「・・・どういうこと・・?」
走り去るイルカを見送って、そう口にした。
「何怒ってるのよ、カカシった・・」
「ーーー答えて」
サツキの言葉を遮った声と同時に殺気が漏れる。
ムカムカした。
何に対して自分がそんな感情を持っているのか分からなかったが、とにかく無性に苛立たしかったのだ。
「あ、あなたがさっき聞いたとおりよ」
くの一の間では有名な話。
そう言いながら、サツキが鼻を鳴らす。
「女体化しても、イルカ先生は男でしょ」
子供など出来るはずがない。
だが、そんなカカシの疑問にもサツキは唇を歪めて嗤うだけだ。
「禁術でも使ったんじゃないの? ほら、あの人三代目のお気に入りだったし。書庫への出入りは自由じゃない」
「・・・・・」
「あなたは義務で一緒に暮らしていただけなんだから、あんな中忍気にすることないわよ。男のくせにそこまでするなんて、本当に気味が悪い」
嘲るサツキの言葉が気に触った。
カカシの記憶にあるイルカは、そんな男ではない。
忍びとしてはむしろ向いてないとさえ思えるほどに真っ直ぐな気性を持ち、仇ともいうべきナルトを庇護し真っ当に導いた、高潔な魂をもつ男だ。
だからこそ惹かれた。
「・・・・・」
惹かれた?
そこでカカシの思考は一旦停止した。
思い出すのは先日の口付け。
組み敷いた身体は微かに震えて、潤む黒い瞳が不安げに揺れていた。
触れた唇に我慢できなくなったのは自分の方が先ではなかったか?
「ねぇ、聞いてるの?」
サツキが鼻にかかった声でそう言うと、カカシの腕にするりと自らの手を回した。
そんな女の甘えた仕草に、込み上げてくる嫌悪感で口を開く。
「・・・消えて」
「ーーえ?」
馴れ馴れしげに回された腕を解き、そう告げる。
その言葉につられるように、腕の中のサクヤが獣のような唸り声を出した。
「もう二度と、オレの目の前に現れないで」
「カカシッ!」
サツキが名前を叫んだと同時に、サクヤの歯がカチカチと音をたてる。
途端にグラリと大きく波打つ地面に、カカシも驚いて腕の中の我が子を見やった。
「・・サク、ヤ・・・?」
「うー」
眉を怒らせ、サクヤが再びカチカチと歯を打ち鳴らした瞬間、サツキが立っている場所に向けて大きなひび割れが蛇のように地を這い、音をたてて崩れていく。
「ーーーーキャッ!!」
「サクヤッ!!」
あわや陥没という場面で、カカシが怒鳴る。
突然耳元で響いた大声に、術の発動を解いたサクヤが驚いて眼をパチパチとさせた。
「う?」
収まった地割れに慄きながら、サツキがその場にヘナヘナと座り込み、地面に這いつくばった。
「・・・な、なに・・・いまの・・?」
何が起こったのかわからない。
突然襲ってきた恐怖に身体をふるわせながら、サツキは助けを求めて自分を見下ろすカカシへと手をのばした。
しかし、差し伸べてもらえると信じた手は、冷たい視線によって遮られる。
「・・・カカシ・・?」
言葉も紡がぬまま、カカシは女を見下ろしていた。
その表情の殆どは覆われていたけれど、静かな殺気を帯びたチャクラが全身を纏っている。
カカシが自分に向ける殺気の意味がわからず、信じられないとでも言うように首を振って、サツキが面前に立つ二人を見上げたまま口を開く。
「・・・ど、うして・・」
「言ったでしょ。二度は言わないよ」
「ーーーカカシ・・ッ!」
顔色を失い震える身体で立ち上がるサツキが、少しの表情すら読み取ることの出来ないカカシから視線をそらし背を向ける。
未練がましく何度も振り返るサツキの後ろ姿を、カカシはただ黙って見送ったのだった。
*****
「・・さっきの技・・」
「う?」
「やっぱりお前だよねぇ?」
「あう」
やってやったとばかりに誇らしげに笑うサクヤに苦笑する。
土遁だった。
まだ言葉も禄に話せない赤子が操る技とは思えない。
「音印・・」
「う?」
思いつく心当たりに、クククッと笑い巻物を紐解いて口寄せの術を発動する。
ぽふんと現れた小さな使役犬は、胡乱げな顔をしながら二人の前に座った。
「わんわっ」
「なんじゃ、カカシ」
みたところ戦場ではなく里のようだ。
キョロキョロと辺りを伺いながら立ち上がると、手を伸ばすサクヤの頬をペロリと舐める。
「急に呼び出してごめんーね。パックンにちょっと確認したいことがあって」
「・・・?」
「サクヤの母親のことなんだけど・・・」
「・・・イルカがどうかしたか?」
自然に告げられた答えに、胸の中のつかえがストンと落ちた気がした。
ククッと笑った主の様子を訝しむパックンを気にすることなくその場にしゃがみこむと、その頭を優しく撫でる。
「やっぱりイルカ先生か」
「なんじゃ」
「サクヤに音印を教えたのはパックン?」
「・・・とうとうボケたか」
「ふふっ」
「カカシ?」
「んー・・、聞いてみただけだーよ」
「妙な奴め」
笑ったままのカカシに呆れた声を出したパックンが、小さな背中にのしかかってきたサクヤに顔を顰めた。
「呼び出したついでにちょっとお願いしてもいいかな?」
「サクヤの面倒はみんぞ」
「つれないこと言わないでよ」
「断固断る。イルカは?」
「そのイルカ先生に用があるのよね」
ボソリと呟いたカカシの顔を黙って見つめた後、首にしがみつくサクヤを好き放題にさせたまま溜息をついた。
「・・あまりイルカを困らせるな」
的を射たとも思える言葉に、苦笑いする。
その様子に再度溜息をついたパックンが、チラリと地面のひび割れに視線をやって首を左右に振った。
「最近は遊びで術を繰り出しおって、坊主は手におえん」
「困ったねぇ」
「ヤマトはどうした」
「・・あぁ」
なるほどと頷くと、カカシは素早くヤマトの気配を探りニヤリとする。
任務帰りの少々くたびれたチャクラだが、もともとこの後輩に遠慮などしない。
仕事の出来る後輩のありがたさにほくそ笑みながら素早く式を飛ばすと、カカシはパックンの背に乗っているサクヤを捕まえて礼言う。
「じゃ、パックン」
「うむ」
呼び出した時と同じ音をたててパックンが消えるのと、慌てた様子でヤマトが姿を現したのはほぼ同時だった。
*****
固く閉ざされている、というべき扉を叩く。
コンコンと乾いた音をたてたそれは、暫くして軋んだ音を鳴らしながら開かれた。
「・・・カカシさん」
「こんにちは」
腫れた瞼。
赤くなった瞳に胸が痛む。
「少し話をしても?」
「俺には話すことなんてなにもありません」
静かな声とともに閉められようとする扉の隙間に足先を突っ込んだ。
驚愕の表情を浮かべる身体を突き飛ばして玄関へと侵入を果たすと、カカシは部屋の中へ逃げようとするイルカの腕を強引に掴む。
「ーーー・・ッ!」
「オレが話があると言ってるんです」
「・・サツキ上忍から何を聞かれたか知りませんが、違います」
「何が」
「・・・・・」
掴んだ腕を緩めさえせずに、ただ淡々と問う声にイルカが奥歯を噛みしめる。
ここでまた、同じ話をしろというのだろうか。
サツキの嘲笑する顔と声が脳裏に蘇る。
カカシも同じような顔をしていたらと思うと、とても顔をあげることが出来なくて、イルカは俯いたまま何度も頭を振った。
「・・女体化して、あなたを誘惑したなんて・・」
「・・・・・」
消え入るような声で吐き出された言葉を、カカシはただ黙って聞いていた。
ズルズルと玄関に座り込み、顔を覆うイルカの傍に座るとポンポンっと俯く頭を叩く。
「知ってるよ」
「・・・・・」
「イルカ先生ですよね?」
「ーーーなに、が・・ですか」
「サクヤを産んだの」
カカシの言葉に、弾かれたように顔を上げ、開かれた黒い瞳が揺れた。
「・・思い出したんですか・・?」
震える唇が確認の言葉を絞り出すのに、カカシが緩く首を左右に振る。
その答えに、揺れる瞳がジワリと濡れた。
堪らなくなって、カカシがその身体を抱きしめると宥めるようにその背を撫ぜる。
「オレは、あなたとサクヤと一緒に暮らしていたんでしょ?」
「いいえ」
「嘘」
「ーーー嘘じゃありません!」
否定の言葉を吐くイルカの頬に触れ、逸そうとする視線を自分の方へと向けた。
「家に、あなたの巻物がありました。・・・他にも食器や筆記用具。あの家にはあなたとサクヤの気配が溢れてる」
「・・・カカシさんの思い違いです・・」
「どうしてそんな嘘をつくの?」
「カカシさんこそ、どうしてそんなことを気になさるんですか?」
「ーーー気になるんです」
「・・・・・」
「わからないけど、気になるから・・」
カカシのそんな言葉に、イルカが奥歯を噛みしめる。
どうしてカカシがそんなことを言うのかわからない。
記憶をなくして、子供が居ると告げられた時、その表情は疎ましいと物語っていた。
仕方なくサクヤの面倒を見て、母親の事だって深くは追求しなかった。
それが何故、今になって。
「それを知ってどうするんですか?」
「どうって・・・」
「もし俺が、記憶を失う前のあなたと暮らしていたとしても、それが今のあなたに必要なことですか?」
「イルカ先生」
そうだ。
共に過ごした記憶全てを失ったのだって。
「結局、あなたにはいらない記憶だったから、全部忘れたんじゃ・・・」
口にした瞬間、そうなのだと思った。
汚点。
ずっと、陰でそう言われていた。
もっと血筋の良い女との縁だって望めたカカシが、何故と。
このマイノリティな関係が、里にも良くは思われていないことを知っていながら、目を背けていたのだ。
カカシが必要だと言ってくれたから。
共にと約束してくれたから。
けれど、そう思っていた事自体が間違っていたとしたら・・・。
「・・・・・」
床に座り込んだまま、呆然とした表情で眼の前の男を見つめた。
見た目は全く変わらないのに、記憶だけがポッカリと抜けて落ちてしまっている。
一緒に暮らし、笑いあった穏やかで優しい日々の全てを忘れられてしまったのだ。
「イルカ先生」
名前を呼んでも、ただうつろな視線だけを向けるイルカの頬に手を伸ばす。
目尻に浮かんだ涙に、忘れられた方も同じように辛いのだと初めて知った。
「すみません」
拒むようにカカシの身体を軽く押したイルカが、ゆっくりと立ち上がり背を向けようとする。
全てを諦めてしまったような顔。
あぁ、こんな顔を前にも見た気がすると、部屋へ去ろうとするイルカの腕を掴み強引に腕の中に抱き込んだ。
「ーーカカッ・・ッ!!」
「オレにかけられた術ね・・・最も幸せだった頃の記憶を奪うもの、だそうです」
「え・・・?」
「一番の幸せ・・・」
その意味がわかりますか? と、瞠目するイルカの前で、極上の美貌が柔らかく微笑んだ。
走り去るイルカを見送って、そう口にした。
「何怒ってるのよ、カカシった・・」
「ーーー答えて」
サツキの言葉を遮った声と同時に殺気が漏れる。
ムカムカした。
何に対して自分がそんな感情を持っているのか分からなかったが、とにかく無性に苛立たしかったのだ。
「あ、あなたがさっき聞いたとおりよ」
くの一の間では有名な話。
そう言いながら、サツキが鼻を鳴らす。
「女体化しても、イルカ先生は男でしょ」
子供など出来るはずがない。
だが、そんなカカシの疑問にもサツキは唇を歪めて嗤うだけだ。
「禁術でも使ったんじゃないの? ほら、あの人三代目のお気に入りだったし。書庫への出入りは自由じゃない」
「・・・・・」
「あなたは義務で一緒に暮らしていただけなんだから、あんな中忍気にすることないわよ。男のくせにそこまでするなんて、本当に気味が悪い」
嘲るサツキの言葉が気に触った。
カカシの記憶にあるイルカは、そんな男ではない。
忍びとしてはむしろ向いてないとさえ思えるほどに真っ直ぐな気性を持ち、仇ともいうべきナルトを庇護し真っ当に導いた、高潔な魂をもつ男だ。
だからこそ惹かれた。
「・・・・・」
惹かれた?
そこでカカシの思考は一旦停止した。
思い出すのは先日の口付け。
組み敷いた身体は微かに震えて、潤む黒い瞳が不安げに揺れていた。
触れた唇に我慢できなくなったのは自分の方が先ではなかったか?
「ねぇ、聞いてるの?」
サツキが鼻にかかった声でそう言うと、カカシの腕にするりと自らの手を回した。
そんな女の甘えた仕草に、込み上げてくる嫌悪感で口を開く。
「・・・消えて」
「ーーえ?」
馴れ馴れしげに回された腕を解き、そう告げる。
その言葉につられるように、腕の中のサクヤが獣のような唸り声を出した。
「もう二度と、オレの目の前に現れないで」
「カカシッ!」
サツキが名前を叫んだと同時に、サクヤの歯がカチカチと音をたてる。
途端にグラリと大きく波打つ地面に、カカシも驚いて腕の中の我が子を見やった。
「・・サク、ヤ・・・?」
「うー」
眉を怒らせ、サクヤが再びカチカチと歯を打ち鳴らした瞬間、サツキが立っている場所に向けて大きなひび割れが蛇のように地を這い、音をたてて崩れていく。
「ーーーーキャッ!!」
「サクヤッ!!」
あわや陥没という場面で、カカシが怒鳴る。
突然耳元で響いた大声に、術の発動を解いたサクヤが驚いて眼をパチパチとさせた。
「う?」
収まった地割れに慄きながら、サツキがその場にヘナヘナと座り込み、地面に這いつくばった。
「・・・な、なに・・・いまの・・?」
何が起こったのかわからない。
突然襲ってきた恐怖に身体をふるわせながら、サツキは助けを求めて自分を見下ろすカカシへと手をのばした。
しかし、差し伸べてもらえると信じた手は、冷たい視線によって遮られる。
「・・・カカシ・・?」
言葉も紡がぬまま、カカシは女を見下ろしていた。
その表情の殆どは覆われていたけれど、静かな殺気を帯びたチャクラが全身を纏っている。
カカシが自分に向ける殺気の意味がわからず、信じられないとでも言うように首を振って、サツキが面前に立つ二人を見上げたまま口を開く。
「・・・ど、うして・・」
「言ったでしょ。二度は言わないよ」
「ーーーカカシ・・ッ!」
顔色を失い震える身体で立ち上がるサツキが、少しの表情すら読み取ることの出来ないカカシから視線をそらし背を向ける。
未練がましく何度も振り返るサツキの後ろ姿を、カカシはただ黙って見送ったのだった。
*****
「・・さっきの技・・」
「う?」
「やっぱりお前だよねぇ?」
「あう」
やってやったとばかりに誇らしげに笑うサクヤに苦笑する。
土遁だった。
まだ言葉も禄に話せない赤子が操る技とは思えない。
「音印・・」
「う?」
思いつく心当たりに、クククッと笑い巻物を紐解いて口寄せの術を発動する。
ぽふんと現れた小さな使役犬は、胡乱げな顔をしながら二人の前に座った。
「わんわっ」
「なんじゃ、カカシ」
みたところ戦場ではなく里のようだ。
キョロキョロと辺りを伺いながら立ち上がると、手を伸ばすサクヤの頬をペロリと舐める。
「急に呼び出してごめんーね。パックンにちょっと確認したいことがあって」
「・・・?」
「サクヤの母親のことなんだけど・・・」
「・・・イルカがどうかしたか?」
自然に告げられた答えに、胸の中のつかえがストンと落ちた気がした。
ククッと笑った主の様子を訝しむパックンを気にすることなくその場にしゃがみこむと、その頭を優しく撫でる。
「やっぱりイルカ先生か」
「なんじゃ」
「サクヤに音印を教えたのはパックン?」
「・・・とうとうボケたか」
「ふふっ」
「カカシ?」
「んー・・、聞いてみただけだーよ」
「妙な奴め」
笑ったままのカカシに呆れた声を出したパックンが、小さな背中にのしかかってきたサクヤに顔を顰めた。
「呼び出したついでにちょっとお願いしてもいいかな?」
「サクヤの面倒はみんぞ」
「つれないこと言わないでよ」
「断固断る。イルカは?」
「そのイルカ先生に用があるのよね」
ボソリと呟いたカカシの顔を黙って見つめた後、首にしがみつくサクヤを好き放題にさせたまま溜息をついた。
「・・あまりイルカを困らせるな」
的を射たとも思える言葉に、苦笑いする。
その様子に再度溜息をついたパックンが、チラリと地面のひび割れに視線をやって首を左右に振った。
「最近は遊びで術を繰り出しおって、坊主は手におえん」
「困ったねぇ」
「ヤマトはどうした」
「・・あぁ」
なるほどと頷くと、カカシは素早くヤマトの気配を探りニヤリとする。
任務帰りの少々くたびれたチャクラだが、もともとこの後輩に遠慮などしない。
仕事の出来る後輩のありがたさにほくそ笑みながら素早く式を飛ばすと、カカシはパックンの背に乗っているサクヤを捕まえて礼言う。
「じゃ、パックン」
「うむ」
呼び出した時と同じ音をたててパックンが消えるのと、慌てた様子でヤマトが姿を現したのはほぼ同時だった。
*****
固く閉ざされている、というべき扉を叩く。
コンコンと乾いた音をたてたそれは、暫くして軋んだ音を鳴らしながら開かれた。
「・・・カカシさん」
「こんにちは」
腫れた瞼。
赤くなった瞳に胸が痛む。
「少し話をしても?」
「俺には話すことなんてなにもありません」
静かな声とともに閉められようとする扉の隙間に足先を突っ込んだ。
驚愕の表情を浮かべる身体を突き飛ばして玄関へと侵入を果たすと、カカシは部屋の中へ逃げようとするイルカの腕を強引に掴む。
「ーーー・・ッ!」
「オレが話があると言ってるんです」
「・・サツキ上忍から何を聞かれたか知りませんが、違います」
「何が」
「・・・・・」
掴んだ腕を緩めさえせずに、ただ淡々と問う声にイルカが奥歯を噛みしめる。
ここでまた、同じ話をしろというのだろうか。
サツキの嘲笑する顔と声が脳裏に蘇る。
カカシも同じような顔をしていたらと思うと、とても顔をあげることが出来なくて、イルカは俯いたまま何度も頭を振った。
「・・女体化して、あなたを誘惑したなんて・・」
「・・・・・」
消え入るような声で吐き出された言葉を、カカシはただ黙って聞いていた。
ズルズルと玄関に座り込み、顔を覆うイルカの傍に座るとポンポンっと俯く頭を叩く。
「知ってるよ」
「・・・・・」
「イルカ先生ですよね?」
「ーーーなに、が・・ですか」
「サクヤを産んだの」
カカシの言葉に、弾かれたように顔を上げ、開かれた黒い瞳が揺れた。
「・・思い出したんですか・・?」
震える唇が確認の言葉を絞り出すのに、カカシが緩く首を左右に振る。
その答えに、揺れる瞳がジワリと濡れた。
堪らなくなって、カカシがその身体を抱きしめると宥めるようにその背を撫ぜる。
「オレは、あなたとサクヤと一緒に暮らしていたんでしょ?」
「いいえ」
「嘘」
「ーーー嘘じゃありません!」
否定の言葉を吐くイルカの頬に触れ、逸そうとする視線を自分の方へと向けた。
「家に、あなたの巻物がありました。・・・他にも食器や筆記用具。あの家にはあなたとサクヤの気配が溢れてる」
「・・・カカシさんの思い違いです・・」
「どうしてそんな嘘をつくの?」
「カカシさんこそ、どうしてそんなことを気になさるんですか?」
「ーーー気になるんです」
「・・・・・」
「わからないけど、気になるから・・」
カカシのそんな言葉に、イルカが奥歯を噛みしめる。
どうしてカカシがそんなことを言うのかわからない。
記憶をなくして、子供が居ると告げられた時、その表情は疎ましいと物語っていた。
仕方なくサクヤの面倒を見て、母親の事だって深くは追求しなかった。
それが何故、今になって。
「それを知ってどうするんですか?」
「どうって・・・」
「もし俺が、記憶を失う前のあなたと暮らしていたとしても、それが今のあなたに必要なことですか?」
「イルカ先生」
そうだ。
共に過ごした記憶全てを失ったのだって。
「結局、あなたにはいらない記憶だったから、全部忘れたんじゃ・・・」
口にした瞬間、そうなのだと思った。
汚点。
ずっと、陰でそう言われていた。
もっと血筋の良い女との縁だって望めたカカシが、何故と。
このマイノリティな関係が、里にも良くは思われていないことを知っていながら、目を背けていたのだ。
カカシが必要だと言ってくれたから。
共にと約束してくれたから。
けれど、そう思っていた事自体が間違っていたとしたら・・・。
「・・・・・」
床に座り込んだまま、呆然とした表情で眼の前の男を見つめた。
見た目は全く変わらないのに、記憶だけがポッカリと抜けて落ちてしまっている。
一緒に暮らし、笑いあった穏やかで優しい日々の全てを忘れられてしまったのだ。
「イルカ先生」
名前を呼んでも、ただうつろな視線だけを向けるイルカの頬に手を伸ばす。
目尻に浮かんだ涙に、忘れられた方も同じように辛いのだと初めて知った。
「すみません」
拒むようにカカシの身体を軽く押したイルカが、ゆっくりと立ち上がり背を向けようとする。
全てを諦めてしまったような顔。
あぁ、こんな顔を前にも見た気がすると、部屋へ去ろうとするイルカの腕を掴み強引に腕の中に抱き込んだ。
「ーーカカッ・・ッ!!」
「オレにかけられた術ね・・・最も幸せだった頃の記憶を奪うもの、だそうです」
「え・・・?」
「一番の幸せ・・・」
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