ヒュンッと射るようなスピードで投げつけられたクナイを交わし、素早く印を結ぶ。
発動した術に体勢を整え、さらにダメ押しとばかりに別の印を結んだ。

「・・クッ・・」

任務帰りのチャクラが残り少ない状態での戦闘はかなり身体に堪えるが、そんなことも言ってられない。

「はたけ上忍ッ!!」
「こっちはオレに任せて、左の三人をッ!」

すれ違っただけだ。
お互い無理せずやり過ごすのかと思った瞬間、発せられた殺気に反応して同じ隊の中忍が戦闘の口火を切った。
気が立っていたのはお互い様だろう。
しかし、木の葉にほど近いこの樹海で何をしていたかと問われたら、敵もやすやすとは答えられまい。
戦闘はおこるべくして起こったのだ。

空中で体勢を入れ替えながら飛んでくる起爆札付きのクナイを回避して、木の枝に着地したと同時に敵の急所めがけてクナイを放った。
声もなく地面に落ちた敵を確認し、残りの敵忍へ向かってカカシは走った。

「ーーー死ねッ!!」

仲間の中忍が瀕死の敵に刀を振り上げた時だった。
ニヤリと笑う姿に本能が不味いと感じる。
残りのチャクラを総動員して一気に右手に溜めた。
刀を振り上げたままの仲間を足で蹴り飛ばし、そのまま心臓めがけて突き刺すべく腕を伸ばす。

「雷切ッ!」
「ーーーーーッ!!」

肉を貫通する嫌な感触と、チチチと小鳥が鳴く様な音。
別働隊が仕掛けた起爆札が起動した爆音で、敵忍が何を叫んだのかは窺い知れなかった。
ただ、カカシを見つめる眼が、嫌な光を放ってぐにゃりと歪んだ。
真っ向から見合った瞳にゾクリと背筋が凍る。

・・・・瞳術ッ!!

限界まで引き出したチャクラのせいで、写輪眼が読み解いたのはそこまでだった。
グラリと倒れる身体が重心を失い崩折れていく。

「ーーーはたけ上忍ッ!!!」

必死に叫ぶ仲間の声が遠くに聞こえた。
敵の瞳術にかかり切る前に、写輪眼をフル稼働する。
それでも、チャクラが足りない。
脳裏の片隅から白いものに侵食されていく鈍い感覚に膝をつくと、カカシはゆっくりと意識を手放したのだった。



*****



取り込んだ洗濯物を畳みながら、庭に視線を向けて茜色に染まる空を見つめた。
少し日が暮れるのが遅くなったかな?
季節の変わり目を感じることの出来るこの庭を、イルカはとても気に入っている。

「うあ」
「ん?」

遊んでいたサクヤが、積み木をヨダレまみれにしてるのに苦笑して、よだれかけで口元を拭ってやる。

「あーあ、ベトベトだな」
「やん」
「やん、じゃないだろ?」

取り上げようとすると怒るので、濡れた積み木も手に持たせたままついでに拭った。

「まんま」
「あぁ、腹減ったよな」

パカリと口をあける、まるで小鳥の雛のような仕草に笑いがもれる。
積み木にかぶりついていたのは、よほどお腹が空いていたのだろう。
こうなったらあまり待ってはくれないのがサクヤだ。
洗濯物を片付け、食事の支度をすべく立ち上がったイルカの後を、サクヤも立ち上がってとてとてとついてくる。
勿論ハイハイのほうが断然速いのだが、最近はもっぱら歩くことに興味が有るようだ。
ぽてん、と尻もちをつく姿がとても可愛いので、イルカはそんなサクヤをついつい視線の端に置きながら、台所へと立った。

「う」

数歩も行かない内に尻もちを付いた姿に苦笑して、抱き上げてやろうと足を踏み出した所で、袖に何かが引っかかり、シンクがガチャンと派手な音をたてた。

「げっ!」

慌ててシンクから持ち上げたコップは、派手に割れはしなかったけれど、ピシリと一本のひび割れが入っていた。

「やべ・・・、カカシさんのコップ・・・」
「あー」

舌を出すイルカに、サクヤが指をさして声をあげた。

「明日、買ってこなきゃな」
「あう」
「この際、三人で揃えちまうか?」
「う」

頷くサクヤに笑って話しかける。
怪我をしないように新聞紙に包んだイルカは、ハイハイで足元までやってきたサクヤを蹴飛ばさないように用心しながら、夕食の支度にとりかかった。



*****



『至急、木の葉病院へ』

庭先から飛び込んできた綱手からの式に、背筋がヒヤリとした。
今までにもこんなことがなかったわけじゃない。
それでもこれほどまでに嫌な予感がしたことはなかった。

「サク」

手早く身支度を整えると、食事も終わり犬のぬいぐるみを抱きしめながらウトウトとしているサクヤに声をかける。

「ちょっと急ぐからな。しっかり捕まってろよ」
「う」

ぬいぐるみごと抱き上げて、イルカは力強く地面を蹴った。
屋根の上を走ることはあまり褒められたことではないが、緊急時だ。
とにかく早く病院へと気ばかりが焦る。
尋常でないイルカの様子に、サクヤもすっかり睡魔が吹っ飛んだのか、ギュッと忍服をつかんで屋根を走るイルカのスピードに耐えた。
受付業務にもあまり入れていないイルカには、カカシがどこの任務地へ赴いていたのか把握できていない。
共に暮らしているからといっても、守秘義務は守られているのだ。
手練のカカシだから、高ランクが振り当てられるのは当然だとしても、こんな式が飛び込んでくる度に寿命が縮む思いがする。
受付への挨拶もそこそこに、カカシが運び込まれた病室の扉を力いっぱい開けて飛び込んだ。
病院では静かに。
なんてそんな決まり事構ってはいられない。

「ーーーカカシさんッ!!」
「あれ? イルカ先生?」

悲壮な顔で名前をよぶイルカとは反対に、カカシが呑気な声をだす。
診察中なのだろう綱手が、苦虫を噛み潰したような顔をして額に手を当てていた。

「どうしたんですか? そんなに急いで」

ベッドの上、起き上がったまま点滴をうけていたカカシは、いきなり入ってきたイルカに眼をパチパチとさせた。

「え・・っと、カカシさんが入院したって・・」

嫌な予感に急いで来てはみたものの、見たところ元気そうだ。
キョトンとした様子のカカシも、イルカが飛び込んできたことに心底驚いているようでもある。

「あぁ・・、ちょっとヘマしちゃいまして」

照れたように頭をかく姿もいつもと変わりない。

「ヘマどころじゃないよ。上忍が毎回チャクラ切れなんて格好悪い事この上ないね」
「酷いなぁ、綱手様は」

辛辣な言葉にも、いつもの調子で頭を掻いた。

「ましてやチャクラ切れぐらいならともかく・・・」

イライラとして尚も言い募ろうとする綱手に苦笑して、突っ立ったままのイルカに視線をやった。

「イルカ先生が見舞いに来てくれるなんて驚きました」
「・・・・え?」

どうして驚くのだろう。
カカシの言葉に首を傾げてチラリと綱手を見るも、小さく頭を振っている。

「あたしが呼んだんだよ」
「綱手様が?」

本当にわからないのか、立ちすくんだままのイルカを不思議そうに眺めた。
何かがおかしいと胸がザワつく。
チラリと綱手をみるも、険しい表情は変わってはいない。
やはり何かあるのかと、カカシに視線を移そうとした時だった。
綱手が苦々しげに溜息をついた。

「・・・五代目・・・?」
「間抜けが、どうやら記憶を失ってるらしい」
「・・・え・・?」
「一緒に居た奴の話によれば、特殊な瞳術を使う忍びだったようでね。ここ2・3年の記憶がごっそりなくなってる。そうだな、カカシ?」
「みたいですねぇ」

断言した綱手に、カカシはなんとも適当な返事を返した。

「ま、チャクラさえ完全に戻れば任務に支障はありませんよ」
「当たり前だ」

記憶などどうでもいい、そんな風にも聞こえる言葉に、腕の中のサクヤをギュッと抱きしめる。

「かー」

小さな手を伸ばしてカカシを呼ぶのに、カカシが初めて腕の中のサクヤに視線を移した。
まるで他人の子供を見るような表情に胸騒ぎがする。
それにしても・・と、静かな病室に普段と変わらない声がのんびりと響く。

「珍しいですね。イルカ先生が赤ん坊連れなんて」

まさかアカデミー生じゃないですよね?
小首を傾げる姿に眼を見開く。

「あの、・・・カカシさん・・・」
「その子、どこの子ですか?」
「ーーーーーッ!?」

紡がれた言葉に身体が強張る。
全身から冷や汗が吹き出し、心臓がドクリと嫌な音をたてた。

「何言ってんだい。お前の子だよ、カカシ」
「は? オレ?」

呆れたような綱手の声にも、ポカンとしたまま腕の中のサクヤを見やる。

「ぷー」

無邪気に手を伸ばすサクヤが、いつまでたっても抱いてくれないカカシに不満げに唇を尖らせている。

「というわけだ、イルカ。とりあえず今日はこのまま入院させておくが、明日はもう連れて帰っていい」
「えっ!? ち、ちょっと・・五代目・・・」

後は頼んだとばかりに病室を後にする綱手に、呆然と立ち尽くしたままイルカはその背中を見送ったのだった。
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【恋は銀色の翼にのりて】
恋は銀色の翼にのりて
恋の妙薬
とある晴れた日に

【Home Sweet Home】
Home Sweet Home
もう一度あなたと恋を
夜に引き裂かれても

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幼馴染
戦場に舞う花

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あなたの愛になりたい

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【その他】
Beloved One(オメガバース)
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