サクヤを預かってはや数日、イルカほどではないが、なんとか空回りせずに世話をすることが出来るようになってきた。
サクヤはといえば、朝目覚めてはイルカがいないことに気づき、まず号泣。
その後部屋中を探し回ることを日課にしている。
なかなか根気強い性格だ。
カカシの忍犬達ともかなり仲良くなった。
手加減なしの幼児なので、たまにパックンに怒られている姿を見ると可愛さのあまりついつい頬が緩んでしまう。
そんなサクヤは今日も朝から一泣きした後、イルカを探しに徘徊するかと思いきや、潤んだ瞳でベソベソとカカシに手を伸ばした。
「どうしたの?」
聞いても何やらごにょごにょ言うだけで、要領を得ない。
心なしか、吐く息が熱い気もする。
「サクヤ?」
抱きかかえてやろうと手を伸ばして、その小さな身体がかなり熱いことに気づく。
「・・熱・・?」
まさかと思い額に手を当てると、物凄く熱い。
潤んだ瞳は熱のせいだったのかと思い、素早く服を着替えるとぐったりとしたサクヤを抱き上げる。
子供の体調は変化しやすい。
鼻や咳は出ていないからただの風邪か、それとも何かの病気か。
「しっかりして」
コテンとカカシに身体を預けるサクヤを揺すって声をかける。
イルカに式を飛ばすべきかと印を結びかけて、カカシはハタと先日の恋人の様子を思い出す。
もしかして、イルカも体調が悪かったのかもしれない。
そんな時に面倒をかけるべきではないと判断して、サクヤを抱いたまま病院を目指した。
*****
サクヤをカカシもろとも追い出した。
あれから一度だって連絡も来ないし、どうしているのかもわからない。
暫く休みだと言っていた通り任務表を調べてもカカシへの依頼は見つからなかった。
一人ぼっちで目覚めた部屋で、「静かだ・・・清々した!」と強がりを口にしたイルカだったが、数日たってみれば寂しさで押しつぶされそうだ。
今すぐにだってあの柔らかでぷくぷくの身体を抱きしめてやりたいし、鋼のような胸に顔を埋めて眠りたい。
あの時、自分が変な嫉妬と意地をはらなければ、その全てが手に入ったのにと、イルカは深い後悔のまっただ中にいた。
それにしてもだ。
「・・・一度ぐらい連絡寄こしてくれてもいいのに・・・」
愚痴る声はとてもか細い。
サクヤはちゃんとご飯を食べているだろうか。
泣いてばかりでカカシの手を煩わせていないだろうか。
そんな心配ばかりが脳裏をよぎる。
仕事だって全然手につかない。
付かない割に長年の経験からか、サラッと全て熟せてしまう自分の有能さが怖いぜと、イルカは積み上げた書類の束を高速で処理して頷いた。
そんなに心配なら自分から会いに行けばいいものの、意地っ張りのイルカは振り上げた拳を下ろせずにいる。
「こえー顔」
「はぁ!?」
「そんなんじゃ子供が怯えるぜ」
「・・・・・」
イライラしてつい尖った返事をしたイルカが、隣で同じように書類の整理をしていたイワシが呆れた表情でほいっと続きの書類を回してくる。
そんなに怖い顔をしていただろうか?
イルカは少しだけ反省してパチパチと頬を叩いた。
今は仕事中なのだ。
集中しないとと、イルカは表情を引き締める。
「そういや、サク坊大変だったみたいだな」
「・・・?」
不意に愛息子の名前を言われて、イルカはキョトンとして仕事を続けたままのイワシを見つめた。
「え?」
「だからサク坊」
「・・・サクヤがどうか・・・?」
「・・・?」
驚くイルカに今度はイワシのほうがキョトンとした顔をした。
「あ~、今、サクヤをカカシさんに預けてて・・・」
「はたけ上忍いま休暇中だもんな」
「まぁな」
まさか追い出したとは言えないイルカが曖昧に頷く。
「ん~、でも今朝だぞ」
お前もう出勤してたのか?とイワシが怪訝そうな顔のまま問いかける。
「・・・サクヤに何か・・?」
「何か・・・って、今朝はたけ上忍がサク坊抱えて病院に飛び込んだみた・・・」
「ーーーーーッ!!」
イワシが最後まで話す前に、ガタンと立ち上がった。
病院?
なんで?と、疑問ばかりがグルグル頭をよぎる。
オロオロとするイルカに、イワシが本当に知らなかったのかと驚いて目を見開いた。
「イルカ、はたけ上忍から連絡は?」
「・・・何も・・・」
連絡用の式も飛んではこなかった。
どういうことなのか分からなくて、イルカは部屋を飛び出そうとするも仕事中だと思いとどまる。
ドスンと椅子に腰をおろして、書類をめくるも全く頭に入ってこない。
サクヤはどんな具合なのだろう、どうしてカカシが連絡を寄越さなかったのか。
そればかりが気になってイライラとイルカは頭をかきむしった。
「・・・行っていいぞ」
「え・・?」
「気になるんだろ?」
ここは任せろと、イワシがイルカの机の書類を奪う。
「でも・・・」
「サク坊が気になってミス連発されちゃあこっちが困るんだよ」
言い方は厳しいが、イワシが下手くそなウインクをして行けと合図をくれる。
いつもはくだらない話ばかりしかしない友人が、今は頼れる同僚になる。
「今度酒おごる」
「おー! 一番高い酒な~」
部屋を飛び出す前に、任せとけと口にして、イルカは病院へと走った。
*****
飛び込んだ病院でカカシとサクヤを探すも見つからなくて、受付に尋ねると、診察は終わって帰った後だという。
急いで追いかけたカカシの家の前で、くの一と一緒に部屋へ入るカカシを眼にしたイルカは思わず立ち止った。
「・・・・・」
今すぐにでもサクヤの病状を聞きたいのに、今見た現実が信じられなくて足が動かない。
何故くの一がカカシの部屋へ入るのか。
イルカに式を飛ばさなかった理由がわかった気がした。
もしイルカが女だったら、すぐにでも乗り込んでくの一もろともカカシを罵倒しただろう。
でも、イルカは男で、サクヤを儲けていてもカカシとの間にはなにもない。
紙切れ一枚とはいえ、権利を主張する立場にはないのだ。
どうしようと思う。
後先考えずに追い出したけれど、このままフェードアウトされたって文句は言えない。
サクヤは戸籍上カカシの子供で、イルカの籍にはない。
カカシが他の誰かと結婚したら一生サクヤとは離れ離れになるのだ。
部屋に明かりが灯るのを見つめ、イルカは家の前でただその明かりを見つめ続けた。
どれ位そこに立ち止まっていただろうか。
開いた扉に、くの一と見送るために玄関に出てきたカカシが姿を現した。
「・・・・」
「・・・イルカ先生?」
驚いたように名前を呼ぶカカシに、イルカは言葉を出せずに唇を噛んだ。
お大事にと言って挨拶するくの一が、イルカをみて微笑むのにも顔が強張ってうまく返せない。
誰だよ、あのくの一。
今すぐにでも問い詰めたいのに、言葉が出ない。
「・・・どうしてここに?」
不思議そうに首を傾げるカカシに、カッとなった。
「来ては行けませんでしたか?」
くの一とよろしくやってるところに、お邪魔でしたかと嫌味のひとつでも言いたくなる。
ふと先日のくの一達の会話が脳裏をよぎる。
フリーだから。
優秀な跡継ぎ。
ダメだ、ダメだと思うのに、思考はだんだんとマイナスに傾いて止められない。
自分で追い出したくせに、カカシが女を連れ込んでいると思うととても許せなかった。
サクヤもいるっていうのに、何を考えているんだと怒鳴りたくなる気持ちを抑えて、イルカは掌を握りしめた。
「あぁいえ・・仕事かと」
「サクヤが病院に運び込まれたって聞いて」
そうだ、サクヤだ。
嫉妬にかられて大事なことを聞き忘れていたと、イルカはふと我に返る。
困ったように笑うカカシが、口を開いた。
「こんなところじゃなんだから、入って」
開かれた扉に、イルカは少しだけ躊躇した。
暫く訪れなかった部屋だ。
くの一が出入りする所を見たばかりだから、何か女の私物が置かれていたらと思うと怖くなる。
お邪魔しますと呟いて、キョロキョロと見回す間もなく布団に寝かされているサクヤに眼が釘付けになった。
赤い顔をしてぐったりとしてる。
「ーーサクッ!!」
駆け寄って、小さい手を握りしめる。
どうして離れている時にこんなことにと、後悔が押し寄せてきた。
「・・・ごめんな・・」
不安だったろうと、眠るサクヤの頭を撫ぜる。
苦しそうな息を吐いて眠るサクヤが可哀想でならなかった。
「・・・突発性発疹だって」
「・・・・・」
「2、3日高熱が続くけど、脱水症状に気をつければいいそうです」
「・・・どうして・・・」
「・・?」
説明するカカシに、イルカは押し殺した声を上げた。
眠っているサクヤを起こしたくはない。
できるだけ冷静に話をしなくてはと、その一心だけだった。
「どうして、連絡をくれなかったんですか?」
責める口調にカカシが眼をパチパチとさせる。
強張った顔は、体調が悪そうだったからと言ってもどうやら納得はしてくれそうもなさそうだ。
「先生、仕事だったでしょ」
「ーーー他の誰かから聞いた俺が心配するとは思わなかったんですか!?」
刺々しい言葉に、カカシが驚いたようにイルカを見た。
「すいません」
素直に謝罪するカカシに、イルカは俯いてサクヤの手を握りしめる。
八つ当たりだ。
任務帰りのカカシを追い出したのはイルカの方だし、病気のサクヤをカカシはちゃんと病院に連れて行った。
でも。
わかってるけど、怒りの矛先を変えることが出来なかった。
「・・・サクヤを連れて帰ります」
意地を張ってることはわかってる。
困った顔をするカカシが、ため息を付いてサクヤを抱き上げようとするイルカを押しとどめた。
「明日も仕事でしょ。どうやってサクヤの面倒見るつもり?」
「・・・・・」
「それに、病気の子をあちこち移動なんてさせられない」
「でも・・!」
呆れたような表情。
いたたまれなくてイルカは唇を噛む。
またあのくの一がこの部屋を訪れるかもしれない。
カカシだけでなくサクヤをも取られる。そう考えるだけで胸が焼けつくようだった。
ここに置いてこのまま帰るなんて、考えられない。
眉を寄せたまま顔を強ばらせるイルカに、じゃあと、カカシが呟く。
「泊まっていってください」
「・・・え・・?」
「サクヤもその方が安心するでしょ」
「・・・俺が泊まるとカカシさんの都合が悪く無いんですか?」
「ーー何言ってるの?」
頑ななイルカの様子に、さすがにムッとするカカシが眉をひそめる。
女を連れ込んでたくせにと、口には出さないもののイルカも負けじと睨みつけた。
「・・・い~・・・」
睨み合ったままの二人の耳に、か細い声が聞こえた。
見れば、涙を浮かべたサクヤが、イルカに向かって手を伸ばしていた。
「ーーサク・・ッ!!」
熱で潤んだ瞳がゆらゆらと揺れている。
頼りない声で泣くサクヤを抱きしめて、背中を擦った。
「・・・ずっと先生を探してて」
「・・・・・?」
「朝から晩まで」
苦笑するカカシがベソをかくサクヤの髪を撫ぜる。
ベストを握りしめてなく姿に、胸が痛くなった。
「・・・ごめんな・・・」
熱い身体が切なくて、抱きしめる腕に力がはいる。
ペタペタと頬に触れる小さな手を握りしめてイルカは何度もゴメンと謝りながらその掌にくちづけた。
サクヤはといえば、朝目覚めてはイルカがいないことに気づき、まず号泣。
その後部屋中を探し回ることを日課にしている。
なかなか根気強い性格だ。
カカシの忍犬達ともかなり仲良くなった。
手加減なしの幼児なので、たまにパックンに怒られている姿を見ると可愛さのあまりついつい頬が緩んでしまう。
そんなサクヤは今日も朝から一泣きした後、イルカを探しに徘徊するかと思いきや、潤んだ瞳でベソベソとカカシに手を伸ばした。
「どうしたの?」
聞いても何やらごにょごにょ言うだけで、要領を得ない。
心なしか、吐く息が熱い気もする。
「サクヤ?」
抱きかかえてやろうと手を伸ばして、その小さな身体がかなり熱いことに気づく。
「・・熱・・?」
まさかと思い額に手を当てると、物凄く熱い。
潤んだ瞳は熱のせいだったのかと思い、素早く服を着替えるとぐったりとしたサクヤを抱き上げる。
子供の体調は変化しやすい。
鼻や咳は出ていないからただの風邪か、それとも何かの病気か。
「しっかりして」
コテンとカカシに身体を預けるサクヤを揺すって声をかける。
イルカに式を飛ばすべきかと印を結びかけて、カカシはハタと先日の恋人の様子を思い出す。
もしかして、イルカも体調が悪かったのかもしれない。
そんな時に面倒をかけるべきではないと判断して、サクヤを抱いたまま病院を目指した。
*****
サクヤをカカシもろとも追い出した。
あれから一度だって連絡も来ないし、どうしているのかもわからない。
暫く休みだと言っていた通り任務表を調べてもカカシへの依頼は見つからなかった。
一人ぼっちで目覚めた部屋で、「静かだ・・・清々した!」と強がりを口にしたイルカだったが、数日たってみれば寂しさで押しつぶされそうだ。
今すぐにだってあの柔らかでぷくぷくの身体を抱きしめてやりたいし、鋼のような胸に顔を埋めて眠りたい。
あの時、自分が変な嫉妬と意地をはらなければ、その全てが手に入ったのにと、イルカは深い後悔のまっただ中にいた。
それにしてもだ。
「・・・一度ぐらい連絡寄こしてくれてもいいのに・・・」
愚痴る声はとてもか細い。
サクヤはちゃんとご飯を食べているだろうか。
泣いてばかりでカカシの手を煩わせていないだろうか。
そんな心配ばかりが脳裏をよぎる。
仕事だって全然手につかない。
付かない割に長年の経験からか、サラッと全て熟せてしまう自分の有能さが怖いぜと、イルカは積み上げた書類の束を高速で処理して頷いた。
そんなに心配なら自分から会いに行けばいいものの、意地っ張りのイルカは振り上げた拳を下ろせずにいる。
「こえー顔」
「はぁ!?」
「そんなんじゃ子供が怯えるぜ」
「・・・・・」
イライラしてつい尖った返事をしたイルカが、隣で同じように書類の整理をしていたイワシが呆れた表情でほいっと続きの書類を回してくる。
そんなに怖い顔をしていただろうか?
イルカは少しだけ反省してパチパチと頬を叩いた。
今は仕事中なのだ。
集中しないとと、イルカは表情を引き締める。
「そういや、サク坊大変だったみたいだな」
「・・・?」
不意に愛息子の名前を言われて、イルカはキョトンとして仕事を続けたままのイワシを見つめた。
「え?」
「だからサク坊」
「・・・サクヤがどうか・・・?」
「・・・?」
驚くイルカに今度はイワシのほうがキョトンとした顔をした。
「あ~、今、サクヤをカカシさんに預けてて・・・」
「はたけ上忍いま休暇中だもんな」
「まぁな」
まさか追い出したとは言えないイルカが曖昧に頷く。
「ん~、でも今朝だぞ」
お前もう出勤してたのか?とイワシが怪訝そうな顔のまま問いかける。
「・・・サクヤに何か・・?」
「何か・・・って、今朝はたけ上忍がサク坊抱えて病院に飛び込んだみた・・・」
「ーーーーーッ!!」
イワシが最後まで話す前に、ガタンと立ち上がった。
病院?
なんで?と、疑問ばかりがグルグル頭をよぎる。
オロオロとするイルカに、イワシが本当に知らなかったのかと驚いて目を見開いた。
「イルカ、はたけ上忍から連絡は?」
「・・・何も・・・」
連絡用の式も飛んではこなかった。
どういうことなのか分からなくて、イルカは部屋を飛び出そうとするも仕事中だと思いとどまる。
ドスンと椅子に腰をおろして、書類をめくるも全く頭に入ってこない。
サクヤはどんな具合なのだろう、どうしてカカシが連絡を寄越さなかったのか。
そればかりが気になってイライラとイルカは頭をかきむしった。
「・・・行っていいぞ」
「え・・?」
「気になるんだろ?」
ここは任せろと、イワシがイルカの机の書類を奪う。
「でも・・・」
「サク坊が気になってミス連発されちゃあこっちが困るんだよ」
言い方は厳しいが、イワシが下手くそなウインクをして行けと合図をくれる。
いつもはくだらない話ばかりしかしない友人が、今は頼れる同僚になる。
「今度酒おごる」
「おー! 一番高い酒な~」
部屋を飛び出す前に、任せとけと口にして、イルカは病院へと走った。
*****
飛び込んだ病院でカカシとサクヤを探すも見つからなくて、受付に尋ねると、診察は終わって帰った後だという。
急いで追いかけたカカシの家の前で、くの一と一緒に部屋へ入るカカシを眼にしたイルカは思わず立ち止った。
「・・・・・」
今すぐにでもサクヤの病状を聞きたいのに、今見た現実が信じられなくて足が動かない。
何故くの一がカカシの部屋へ入るのか。
イルカに式を飛ばさなかった理由がわかった気がした。
もしイルカが女だったら、すぐにでも乗り込んでくの一もろともカカシを罵倒しただろう。
でも、イルカは男で、サクヤを儲けていてもカカシとの間にはなにもない。
紙切れ一枚とはいえ、権利を主張する立場にはないのだ。
どうしようと思う。
後先考えずに追い出したけれど、このままフェードアウトされたって文句は言えない。
サクヤは戸籍上カカシの子供で、イルカの籍にはない。
カカシが他の誰かと結婚したら一生サクヤとは離れ離れになるのだ。
部屋に明かりが灯るのを見つめ、イルカは家の前でただその明かりを見つめ続けた。
どれ位そこに立ち止まっていただろうか。
開いた扉に、くの一と見送るために玄関に出てきたカカシが姿を現した。
「・・・・」
「・・・イルカ先生?」
驚いたように名前を呼ぶカカシに、イルカは言葉を出せずに唇を噛んだ。
お大事にと言って挨拶するくの一が、イルカをみて微笑むのにも顔が強張ってうまく返せない。
誰だよ、あのくの一。
今すぐにでも問い詰めたいのに、言葉が出ない。
「・・・どうしてここに?」
不思議そうに首を傾げるカカシに、カッとなった。
「来ては行けませんでしたか?」
くの一とよろしくやってるところに、お邪魔でしたかと嫌味のひとつでも言いたくなる。
ふと先日のくの一達の会話が脳裏をよぎる。
フリーだから。
優秀な跡継ぎ。
ダメだ、ダメだと思うのに、思考はだんだんとマイナスに傾いて止められない。
自分で追い出したくせに、カカシが女を連れ込んでいると思うととても許せなかった。
サクヤもいるっていうのに、何を考えているんだと怒鳴りたくなる気持ちを抑えて、イルカは掌を握りしめた。
「あぁいえ・・仕事かと」
「サクヤが病院に運び込まれたって聞いて」
そうだ、サクヤだ。
嫉妬にかられて大事なことを聞き忘れていたと、イルカはふと我に返る。
困ったように笑うカカシが、口を開いた。
「こんなところじゃなんだから、入って」
開かれた扉に、イルカは少しだけ躊躇した。
暫く訪れなかった部屋だ。
くの一が出入りする所を見たばかりだから、何か女の私物が置かれていたらと思うと怖くなる。
お邪魔しますと呟いて、キョロキョロと見回す間もなく布団に寝かされているサクヤに眼が釘付けになった。
赤い顔をしてぐったりとしてる。
「ーーサクッ!!」
駆け寄って、小さい手を握りしめる。
どうして離れている時にこんなことにと、後悔が押し寄せてきた。
「・・・ごめんな・・」
不安だったろうと、眠るサクヤの頭を撫ぜる。
苦しそうな息を吐いて眠るサクヤが可哀想でならなかった。
「・・・突発性発疹だって」
「・・・・・」
「2、3日高熱が続くけど、脱水症状に気をつければいいそうです」
「・・・どうして・・・」
「・・?」
説明するカカシに、イルカは押し殺した声を上げた。
眠っているサクヤを起こしたくはない。
できるだけ冷静に話をしなくてはと、その一心だけだった。
「どうして、連絡をくれなかったんですか?」
責める口調にカカシが眼をパチパチとさせる。
強張った顔は、体調が悪そうだったからと言ってもどうやら納得はしてくれそうもなさそうだ。
「先生、仕事だったでしょ」
「ーーー他の誰かから聞いた俺が心配するとは思わなかったんですか!?」
刺々しい言葉に、カカシが驚いたようにイルカを見た。
「すいません」
素直に謝罪するカカシに、イルカは俯いてサクヤの手を握りしめる。
八つ当たりだ。
任務帰りのカカシを追い出したのはイルカの方だし、病気のサクヤをカカシはちゃんと病院に連れて行った。
でも。
わかってるけど、怒りの矛先を変えることが出来なかった。
「・・・サクヤを連れて帰ります」
意地を張ってることはわかってる。
困った顔をするカカシが、ため息を付いてサクヤを抱き上げようとするイルカを押しとどめた。
「明日も仕事でしょ。どうやってサクヤの面倒見るつもり?」
「・・・・・」
「それに、病気の子をあちこち移動なんてさせられない」
「でも・・!」
呆れたような表情。
いたたまれなくてイルカは唇を噛む。
またあのくの一がこの部屋を訪れるかもしれない。
カカシだけでなくサクヤをも取られる。そう考えるだけで胸が焼けつくようだった。
ここに置いてこのまま帰るなんて、考えられない。
眉を寄せたまま顔を強ばらせるイルカに、じゃあと、カカシが呟く。
「泊まっていってください」
「・・・え・・?」
「サクヤもその方が安心するでしょ」
「・・・俺が泊まるとカカシさんの都合が悪く無いんですか?」
「ーー何言ってるの?」
頑ななイルカの様子に、さすがにムッとするカカシが眉をひそめる。
女を連れ込んでたくせにと、口には出さないもののイルカも負けじと睨みつけた。
「・・・い~・・・」
睨み合ったままの二人の耳に、か細い声が聞こえた。
見れば、涙を浮かべたサクヤが、イルカに向かって手を伸ばしていた。
「ーーサク・・ッ!!」
熱で潤んだ瞳がゆらゆらと揺れている。
頼りない声で泣くサクヤを抱きしめて、背中を擦った。
「・・・ずっと先生を探してて」
「・・・・・?」
「朝から晩まで」
苦笑するカカシがベソをかくサクヤの髪を撫ぜる。
ベストを握りしめてなく姿に、胸が痛くなった。
「・・・ごめんな・・・」
熱い身体が切なくて、抱きしめる腕に力がはいる。
ペタペタと頬に触れる小さな手を握りしめてイルカは何度もゴメンと謝りながらその掌にくちづけた。
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