだよ」
「えっ・・いえ・・」
「もう食われちまったとか言うなよ」
「ーー・・んなわけないじゃないですかッ!!」

思わず怒鳴り声になったのはその言葉を否定するためで、座敷中に響き渡った現役教師の大声に、ゲンマがポカンを口をあける。

「声がデケェな」
「ゲンマさんが変なこというからじゃないですかッ!」
「ははっ! 冗談だよ。女に不自由しないあの人が、まさか男になんて誰も思っちゃいねーよ」

わりぃ。邪気も何もない顔でそう言われ、ぐっと言葉に詰まる。
けれどもチャンスだと思った。

「・・ですよねー」
「あー、特にあの人はな」
「・・・ゲンマさんはその・・どうなんですか?」
「なに?」

にんまりと、何を聞こうとしているのかわかっているふりで聞き返した顔に、むぅと眉を寄せた。
こんなところは酒の席でもやはり特上なのだと、気を引き締める。

「その・・男の、経験とか・・」
「興味あんの?」
「ありませんよ!」
「んー、そうやって必死になるあたり可愛いね、お前は」
「必死になんて」
「興味あるなら・・」

くいっと顎を持たれて、近づいてきた唇にギョッとした。
慌てて覆った手の甲を隔てて息を止めると、面前でゲンマが吹き出した。

「・・焦りすぎだろっ!」
「ーーからかって・・・っ」

とてもシラフではやってられなくて、差し出されたお猪口になみなみと注がれた酒を思いっきり煽る。

「まぁ、戦地に行けばないこともない」
「・・・そう、なんですか?」
「ただ俺はさ」

必要ないと顔に書いてある。
男から見ても整っているゲンマの見てくれに、思わず苦虫を噛み潰した顔になる。
階級だって上忍に次ぐレベルなのだから、わざわざ男を選ばなくても女には不自由しないのだろう。
では、カカシも・・。
そう考えて、ではなぜあんなことになったのだと、酒が回る頭でぐるぐると考えた。

『遊んでそうだしなぁ』

思い出すのはミズキの言葉だ。
ズキンと痛む胸に戸惑って、それを振り払うべく再び酒を煽る。
遊び。
遊びであんなことまでするのだろうか?

「有名人だからな」
「え?」

ボソリと呟かれる言葉に顔をあげるも、その顔はまさに面白がっているそれだ。

「カカッさん」

どうしてそこでその名前を、と。ゲンマの意図がわからず困惑してしまう。

「あの・・・」
「まぁ、あの人のことだから珍しがって構ってるだけだ。飽きたらそれもなくなんだろ」

それまでの辛抱しろよ。軽く言われた言葉に、眼を見開いた。

「・・飽きる?」
「そりゃお前」

そう言って、クスリと笑ったゲンマの眼が、まるでどれにしようかと悩むように皿に盛られた色鮮やかな造りの上を泳ぐ。
そうして選んだ刺し身に箸をつけ、イルカに掲げて口を開いた。

いまは毛色の変わった玩具で遊んでいるだけさ。
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恋は銀色の翼にのりて
恋の妙薬
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【Home Sweet Home】
Home Sweet Home
もう一度あなたと恋を
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3頁目

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