顔を覆う面を外し、冷えた空気を確かめるように小さく息を吐きだした。
カカシが行方知れずになってはや数ヶ月だ。
彼の持つ稀有な瞳の行方を探すという名目で幾度となく捜索隊が組まれているが、消息は杳としてしれずその成果は芳しくはなかった。
死体でも良い。そう言い切った里長の表情には、生死の有無さえわからぬカカシへの諦めと、写輪眼を他里に奪われることの焦りが滲んでいるかのように見られた。
夜の帳が降ろされた空を見上げれば、瞬く星たちがまるで天から降り注いでくるようで思わず立ち止まる。
ぬばたま色に染められた頭上を飾るのは何も星ばかりではない。
「・・・・」
一際大きな輝きを放つ白銀の月から身を隠すように、ヤマトは樹木の影へと身体を潜ませた。
暗闇に迷う旅人を優しく照らすその光は、今の自分にとっては恐れでしか無い。
ふと脳裏をよぎった思いに驚き、馬鹿なことをと苦笑した。
幼き頃から同じ部隊で共に戦い生き抜いてきた。尊敬と忠誠を捧げた彼にこんな思いを抱く日が来るなど思いもしなかった、と。
少しばかりの後ろめたさに首を振り、ヤマトは再びその顔を獣面で覆い隠す。
『・・行くぞ・・テンゾウ』
促す合図に応え、足場の幹を蹴り出そうとした瞬間。
目線の先を掠めたモノに、ギクリとしてその方向へと目を凝らした。
僅かに感じるチャクラ。特殊部隊特有の術が組み込まれたその式は、特定の者だけにしか感知することが出来ないものだ。
「―――・・待、て・・・・っ」
掴もうとして爪先からすり抜けたそれは、先を走る別の暗部の手の中へと滑りこむ。
一瞬にして、部隊全体に緊張が走るのがわかった。
ドクン。胸を打つ鼓動がやけに大きく響く。振り返った獣面が、歓喜の声をあげるのを面の下で見つめながら、ジトリと毛穴から噴き出した汗が背中を伝うのを感じた。
『・・医療班を呼べ・・・っ!!』
『場所はっ!?』
『火影様に報告をッ!』
『伝令だッ!! 里まで走れっ!』
号令とともに、里を目指して一気に部隊が動き出す。
犇めき合った樹木の間を獣のように掻い潜り、地を蹴って風よりも速く。
鞭のようにしなる枝が、むき出しの腕を裂き赤い血潮の雫を垂らす。
走って、走って、ただひたすらに駆け抜けて。
空気を求めて喘ぐ肺が喉を枯らし、ヤマトの口内を血に染める。吐く息が例えようもなく苦しい。
けれどそんなことよりも、胸が―――・・・・。
「―――イルカ・・さん・・ッ!!」
彼の人の生存を知ったなら、あなたはどうするのだろう。
暗闇に手を伸ばし、あがくように空を掻いた。
自らの吐く荒い呼吸だけが、酷く大きく耳元に木霊する。
出来ることなら知らせたくない。けれど他の誰かの口から知ってほしくはなかった。
歓喜と失望。恋慕と嫉妬。ないまぜの感情に心を乱しながら、ヤマトはただひたすら走った。
終わりはいつも突然で、予期せぬ状況に戸惑い慌てどうすることも出来ない現実に、人はただ呆然と佇むことしか出来ない。
粉々に砕け散ったガラスの欠片を拾い集めようとしてもがき、手の中から無残にこぼれ落ちていくのを絶望の中で、知った。
*****
音も立てず扉の前に立った気配を察し、イルカはいつもの様に扉を開いて迎え入れた。
特殊部隊の装束。正体を隠す獣面でいまだ顔は覆ったままだ。
「こんばんは。・・・何かあったんですか・・?」
この姿で彼とまみえるのは初めてのことだ。
言葉尻に交じる緊張に、表情はサッと険しい物にかわる。
「生きていました」
「・・・え・・?」
面を通して伝えた声は、普段よりもくぐもった音となって辺りに響く。
言葉の意味を理解しようとして僅かに小首を傾げたイルカが、信じられないと言うように眼を見開いた。
「・・・いま、なんて」
忍びに二言はない。けれど確認せずにはいられない心情を理解し、再度言葉を紡ぐ。
「先輩が・・・カカシさんが生きて・・」
「・・――――・・・ッ!!」
みなまで聞かず、部屋を飛び出そうとした身体を咄嗟に抱きとめた。
湯上がりの石鹸の匂いが鼻先を擽り、結いあげていない髪からは小さな水滴が辺りに舞う。
「カカッ・・さ・・・!!!」
「イルカさんっ!!」
「離してッ・・くださいっ!」
凄まじい力で抗う身体を抱きしめて、行かせるものかと廊下の壁に無理やり押さえつける。
「落ち着いて・・まだ、場所は捜索中ですッ!」
「―――は、なせ・・っ!」
「あなたが行っても、何にもならないっ!!」
「・・カカシさんッ・・・離せっ!!」
「――――・・ッ!」
振り払った手が顔を覆う面を打ち、感情を剥き出しにした素顔が彼の前に晒される。
互いに必死の形相で、唇が触れ合うほど近くにいるのに思いはまるですれ違っている。
こんな嫉妬に狂った醜い顔を、あなたにだけはけして見られたくはなかったのに。
「ヤマト・・さん・・?」
「・・・先輩は無事です。今は仲間と医療班が救出に向かっています・・だからっ・・」
「・・は・・・・」
力の抜けた膝が折れ、ズルズルと壁を伝って床に座り込んだイルカが掌で口元を覆う。
途端に溢れる涙と嗚咽。子供のように声をあげて泣くイルカの身体を力いっぱい抱きしめた。
「大丈夫です」
「・・カカシ・・さ・・」
「・・戻ってきますよ、里に」
あなたのもとに。
残酷な言葉を自ら口にして、腕の中で小さく頷くイルカの髪を指で梳いて掻き分ける。
嗚咽に震える身体を抱きしめながら、露出させた首筋に薬を含ませた針を刺した。
「・・な、に・・」
いくら取り乱しているといっても中忍だ。チクリと肌を刺す感覚に驚いて、イルカが腕から逃れようと身体を捩る。
「鎮静剤です。暴れると速くまわるよ」
「ど・・して・・?」
「こうでもしないと、あなたはまた飛び出して行くでしょう」
暗部処方の鎮静剤は、薬物耐性を持たない者には強すぎる。諭すように言い聞かせた言葉は、イルカの耳に届いただろうか?
次第に力の抜けていく身体を抱きかかえて寝室へと運ぶと、敷きっぱなしの布団の上に横たえた。
瞳から溢れる涙でぐちゃぐちゃの顔。わななく唇を味わったのは只の一度きり。
「・・・・・」
思いを振り切るように立ち去ろうとしたヤマトの手を、眠るまいとする意思だけで瞳を揺らめかせるイルカの指先が握りしめた。
「ヤマトさん・・おれ・・」
「手を離してください」
混濁した黒い瞳の中に、歪んだ自分の姿が映る。
「・・・すみません」
何を謝罪するというのだろう。薬の作用に抗いながら必死でそう呟くイルカの頬を、ヤマトはゆっくりと掌で包み込んだ。
「ヤマトさん・・」
「・・・・・」
わかっていた筈だ。
たとえどんなに傍にいたとしても、この人がカカシを忘れるわけがないのだと。
それでも。
夢を見たのは過ちだったとは思わない。
「・・・・・」
共に酒を酌み交わし、笑いあった短き日々を。
そうして芽生えた淡い片恋にそっと鍵をかけた。
「イルカさん・・」
柔らかい唇を指先で辿り、たった一度の口付けを思い出す。
もう二度と戻れないのなら、せめて―――と・・・。
意識を手放したイルカの唇に、祈るような気持ちで自らのそれを触れ合わせた。
里を一望できる火影岩の上に立ち、阿吽の門へと視線を巡らせた。
医療忍に支えられながら大門をくぐったカカシの胸に、転びそうな勢いで駆け寄ったイルカが飛び込む。
困ったような笑い顔。冷徹な彼がそんな表情をするなんてと少しばかり驚いて、泣き笑いのイルカの姿に当たり前かと納得した。
あんな風に素直に触れられたら、氷のような冷たい心もあっという間に溶かされてしまうに決まっている。
そう、ボクだって―――。
イルカとの日々を思い出し、鍵をかけた想いがジクリと疼くのに自嘲する。
「・・・・っ!」
不意に感じた気配に顔を上げれば、イルカを腕に抱いたまま真っ直ぐこちらを見据えるカカシの視線に苦笑した。
それは、牽制かそれとも?
「・・目ざとい人だ」
あなたには敵わないと、もう知っているというのに。
*****
音もなく現れた人影に、カカシはベッドの背もたれに凭れかかったまま視線だけをチラリとそちらへ向けた。
検査結果を聞き漸く安堵したイルカをアカデミーに送り出し、今は病室にカカシ一人だ。
その時を待っていたとでも言うようにここに現れた人物の姿に、唇の端を吊り上げる。
「世話になったね」
「いえ・・」
その言葉の深意に気づかぬ振りをして、首を左右に振った。
退却時を狙った戦闘で部隊の半数以上を失い、深手を負ったカカシは最後の力で結界を張り自らのチャクラを封じて傷の回復を待った。
その後単独で漏れた情報の行方を探り、火影が送り出した調査隊という名の特殊部隊の出動を待って敵を殲滅したというわけだ。
「ワンマンプレイは掟に反しませんか?」
咎める口調にも、僅かに眉を上げるだけだ。
「あの襲撃は、偶然だと思うか?」
「・・・それは」
「 背後から寝首を掻かれることを考えれば、単独で動くほうが安全だ」
「それでもっ!」
せめて自分には、と。
ずっとツーマンセルを組んできた。背中は預けてもらっている思っていただけに、そんなカカシの言葉に思わず声を荒げた。彼にとっては自分など、信頼に足る相棒だと思われていないのかと。
「お前には、もっと大事な役目を任せていたでしょ」
クククッと笑う声に顔を上げた。
けれどけして笑っていない瞳に、息を呑む。
「辛いなら、消してやろうか」
普段は閉じられた瞳の中にはうちはの写輪眼。なんでもお見通しだと、まるで見透かすようなその文様から目を背ける。
「・・・何のことでしょう」
「何があったかなんて野暮なことは聞かないけれど、次はないよ」
覚悟しておけと脅す言葉には、もう先程の一触即発の気配は見えない。
「それを仰るなら、もう二度とヘマはしないでください」
「ヘマってお前ねぇ・・・」
「ボクも今度は遠慮しません」
だからそう言って、挑戦状を叩きつける。
「はっ、食えないヤツ」
「あなたの後輩ですから」
「ふふっ」
互いに笑い合い、好敵手となった相手へと火花を散らす。
「・・・・」
カカシが戻ってこなかったら一体自分たちはどうなっていたのだろうと、脳裏をよぎる考えに苦笑して窓の外を見た。
冷えた大地を包み込む陽光を、暫くは直視できそうもないけれど。
胸の奥にしまいこんだ優しい記憶は、特別な愛の詩をいつまでも歌い続ける。
【完】
カカシが行方知れずになってはや数ヶ月だ。
彼の持つ稀有な瞳の行方を探すという名目で幾度となく捜索隊が組まれているが、消息は杳としてしれずその成果は芳しくはなかった。
死体でも良い。そう言い切った里長の表情には、生死の有無さえわからぬカカシへの諦めと、写輪眼を他里に奪われることの焦りが滲んでいるかのように見られた。
夜の帳が降ろされた空を見上げれば、瞬く星たちがまるで天から降り注いでくるようで思わず立ち止まる。
ぬばたま色に染められた頭上を飾るのは何も星ばかりではない。
「・・・・」
一際大きな輝きを放つ白銀の月から身を隠すように、ヤマトは樹木の影へと身体を潜ませた。
暗闇に迷う旅人を優しく照らすその光は、今の自分にとっては恐れでしか無い。
ふと脳裏をよぎった思いに驚き、馬鹿なことをと苦笑した。
幼き頃から同じ部隊で共に戦い生き抜いてきた。尊敬と忠誠を捧げた彼にこんな思いを抱く日が来るなど思いもしなかった、と。
少しばかりの後ろめたさに首を振り、ヤマトは再びその顔を獣面で覆い隠す。
『・・行くぞ・・テンゾウ』
促す合図に応え、足場の幹を蹴り出そうとした瞬間。
目線の先を掠めたモノに、ギクリとしてその方向へと目を凝らした。
僅かに感じるチャクラ。特殊部隊特有の術が組み込まれたその式は、特定の者だけにしか感知することが出来ないものだ。
「―――・・待、て・・・・っ」
掴もうとして爪先からすり抜けたそれは、先を走る別の暗部の手の中へと滑りこむ。
一瞬にして、部隊全体に緊張が走るのがわかった。
ドクン。胸を打つ鼓動がやけに大きく響く。振り返った獣面が、歓喜の声をあげるのを面の下で見つめながら、ジトリと毛穴から噴き出した汗が背中を伝うのを感じた。
『・・医療班を呼べ・・・っ!!』
『場所はっ!?』
『火影様に報告をッ!』
『伝令だッ!! 里まで走れっ!』
号令とともに、里を目指して一気に部隊が動き出す。
犇めき合った樹木の間を獣のように掻い潜り、地を蹴って風よりも速く。
鞭のようにしなる枝が、むき出しの腕を裂き赤い血潮の雫を垂らす。
走って、走って、ただひたすらに駆け抜けて。
空気を求めて喘ぐ肺が喉を枯らし、ヤマトの口内を血に染める。吐く息が例えようもなく苦しい。
けれどそんなことよりも、胸が―――・・・・。
「―――イルカ・・さん・・ッ!!」
彼の人の生存を知ったなら、あなたはどうするのだろう。
暗闇に手を伸ばし、あがくように空を掻いた。
自らの吐く荒い呼吸だけが、酷く大きく耳元に木霊する。
出来ることなら知らせたくない。けれど他の誰かの口から知ってほしくはなかった。
歓喜と失望。恋慕と嫉妬。ないまぜの感情に心を乱しながら、ヤマトはただひたすら走った。
終わりはいつも突然で、予期せぬ状況に戸惑い慌てどうすることも出来ない現実に、人はただ呆然と佇むことしか出来ない。
粉々に砕け散ったガラスの欠片を拾い集めようとしてもがき、手の中から無残にこぼれ落ちていくのを絶望の中で、知った。
*****
音も立てず扉の前に立った気配を察し、イルカはいつもの様に扉を開いて迎え入れた。
特殊部隊の装束。正体を隠す獣面でいまだ顔は覆ったままだ。
「こんばんは。・・・何かあったんですか・・?」
この姿で彼とまみえるのは初めてのことだ。
言葉尻に交じる緊張に、表情はサッと険しい物にかわる。
「生きていました」
「・・・え・・?」
面を通して伝えた声は、普段よりもくぐもった音となって辺りに響く。
言葉の意味を理解しようとして僅かに小首を傾げたイルカが、信じられないと言うように眼を見開いた。
「・・・いま、なんて」
忍びに二言はない。けれど確認せずにはいられない心情を理解し、再度言葉を紡ぐ。
「先輩が・・・カカシさんが生きて・・」
「・・――――・・・ッ!!」
みなまで聞かず、部屋を飛び出そうとした身体を咄嗟に抱きとめた。
湯上がりの石鹸の匂いが鼻先を擽り、結いあげていない髪からは小さな水滴が辺りに舞う。
「カカッ・・さ・・・!!!」
「イルカさんっ!!」
「離してッ・・くださいっ!」
凄まじい力で抗う身体を抱きしめて、行かせるものかと廊下の壁に無理やり押さえつける。
「落ち着いて・・まだ、場所は捜索中ですッ!」
「―――は、なせ・・っ!」
「あなたが行っても、何にもならないっ!!」
「・・カカシさんッ・・・離せっ!!」
「――――・・ッ!」
振り払った手が顔を覆う面を打ち、感情を剥き出しにした素顔が彼の前に晒される。
互いに必死の形相で、唇が触れ合うほど近くにいるのに思いはまるですれ違っている。
こんな嫉妬に狂った醜い顔を、あなたにだけはけして見られたくはなかったのに。
「ヤマト・・さん・・?」
「・・・先輩は無事です。今は仲間と医療班が救出に向かっています・・だからっ・・」
「・・は・・・・」
力の抜けた膝が折れ、ズルズルと壁を伝って床に座り込んだイルカが掌で口元を覆う。
途端に溢れる涙と嗚咽。子供のように声をあげて泣くイルカの身体を力いっぱい抱きしめた。
「大丈夫です」
「・・カカシ・・さ・・」
「・・戻ってきますよ、里に」
あなたのもとに。
残酷な言葉を自ら口にして、腕の中で小さく頷くイルカの髪を指で梳いて掻き分ける。
嗚咽に震える身体を抱きしめながら、露出させた首筋に薬を含ませた針を刺した。
「・・な、に・・」
いくら取り乱しているといっても中忍だ。チクリと肌を刺す感覚に驚いて、イルカが腕から逃れようと身体を捩る。
「鎮静剤です。暴れると速くまわるよ」
「ど・・して・・?」
「こうでもしないと、あなたはまた飛び出して行くでしょう」
暗部処方の鎮静剤は、薬物耐性を持たない者には強すぎる。諭すように言い聞かせた言葉は、イルカの耳に届いただろうか?
次第に力の抜けていく身体を抱きかかえて寝室へと運ぶと、敷きっぱなしの布団の上に横たえた。
瞳から溢れる涙でぐちゃぐちゃの顔。わななく唇を味わったのは只の一度きり。
「・・・・・」
思いを振り切るように立ち去ろうとしたヤマトの手を、眠るまいとする意思だけで瞳を揺らめかせるイルカの指先が握りしめた。
「ヤマトさん・・おれ・・」
「手を離してください」
混濁した黒い瞳の中に、歪んだ自分の姿が映る。
「・・・すみません」
何を謝罪するというのだろう。薬の作用に抗いながら必死でそう呟くイルカの頬を、ヤマトはゆっくりと掌で包み込んだ。
「ヤマトさん・・」
「・・・・・」
わかっていた筈だ。
たとえどんなに傍にいたとしても、この人がカカシを忘れるわけがないのだと。
それでも。
夢を見たのは過ちだったとは思わない。
「・・・・・」
共に酒を酌み交わし、笑いあった短き日々を。
そうして芽生えた淡い片恋にそっと鍵をかけた。
「イルカさん・・」
柔らかい唇を指先で辿り、たった一度の口付けを思い出す。
もう二度と戻れないのなら、せめて―――と・・・。
意識を手放したイルカの唇に、祈るような気持ちで自らのそれを触れ合わせた。
里を一望できる火影岩の上に立ち、阿吽の門へと視線を巡らせた。
医療忍に支えられながら大門をくぐったカカシの胸に、転びそうな勢いで駆け寄ったイルカが飛び込む。
困ったような笑い顔。冷徹な彼がそんな表情をするなんてと少しばかり驚いて、泣き笑いのイルカの姿に当たり前かと納得した。
あんな風に素直に触れられたら、氷のような冷たい心もあっという間に溶かされてしまうに決まっている。
そう、ボクだって―――。
イルカとの日々を思い出し、鍵をかけた想いがジクリと疼くのに自嘲する。
「・・・・っ!」
不意に感じた気配に顔を上げれば、イルカを腕に抱いたまま真っ直ぐこちらを見据えるカカシの視線に苦笑した。
それは、牽制かそれとも?
「・・目ざとい人だ」
あなたには敵わないと、もう知っているというのに。
*****
音もなく現れた人影に、カカシはベッドの背もたれに凭れかかったまま視線だけをチラリとそちらへ向けた。
検査結果を聞き漸く安堵したイルカをアカデミーに送り出し、今は病室にカカシ一人だ。
その時を待っていたとでも言うようにここに現れた人物の姿に、唇の端を吊り上げる。
「世話になったね」
「いえ・・」
その言葉の深意に気づかぬ振りをして、首を左右に振った。
退却時を狙った戦闘で部隊の半数以上を失い、深手を負ったカカシは最後の力で結界を張り自らのチャクラを封じて傷の回復を待った。
その後単独で漏れた情報の行方を探り、火影が送り出した調査隊という名の特殊部隊の出動を待って敵を殲滅したというわけだ。
「ワンマンプレイは掟に反しませんか?」
咎める口調にも、僅かに眉を上げるだけだ。
「あの襲撃は、偶然だと思うか?」
「・・・それは」
「 背後から寝首を掻かれることを考えれば、単独で動くほうが安全だ」
「それでもっ!」
せめて自分には、と。
ずっとツーマンセルを組んできた。背中は預けてもらっている思っていただけに、そんなカカシの言葉に思わず声を荒げた。彼にとっては自分など、信頼に足る相棒だと思われていないのかと。
「お前には、もっと大事な役目を任せていたでしょ」
クククッと笑う声に顔を上げた。
けれどけして笑っていない瞳に、息を呑む。
「辛いなら、消してやろうか」
普段は閉じられた瞳の中にはうちはの写輪眼。なんでもお見通しだと、まるで見透かすようなその文様から目を背ける。
「・・・何のことでしょう」
「何があったかなんて野暮なことは聞かないけれど、次はないよ」
覚悟しておけと脅す言葉には、もう先程の一触即発の気配は見えない。
「それを仰るなら、もう二度とヘマはしないでください」
「ヘマってお前ねぇ・・・」
「ボクも今度は遠慮しません」
だからそう言って、挑戦状を叩きつける。
「はっ、食えないヤツ」
「あなたの後輩ですから」
「ふふっ」
互いに笑い合い、好敵手となった相手へと火花を散らす。
「・・・・」
カカシが戻ってこなかったら一体自分たちはどうなっていたのだろうと、脳裏をよぎる考えに苦笑して窓の外を見た。
冷えた大地を包み込む陽光を、暫くは直視できそうもないけれど。
胸の奥にしまいこんだ優しい記憶は、特別な愛の詩をいつまでも歌い続ける。
【完】
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