危機一髪(Web再録書き下ろし)
「いいか、よく見ておけよ」
「あう」
印を結ぶ指は丁寧に、素早く流れるように結びながら術を唱える。
「変化っ!」
ボフン。言葉とともに上がった白煙に、サクヤが目の前で「おおぉぉっ!」っと興奮して大きな声を出した。
「どうだ?」
「………ふにゅ…」
目の前に現れたイルカによく似た女性(もちろんイルカなのだが)に、さくらんぼのような唇から言葉にならない声がもれる。そのまま警戒するようにズリリと尻を動かして後ずさった。
「サクヤ?」
「やーのっ」
「なにビビってんだよ。ほらっ、俺だぞ」
解っ! の言葉とともに再び元の姿に戻ったイルカをみて、距離をとっていたサクヤがいそいそと戻ってきた。
「いー」
「な、俺だったろ?」
「あう」
ぺたりとイルカの前に座り込み、紅葉のような小さな手をパチパチと打つ。
今時のアカデミーでも見られないような素直な賞賛に、思わずニコリと頬が緩んだ。
「もう一回するからな。よーく見ておくんだぞ」
「う?」
「変化の術っ!」
白煙とともに再び現れた女性の姿に、今度はおそるおそる手を伸ばす。ぺとりと触れた小さな掌を、繊細な指が優しく撫ぜた。
「いー?」
「あぁ」
そのまま抱き上げて、柔らかい身体でサクヤを包み込む。
「ほらな。怖くねぇだろ?」
いつもとは違う細い腕が頼りなくて不安なのだろうか。腕に抱かれたサクヤが手を伸ばしてアンダーを掴んだ。
額を擦り付けるように胸元に耳を当て、とくとくと静かに脈打つ穏やかな鼓動を確かめるようにじっとしている。
「サクヤ?」
少し高いイルカの声に、視線だけを上に向けた。
「あう」
「ふふっ、あんまりぐりぐりするなよ。くすぐってぇ」
サクヤを抱いたまま、ごろりと畳の上に転がる。覗き込むように這い上がってきたサクヤが、戸惑った様子でペタペタとイルカの頬に触れた。
「なんだよ」
「いー?」
「そうだよ」
色だけはそっくりだと言われるサクヤの瞳の中に、女体化した自分が映っている。
いつもよりは大きな瞳に、小さな唇。意識したつもりは無いが、やはり母ちゃんに似ているだろうか? 思わずじっくりと見入ってしまった。
しかし、まさかまた女体変化の術を行うとは思いもしなかった、と。
数日前の出来事を思い出し苦笑する。
ことの発端は、中隊の帰還で賑わう報告所。
くノ一に囲まれて号泣しているサクヤを見兼ねたイワシの、何気ない一言だった。
『サクヤがくノ一のことを毛嫌いするのってよぉ、まわりに若い女がいねぇからじゃねぇ?』
その言葉に視線を向ければ、無理やり抱き上げられた身体を反り返し、必死に抵抗している我が子の姿が視界に入る。
カカシそっくりだと評判の可愛い顔は、すでに涙と鼻水でぐちゃぐちゃで見る影もない。
すまん、もう少しの辛抱だ。耐えてくれ。
助けを求めるサクヤの声に心のなかで謝りながら、提出された書類に目を落とす。
実際のところ泣き叫ぶ声に気が気ではないが、とにかく仕事を終わらせることが最優先事項だった。
『ん~、やっぱそうだな』
『何がだよ』
『女に免疫なさすぎってヤツだ』
『はぁ? んなわけねぇだろ』
そんなことよりとにかく手を動かしてくれ。とばかりについつい乱暴な返事になるが、イワシは全く気にすることなくクルクルっとペンを回してみせる。
そもそもサクヤはただのくノ一嫌いではない。
イルカに敵意を持つくノ一に、敏感に反応しているだけなのだ。
『考えてもみろよ。お前みたいなムサい男に育てられてんだから、そりゃ若くて綺麗で胸の大きな女を警戒するって』
『そんなことでサクヤは泣いたりしねぇよ』
受付には当然のことながらくノ一だってやってくる。まぁ、その殆どに殺気を当てられているのだから、イルカにベッタリなサクヤが過敏になるのも仕方ないことなのだが。
『いーや、絶対そうだ。優し~いくノ一に毎日抱かれてみりゃ、サク坊だってあんなに泣かねぇんじゃねぇ?』
『……お前それ、本気で言っているのか?』
『当たり前だろ』
試しに一度やってみろよ、女体化。
真剣な顔で勧めてくるイワシの姿に辟易しながら、そろそろ我慢させるのも限界に近いサクヤを救出するべくイルカは立ち上がった。
――そんなこんなで今である。
最初の女体化の時こそ警戒心も顕にしていたサクヤだったが、二人して転がった畳の上で大人しく抱かれながらじっとイルカを見つめている。
子供特有のふわふわとした綿毛のような明るい銀髪。長い睫毛はくるりと上に巻き上がっている。
うちの子が世界一可愛いなんて言ったら、親ばかだって笑われちまうな。
くくくと笑えば、不思議そうに首をかしげられた。
「いー…?」
「どうした?」
「ん~」
ぺとっと唇に当たった指が既に熱い。
「そろそろお昼寝の時間かな」
「んぅ」
くわぁっと小さな唇が欠伸をすれば、イルカもつられて欠伸を返す。
小さな背中をぽんぽんと優しく叩いてやりながら、銀色の睫毛が何度か瞬きをして伏せられるのを見守った。
「……ぅん」
程なく聞こえてきた微かな寝息に、誘われるようにしてイルカも眠りに落ちるのだった。
「おやおや」
任務帰りの昼下がり。
親子で仲良く昼寝中の微笑ましい姿に思わず笑ってしまった。
それに。
「珍しいこともあるもんだねぇ」
華奢な身体に小さな顎。ダボ付いた忍服がなんとも頼りなげで、思わずマジマジと眠っている姿を覗き込んでしまう。
イルカの女体変化を初めて見たのは、彼が生徒達にお色気の術をかけられたまま、解術できずに困惑していた時だ。その後、護衛という目的でイルカの傍に張り付いたカカシ(の策略)によってサクヤを身籠ってからは、女体変化を頑なに拒否してきたというのに。いったいどんな心境の変化があったというのだろう。
くうくうと幸せそうに眠っているイルカの頬を、スルリと指先で撫ぜる。
赤身がさした頬が子供っぽい。ぷっくりとした唇から漏れる寝息がたまらなくて、このまま奪ってやろうかとカカシが顔を寄せたところで黒い睫毛が小さく揺れた。
「……ぅ、ん…」
「あぁ、残念」
もう少しだったのにという心の声は飲み込んで、汗で額に張り付いた髪を梳いてやる。
「カカシさん…?」
「ん」
「おかえりなさい」
寝ぼけ眼をこすりながら、ふにゃりと笑った顔がまた可愛い。
「一緒にお昼寝しちゃった?」
「あ…」
まだしっかりと覚醒していないイルカに笑って、今度こそ唇を重ねた。
ちゅっというリップ音とともに、背中に手が回される。
久しぶりのイルカを味わうような深い口付け。その口内に舌を忍び込ませれば、ためらいなく答えてくれる。
「……んんっ」
「熱烈な歓迎ですねぇ」
「だって……!」
数週間ぶりの帰還。イルカも待ち焦がれていたのだと思ったら、平静を装った頬も緩むというものだ。
「嬉しいよ」
「ばか」
呆れ顔の背中に手を回して引き寄せ、ぐっすりお昼寝中のサクヤの隣から引き剥がす。
たとえ息子だろうと男の隣で寝かせたくないなんて、我ながら狭量すぎて笑ってしまう。
「……まだ昼間ですけど」
「はい?」
「しましょうか」
「へ…っ?」
何を言われたのかわからない。
キョトンとした表情が、一瞬にしてゆでダコみたいに真っ赤に染まる。
腕の中でジタバタと暴れだした身体を押さえつけ、背中から上着をひん剥いた。
「ぷぁっ! な、なにするんですかっ」
「なにってナニに決まっているでしょう」
「ちょっと待ってくださ…っ!!」
「静かにしないとサクヤが起きますよ」
サクヤどころか障子が全開に開け放たれているので、庭から部屋の中は丸見えである。
「――この卑怯者っ!」
「はいはい。お叱りは後で存分に受けますから」
「うわっ!」
脱がせた上着の上に二人して転がって、細い首筋に唇を寄せる。
吹きかける息がくすぐったいのか、身をすくませるイルカに構うことなく吸い付いた。
「あ、んっ!」
「シー……。静かに」
耳元で囁きながら声を上げる唇を掌で塞いでしまう。苦しそうに身動ぎしたイルカが、降参とばかりにカカシの髪を引っ張った。
「うぅ――ッ! カカシ…さっ…」
「ん~?」
「ここじゃ、嫌です」
細い腰を脇腹にそって撫で上げる。いつものように抱きしめれば、華奢な身体がすっぽりと腕の中におさまった。
「ベッドに行きますか?」
白旗を振ったイルカが諦めたようにコクリと頷く。了解と相槌を打って抱き上げれば、そこで漸く自らの姿に気づいたように、ぎょっとした。
「そういや俺、まだ…っ!!」
「いや~、先生も水臭いなぁ。二人目が欲しいなら、はやく言ってくれればいいのに」
ニンマリ笑うカカシに、あたふたと慌てる身体が腕の中で暴れだす。
「そんなわけないでしょうっ!」
「またまた。変化して待っていてくれるなんて、正直驚きましたよ」
「ちがっ! こ、これは……」
「ほーら、暴れたら落っことしますよ」
そんなことを言いながら、わざと腕を緩めてみせる。本能的に縋り付いたイルカを抱えなおして、さっさと奥の部屋へと足を進めた。
「……ほんとうに、違いますから…」
「ふふっ」
乱れたシーツに下ろす直前、不安そうに言ったイルカに笑いながら腕を取る。
互いの指を絡めて組んだ印で解術すると、白煙とともにいつものイルカが現れた。
「ま、先生がそのつもりならオレは大歓迎ですから」
いつでも言ってくださいねと笑ったカカシに、怒りの拳骨が振り下ろされたのは記すべくもない。
(注)女体化しているのはこの章だけです
「あう」
印を結ぶ指は丁寧に、素早く流れるように結びながら術を唱える。
「変化っ!」
ボフン。言葉とともに上がった白煙に、サクヤが目の前で「おおぉぉっ!」っと興奮して大きな声を出した。
「どうだ?」
「………ふにゅ…」
目の前に現れたイルカによく似た女性(もちろんイルカなのだが)に、さくらんぼのような唇から言葉にならない声がもれる。そのまま警戒するようにズリリと尻を動かして後ずさった。
「サクヤ?」
「やーのっ」
「なにビビってんだよ。ほらっ、俺だぞ」
解っ! の言葉とともに再び元の姿に戻ったイルカをみて、距離をとっていたサクヤがいそいそと戻ってきた。
「いー」
「な、俺だったろ?」
「あう」
ぺたりとイルカの前に座り込み、紅葉のような小さな手をパチパチと打つ。
今時のアカデミーでも見られないような素直な賞賛に、思わずニコリと頬が緩んだ。
「もう一回するからな。よーく見ておくんだぞ」
「う?」
「変化の術っ!」
白煙とともに再び現れた女性の姿に、今度はおそるおそる手を伸ばす。ぺとりと触れた小さな掌を、繊細な指が優しく撫ぜた。
「いー?」
「あぁ」
そのまま抱き上げて、柔らかい身体でサクヤを包み込む。
「ほらな。怖くねぇだろ?」
いつもとは違う細い腕が頼りなくて不安なのだろうか。腕に抱かれたサクヤが手を伸ばしてアンダーを掴んだ。
額を擦り付けるように胸元に耳を当て、とくとくと静かに脈打つ穏やかな鼓動を確かめるようにじっとしている。
「サクヤ?」
少し高いイルカの声に、視線だけを上に向けた。
「あう」
「ふふっ、あんまりぐりぐりするなよ。くすぐってぇ」
サクヤを抱いたまま、ごろりと畳の上に転がる。覗き込むように這い上がってきたサクヤが、戸惑った様子でペタペタとイルカの頬に触れた。
「なんだよ」
「いー?」
「そうだよ」
色だけはそっくりだと言われるサクヤの瞳の中に、女体化した自分が映っている。
いつもよりは大きな瞳に、小さな唇。意識したつもりは無いが、やはり母ちゃんに似ているだろうか? 思わずじっくりと見入ってしまった。
しかし、まさかまた女体変化の術を行うとは思いもしなかった、と。
数日前の出来事を思い出し苦笑する。
ことの発端は、中隊の帰還で賑わう報告所。
くノ一に囲まれて号泣しているサクヤを見兼ねたイワシの、何気ない一言だった。
『サクヤがくノ一のことを毛嫌いするのってよぉ、まわりに若い女がいねぇからじゃねぇ?』
その言葉に視線を向ければ、無理やり抱き上げられた身体を反り返し、必死に抵抗している我が子の姿が視界に入る。
カカシそっくりだと評判の可愛い顔は、すでに涙と鼻水でぐちゃぐちゃで見る影もない。
すまん、もう少しの辛抱だ。耐えてくれ。
助けを求めるサクヤの声に心のなかで謝りながら、提出された書類に目を落とす。
実際のところ泣き叫ぶ声に気が気ではないが、とにかく仕事を終わらせることが最優先事項だった。
『ん~、やっぱそうだな』
『何がだよ』
『女に免疫なさすぎってヤツだ』
『はぁ? んなわけねぇだろ』
そんなことよりとにかく手を動かしてくれ。とばかりについつい乱暴な返事になるが、イワシは全く気にすることなくクルクルっとペンを回してみせる。
そもそもサクヤはただのくノ一嫌いではない。
イルカに敵意を持つくノ一に、敏感に反応しているだけなのだ。
『考えてもみろよ。お前みたいなムサい男に育てられてんだから、そりゃ若くて綺麗で胸の大きな女を警戒するって』
『そんなことでサクヤは泣いたりしねぇよ』
受付には当然のことながらくノ一だってやってくる。まぁ、その殆どに殺気を当てられているのだから、イルカにベッタリなサクヤが過敏になるのも仕方ないことなのだが。
『いーや、絶対そうだ。優し~いくノ一に毎日抱かれてみりゃ、サク坊だってあんなに泣かねぇんじゃねぇ?』
『……お前それ、本気で言っているのか?』
『当たり前だろ』
試しに一度やってみろよ、女体化。
真剣な顔で勧めてくるイワシの姿に辟易しながら、そろそろ我慢させるのも限界に近いサクヤを救出するべくイルカは立ち上がった。
――そんなこんなで今である。
最初の女体化の時こそ警戒心も顕にしていたサクヤだったが、二人して転がった畳の上で大人しく抱かれながらじっとイルカを見つめている。
子供特有のふわふわとした綿毛のような明るい銀髪。長い睫毛はくるりと上に巻き上がっている。
うちの子が世界一可愛いなんて言ったら、親ばかだって笑われちまうな。
くくくと笑えば、不思議そうに首をかしげられた。
「いー…?」
「どうした?」
「ん~」
ぺとっと唇に当たった指が既に熱い。
「そろそろお昼寝の時間かな」
「んぅ」
くわぁっと小さな唇が欠伸をすれば、イルカもつられて欠伸を返す。
小さな背中をぽんぽんと優しく叩いてやりながら、銀色の睫毛が何度か瞬きをして伏せられるのを見守った。
「……ぅん」
程なく聞こえてきた微かな寝息に、誘われるようにしてイルカも眠りに落ちるのだった。
「おやおや」
任務帰りの昼下がり。
親子で仲良く昼寝中の微笑ましい姿に思わず笑ってしまった。
それに。
「珍しいこともあるもんだねぇ」
華奢な身体に小さな顎。ダボ付いた忍服がなんとも頼りなげで、思わずマジマジと眠っている姿を覗き込んでしまう。
イルカの女体変化を初めて見たのは、彼が生徒達にお色気の術をかけられたまま、解術できずに困惑していた時だ。その後、護衛という目的でイルカの傍に張り付いたカカシ(の策略)によってサクヤを身籠ってからは、女体変化を頑なに拒否してきたというのに。いったいどんな心境の変化があったというのだろう。
くうくうと幸せそうに眠っているイルカの頬を、スルリと指先で撫ぜる。
赤身がさした頬が子供っぽい。ぷっくりとした唇から漏れる寝息がたまらなくて、このまま奪ってやろうかとカカシが顔を寄せたところで黒い睫毛が小さく揺れた。
「……ぅ、ん…」
「あぁ、残念」
もう少しだったのにという心の声は飲み込んで、汗で額に張り付いた髪を梳いてやる。
「カカシさん…?」
「ん」
「おかえりなさい」
寝ぼけ眼をこすりながら、ふにゃりと笑った顔がまた可愛い。
「一緒にお昼寝しちゃった?」
「あ…」
まだしっかりと覚醒していないイルカに笑って、今度こそ唇を重ねた。
ちゅっというリップ音とともに、背中に手が回される。
久しぶりのイルカを味わうような深い口付け。その口内に舌を忍び込ませれば、ためらいなく答えてくれる。
「……んんっ」
「熱烈な歓迎ですねぇ」
「だって……!」
数週間ぶりの帰還。イルカも待ち焦がれていたのだと思ったら、平静を装った頬も緩むというものだ。
「嬉しいよ」
「ばか」
呆れ顔の背中に手を回して引き寄せ、ぐっすりお昼寝中のサクヤの隣から引き剥がす。
たとえ息子だろうと男の隣で寝かせたくないなんて、我ながら狭量すぎて笑ってしまう。
「……まだ昼間ですけど」
「はい?」
「しましょうか」
「へ…っ?」
何を言われたのかわからない。
キョトンとした表情が、一瞬にしてゆでダコみたいに真っ赤に染まる。
腕の中でジタバタと暴れだした身体を押さえつけ、背中から上着をひん剥いた。
「ぷぁっ! な、なにするんですかっ」
「なにってナニに決まっているでしょう」
「ちょっと待ってくださ…っ!!」
「静かにしないとサクヤが起きますよ」
サクヤどころか障子が全開に開け放たれているので、庭から部屋の中は丸見えである。
「――この卑怯者っ!」
「はいはい。お叱りは後で存分に受けますから」
「うわっ!」
脱がせた上着の上に二人して転がって、細い首筋に唇を寄せる。
吹きかける息がくすぐったいのか、身をすくませるイルカに構うことなく吸い付いた。
「あ、んっ!」
「シー……。静かに」
耳元で囁きながら声を上げる唇を掌で塞いでしまう。苦しそうに身動ぎしたイルカが、降参とばかりにカカシの髪を引っ張った。
「うぅ――ッ! カカシ…さっ…」
「ん~?」
「ここじゃ、嫌です」
細い腰を脇腹にそって撫で上げる。いつものように抱きしめれば、華奢な身体がすっぽりと腕の中におさまった。
「ベッドに行きますか?」
白旗を振ったイルカが諦めたようにコクリと頷く。了解と相槌を打って抱き上げれば、そこで漸く自らの姿に気づいたように、ぎょっとした。
「そういや俺、まだ…っ!!」
「いや~、先生も水臭いなぁ。二人目が欲しいなら、はやく言ってくれればいいのに」
ニンマリ笑うカカシに、あたふたと慌てる身体が腕の中で暴れだす。
「そんなわけないでしょうっ!」
「またまた。変化して待っていてくれるなんて、正直驚きましたよ」
「ちがっ! こ、これは……」
「ほーら、暴れたら落っことしますよ」
そんなことを言いながら、わざと腕を緩めてみせる。本能的に縋り付いたイルカを抱えなおして、さっさと奥の部屋へと足を進めた。
「……ほんとうに、違いますから…」
「ふふっ」
乱れたシーツに下ろす直前、不安そうに言ったイルカに笑いながら腕を取る。
互いの指を絡めて組んだ印で解術すると、白煙とともにいつものイルカが現れた。
「ま、先生がそのつもりならオレは大歓迎ですから」
いつでも言ってくださいねと笑ったカカシに、怒りの拳骨が振り下ろされたのは記すべくもない。
(注)女体化しているのはこの章だけです
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