微睡みの中で優しく身体を抱きしめられた。
指先が何度も上下し、髪を撫ぜる感触にピクリと瞼を瞬かせる。
薄っすらと開いた瞳に映るのは、少しだけ笑みをたたえた端正な顔で、まるでまだ眠っていろと言わんばかりに瞼の上に唇が落ちる。
こんなふうに抱きしめられて眠るのはいつ以来だろうか?
そんなことをふと思い、夢と現をさ迷いながらも遠い記憶を遡る。
幼いころに両親を亡くしてからは、いつも一人で居た。
孤児となったイルカの面倒を見てくれた三代目は、惜しみない愛情をそそいでくれはしたが、それは同じように親をなくした里の子供たちにも平等に分け与えられた里長としての庇護だった。
けして特別ではないモノ。
あの頃は、いつも足りない愛情を探しながら暮らしていたように思う。
カチカチと規則正しい時計の音だけが響く暗い部屋で、ひたすらに日が昇ることを信じて。
寂しいと口にすることも出来ず、明日への不安に押しつぶされそうになりながら、真っ暗な部屋の中で膝を抱えて夜が終わるのを待っていた。
そうしていつかそのことに慣れたのだ。
大人になったといえば簡単だが、今でも鍵をかけた胸の奥深く、膝を抱えて蹲っている小さなイルカが居ることを知っている。
駄目だ、思い出すな。
力が入らない手で、抱きしめられた胸を押し返した。
大丈夫。これまでだって誰にもよりかからずに、一人で生きてきたじゃないか。
だから。
―――触れないで・・。
「どうして?」
夢のなかで呟いた言葉に返事が帰ってきたことに少しだけ驚いた。
―――失うことが怖いから。
はじめから何も持っていなかったら、なくした事を嘆くことなんてないんだ。
そう答えれば、力強い腕の中にぎゅっと抱きしめられる。
「馬鹿だね」
呆れたような声に夢のなかでムッとした。
失礼なやつめと腕の中で身動ぎすれば、幼子にする様に背中を擦られる。
「本当に馬鹿だーね」
包み込む腕の中が暖かくて。
それはまるで、思い切り寄りかかっても良いよとでも言われているように思えた。
*****
「今日は何時まで?」
「・・・・・」
「ねぇ、聞いてるでしょ」
ザワザワと煩かった報告書がシンと静まり返るのを感じる。
この場にいる者全員が聞き耳を立てている気配に、じっと渡された書面を確認する素振りをしながら眉を寄せた。
「なんじゃ、カカシ。依頼を受け取ったならさっさと任務に就かんか」
コツン。机を煙管で叩いた火影が出した助け舟にホッとするものの、頭上で聞こえた含み笑いにチラリと視線を上げた。
「やっと見た」
思い切り視線が合ってしまい、慌てて逸らそうとしたもののニコリと細められた瞳に胸がときめく。
その瞬間。一気に速くなる鼓動に、赤くなっているであろう頬を隠したくてたまらないのに身体が上手く動かない。
なにやってんだ、俺・・・!!
あわあわと唇を震わせている姿に、何時までと再度問いかけられた。
定時には、と。ぶっきらぼうに呟けば、クスリと笑ったカカシが僅かに頷いて踵を返す。
表情は口布に隠れてわかりづらいけれど、交わす空気がピンク色なのだと隣でニヤつくイワシが教えてくれる。
たぶん、きっと。
いや、絶対。
・・・俺は、流されている。
わあぁぁっと叫んで頭を抱えたい気持ちを押さえながら、握った判を思い切り書類の上に押し付けた。
カカシと身体を繋げて以来、何だか気持ちがそわそわするのを止めることが出来ない。
顔を見れば激しくなる動悸に、口から心臓が飛び出てきそうだし、いつもは顔の半分しか見えていなく、ともすれば無表情に思えるカカシに微笑まれるだけで憤死しそうだ。
好きだと自覚することが、こんな感情を昂ぶらせるものだなんて知らなかった。
恋愛なんて、少ないながらも今までだって何度かしてきたつもりだ。
アカデミーで同じクラスだった女の子に淡い恋心も抱いたし、豊満なくノ一の爆乳に眼を奪われたりもした。
だけど。
ドキドキと早鐘をうつ心臓を抑えるように細く長い息を吐き出して、緩んだ顔を引き締めようと試みて失敗する。
「・・・・・」
駄目だ。どうにもおさまらない。
意識すればするほど、どんどんと頭に血が昇っていくようだ。
けして男が好きなわけじゃない。それは胸を張って言える。
隣のイワシとなんて、あんな行為絶対無理だって断言できる。
そう。
「・・あんな――、・・あぁぁっ・・俺はっ・・!」
ぽやんとこの間の交わりを思い出し、力いっぱい頭を振りながら声を上げた。
「な、なんだっ!?」
「・・・わ、わりぃ・・んでもねぇ・・」
ブンブンと頭と手を振って、訝しげにこちらを見やるイワシの視線から逃れた。
何か感づいてはいるものの、あえて突っ込んではこない察しのいい同僚に心から感謝する。
「仕事も手につかねぇとか、大丈夫か? イルカ」
「お、おう。大丈夫だ」
ヘラリと笑う顔に盛大なため息。頬杖付きながらちょいちょいと指された先の書類に視線が動く。
「それ、提出先間違ってんぞ」
「へっ!? わ・・す、すまん・・」
「・・いーけど。しっかりしてくれよ」
浮ついている自覚はあるのだから、呆れた声にも平謝りするしかない。
こんな時だって、カカシのことばかりを考えてる自分に失笑する。
まさか俺がこんな気持ちになるなんて。
仕事中だと言い聞かせ、パチンっと思い切り両頬を叩いて気合を入れる。
「うしっ! 働くぞ」
「程々にな」
「うるせー」
ニヤリと笑うイワシと軽口を叩き合いながら、束になった任務依頼書を選別する。
変わらない毎日に加わったカカシという大きなスパイスは、イルカの生活を一変させてしまった。
共に食事をし、語り、愛し合って眠る。
好きな酒の好みを知り、時には互いに意見を交わあう。
上忍と中忍。外勤と内勤の忍びという差はあれど、傍いるのが当たり前で、そうやって日々は穏やかに流れていくものだと思っていた。
―――カカシの様子がおかしくなるまでは。
それがいつからだったのか、どうしても思い出す事が出来ない。
あまりに自然すぎたから? それともカカシの感情の機微にイルカが鈍感過ぎたのだろうか?
畳の上に座り込んで、押し黙ったまま本に目を落とすカカシの背中に声をかけた。
「今日は、生徒に火遁の術を教えてくれってせがまれまして」
「・・・へぇ」
「俺、水遁は得意なんですが、火遁は少々苦手っていうかそもそも」
「そうだね」
「・・・・」
火の性質ではないと口にしようとする前にそう返され、思わず黙りこんだ。
何だか気持ちがかみ合わない。最近はいつもこんな感じだ。
「あ、茄子! 今日は茄子が安くて沢山買ってきたんですよ! 今日の味噌汁の具は茄子にしましょう」
「ん」
「あーあと、何が良いですかね? なんせたくさん買っちまったんで、茄子づくしにも出来ますよ。なにかリクエストあったら・・」
「アンタの好きにすれば」
愛読書に視線を落としたまま、チラリとこちらを見ない男に顔を曇らせる。
イルカが気づかぬ内に、カカシは自然と黙りこむことが多くなった。
愛読書に没頭するような素振りをすることで、話しかけられるのを拒否していると感じた。
眠れない夜、背けられた背中をただ見つめている事に気づいたのはいつからだったろう。
「じゃあ、茄子の田楽と、麻婆茄子なんかもいいかな?」
「・・・・・・」
「後は煮浸しと・・って、いいんですか? 本当に茄子づくしになっちゃいますよ」
「・・・」
返らない返事に焦りばかりが募る。
必死に会話を続けようとしている自分が馬鹿みたいに思えるじゃないか。
一ページも捲られていないイチャパラを見つめる姿に苛ついた。
読んでいないことなんてわかってるんだ。
何が気に入らないのか知らないが、意図的に無視されている事実に胸がギュッと締め付けられる。
言いたいことがあるなら、言ってくれればいいのに。
「麻婆茄子ならやっぱり米は炊かなきゃな。炊きたての米の上に乗せて食うのがまた美味くて」
「・・・・」
「それにやっぱりビールっ! あー、冷蔵庫に入れ忘れてたってことねぇよな」
「・・・・」
「カカシさんもやっぱり麻婆茄子にはビールですよね?」
「・・うるさいな」
「―――・・っ!」
ボソリと呟かれた言葉に、料理しようとしていた茄子の袋を机に置いてツカツカとカカシの元へと近づいた。
「聞いてるんですよ、カカシさん!」
イチャパラをひっつかんで取り上げたイルカに、見上げたカカシの瞳が剣呑な色を帯びる。
お互い何をこんなに苛ついているのかわからない。
「返して」
取り上げた本に手を伸ばすカカシの冷たい声が胸に刺さる。
まるで誰も写していないような瞳の色が悔しくて、きつく唇を引き結んだ。
どうしよう。
何か言わなくてはと焦るのに、そんな視線に怖気づいてしまいそうになる。
「こ、・・こんな本ばかり読んでないで、ちょっとは手伝ってくださいよ」
「・・・・・」
背中に隠した本を持つ手に力が入った。
「俺だって疲れてるんですから楽したいっていうか・・そりゃカカシさんに比べたら大したことないって思われても仕方ないですけど」
そんな事思ってない。だけど、自分を見つめるカカシの視線に気の利いた言葉一つ出てこない。
「・・・そうだね」
「そっそうですよ! それに一緒に作ったほうが・・」
「忙しいイルカ先生にばかり負担かけてるのも悪いし」
「そんなことはっ」
立ち上がったカカシがベストに手を伸ばすのに驚いた。
口布を引き上げ額当ても結び直して、イルカが掴んだままの本を何も言わずに取り返す。
「カカシさん・・? あの・・どこに・・」
玄関へと向かっていく背中に声をかけた。
「帰る」
「え・・、――・・だって」
ゆっくりと振り返ったカカシの冷ややかな瞳を呆然と見つめた。
「うんざりなんだよね、女みたいに口煩く言われるのは」
彼は何を言っているのだろう。
「・・そんな」
「つもりはないって? はっ、それはおめでたいことで」
せせら嗤う姿が信じられない。
扉に手をかけるカカシに駆け寄って、ベストを掴んだ。
「待って・・っ! 待ってください」
「離せ」
口布越しのくぐもった低い声。
戦場で助けられた時よりももっと冷たくて、感情をはかり知ることが出来ない。
鬱陶しそうに寄せられた眉と盛大な溜息が、ベストを掴んだまま何も言えないイルカを臆病にする。
「・・疲れたよ」
「え・・?」
それは一体どういう意味だったのだろう。
掴む手を引きずるように離されて。振り返りもせずに扉から出て行く背中を、玄関先で立ちすくんだまま視線だけで追った。
どうして、何故、と聞くことすらかなわずに。
打開策を見つけられないまま数日が過ぎ、いつの間にかカカシがこの部屋へ寄り付くことは無くなった。
指先が何度も上下し、髪を撫ぜる感触にピクリと瞼を瞬かせる。
薄っすらと開いた瞳に映るのは、少しだけ笑みをたたえた端正な顔で、まるでまだ眠っていろと言わんばかりに瞼の上に唇が落ちる。
こんなふうに抱きしめられて眠るのはいつ以来だろうか?
そんなことをふと思い、夢と現をさ迷いながらも遠い記憶を遡る。
幼いころに両親を亡くしてからは、いつも一人で居た。
孤児となったイルカの面倒を見てくれた三代目は、惜しみない愛情をそそいでくれはしたが、それは同じように親をなくした里の子供たちにも平等に分け与えられた里長としての庇護だった。
けして特別ではないモノ。
あの頃は、いつも足りない愛情を探しながら暮らしていたように思う。
カチカチと規則正しい時計の音だけが響く暗い部屋で、ひたすらに日が昇ることを信じて。
寂しいと口にすることも出来ず、明日への不安に押しつぶされそうになりながら、真っ暗な部屋の中で膝を抱えて夜が終わるのを待っていた。
そうしていつかそのことに慣れたのだ。
大人になったといえば簡単だが、今でも鍵をかけた胸の奥深く、膝を抱えて蹲っている小さなイルカが居ることを知っている。
駄目だ、思い出すな。
力が入らない手で、抱きしめられた胸を押し返した。
大丈夫。これまでだって誰にもよりかからずに、一人で生きてきたじゃないか。
だから。
―――触れないで・・。
「どうして?」
夢のなかで呟いた言葉に返事が帰ってきたことに少しだけ驚いた。
―――失うことが怖いから。
はじめから何も持っていなかったら、なくした事を嘆くことなんてないんだ。
そう答えれば、力強い腕の中にぎゅっと抱きしめられる。
「馬鹿だね」
呆れたような声に夢のなかでムッとした。
失礼なやつめと腕の中で身動ぎすれば、幼子にする様に背中を擦られる。
「本当に馬鹿だーね」
包み込む腕の中が暖かくて。
それはまるで、思い切り寄りかかっても良いよとでも言われているように思えた。
*****
「今日は何時まで?」
「・・・・・」
「ねぇ、聞いてるでしょ」
ザワザワと煩かった報告書がシンと静まり返るのを感じる。
この場にいる者全員が聞き耳を立てている気配に、じっと渡された書面を確認する素振りをしながら眉を寄せた。
「なんじゃ、カカシ。依頼を受け取ったならさっさと任務に就かんか」
コツン。机を煙管で叩いた火影が出した助け舟にホッとするものの、頭上で聞こえた含み笑いにチラリと視線を上げた。
「やっと見た」
思い切り視線が合ってしまい、慌てて逸らそうとしたもののニコリと細められた瞳に胸がときめく。
その瞬間。一気に速くなる鼓動に、赤くなっているであろう頬を隠したくてたまらないのに身体が上手く動かない。
なにやってんだ、俺・・・!!
あわあわと唇を震わせている姿に、何時までと再度問いかけられた。
定時には、と。ぶっきらぼうに呟けば、クスリと笑ったカカシが僅かに頷いて踵を返す。
表情は口布に隠れてわかりづらいけれど、交わす空気がピンク色なのだと隣でニヤつくイワシが教えてくれる。
たぶん、きっと。
いや、絶対。
・・・俺は、流されている。
わあぁぁっと叫んで頭を抱えたい気持ちを押さえながら、握った判を思い切り書類の上に押し付けた。
カカシと身体を繋げて以来、何だか気持ちがそわそわするのを止めることが出来ない。
顔を見れば激しくなる動悸に、口から心臓が飛び出てきそうだし、いつもは顔の半分しか見えていなく、ともすれば無表情に思えるカカシに微笑まれるだけで憤死しそうだ。
好きだと自覚することが、こんな感情を昂ぶらせるものだなんて知らなかった。
恋愛なんて、少ないながらも今までだって何度かしてきたつもりだ。
アカデミーで同じクラスだった女の子に淡い恋心も抱いたし、豊満なくノ一の爆乳に眼を奪われたりもした。
だけど。
ドキドキと早鐘をうつ心臓を抑えるように細く長い息を吐き出して、緩んだ顔を引き締めようと試みて失敗する。
「・・・・・」
駄目だ。どうにもおさまらない。
意識すればするほど、どんどんと頭に血が昇っていくようだ。
けして男が好きなわけじゃない。それは胸を張って言える。
隣のイワシとなんて、あんな行為絶対無理だって断言できる。
そう。
「・・あんな――、・・あぁぁっ・・俺はっ・・!」
ぽやんとこの間の交わりを思い出し、力いっぱい頭を振りながら声を上げた。
「な、なんだっ!?」
「・・・わ、わりぃ・・んでもねぇ・・」
ブンブンと頭と手を振って、訝しげにこちらを見やるイワシの視線から逃れた。
何か感づいてはいるものの、あえて突っ込んではこない察しのいい同僚に心から感謝する。
「仕事も手につかねぇとか、大丈夫か? イルカ」
「お、おう。大丈夫だ」
ヘラリと笑う顔に盛大なため息。頬杖付きながらちょいちょいと指された先の書類に視線が動く。
「それ、提出先間違ってんぞ」
「へっ!? わ・・す、すまん・・」
「・・いーけど。しっかりしてくれよ」
浮ついている自覚はあるのだから、呆れた声にも平謝りするしかない。
こんな時だって、カカシのことばかりを考えてる自分に失笑する。
まさか俺がこんな気持ちになるなんて。
仕事中だと言い聞かせ、パチンっと思い切り両頬を叩いて気合を入れる。
「うしっ! 働くぞ」
「程々にな」
「うるせー」
ニヤリと笑うイワシと軽口を叩き合いながら、束になった任務依頼書を選別する。
変わらない毎日に加わったカカシという大きなスパイスは、イルカの生活を一変させてしまった。
共に食事をし、語り、愛し合って眠る。
好きな酒の好みを知り、時には互いに意見を交わあう。
上忍と中忍。外勤と内勤の忍びという差はあれど、傍いるのが当たり前で、そうやって日々は穏やかに流れていくものだと思っていた。
―――カカシの様子がおかしくなるまでは。
それがいつからだったのか、どうしても思い出す事が出来ない。
あまりに自然すぎたから? それともカカシの感情の機微にイルカが鈍感過ぎたのだろうか?
畳の上に座り込んで、押し黙ったまま本に目を落とすカカシの背中に声をかけた。
「今日は、生徒に火遁の術を教えてくれってせがまれまして」
「・・・へぇ」
「俺、水遁は得意なんですが、火遁は少々苦手っていうかそもそも」
「そうだね」
「・・・・」
火の性質ではないと口にしようとする前にそう返され、思わず黙りこんだ。
何だか気持ちがかみ合わない。最近はいつもこんな感じだ。
「あ、茄子! 今日は茄子が安くて沢山買ってきたんですよ! 今日の味噌汁の具は茄子にしましょう」
「ん」
「あーあと、何が良いですかね? なんせたくさん買っちまったんで、茄子づくしにも出来ますよ。なにかリクエストあったら・・」
「アンタの好きにすれば」
愛読書に視線を落としたまま、チラリとこちらを見ない男に顔を曇らせる。
イルカが気づかぬ内に、カカシは自然と黙りこむことが多くなった。
愛読書に没頭するような素振りをすることで、話しかけられるのを拒否していると感じた。
眠れない夜、背けられた背中をただ見つめている事に気づいたのはいつからだったろう。
「じゃあ、茄子の田楽と、麻婆茄子なんかもいいかな?」
「・・・・・・」
「後は煮浸しと・・って、いいんですか? 本当に茄子づくしになっちゃいますよ」
「・・・」
返らない返事に焦りばかりが募る。
必死に会話を続けようとしている自分が馬鹿みたいに思えるじゃないか。
一ページも捲られていないイチャパラを見つめる姿に苛ついた。
読んでいないことなんてわかってるんだ。
何が気に入らないのか知らないが、意図的に無視されている事実に胸がギュッと締め付けられる。
言いたいことがあるなら、言ってくれればいいのに。
「麻婆茄子ならやっぱり米は炊かなきゃな。炊きたての米の上に乗せて食うのがまた美味くて」
「・・・・」
「それにやっぱりビールっ! あー、冷蔵庫に入れ忘れてたってことねぇよな」
「・・・・」
「カカシさんもやっぱり麻婆茄子にはビールですよね?」
「・・うるさいな」
「―――・・っ!」
ボソリと呟かれた言葉に、料理しようとしていた茄子の袋を机に置いてツカツカとカカシの元へと近づいた。
「聞いてるんですよ、カカシさん!」
イチャパラをひっつかんで取り上げたイルカに、見上げたカカシの瞳が剣呑な色を帯びる。
お互い何をこんなに苛ついているのかわからない。
「返して」
取り上げた本に手を伸ばすカカシの冷たい声が胸に刺さる。
まるで誰も写していないような瞳の色が悔しくて、きつく唇を引き結んだ。
どうしよう。
何か言わなくてはと焦るのに、そんな視線に怖気づいてしまいそうになる。
「こ、・・こんな本ばかり読んでないで、ちょっとは手伝ってくださいよ」
「・・・・・」
背中に隠した本を持つ手に力が入った。
「俺だって疲れてるんですから楽したいっていうか・・そりゃカカシさんに比べたら大したことないって思われても仕方ないですけど」
そんな事思ってない。だけど、自分を見つめるカカシの視線に気の利いた言葉一つ出てこない。
「・・・そうだね」
「そっそうですよ! それに一緒に作ったほうが・・」
「忙しいイルカ先生にばかり負担かけてるのも悪いし」
「そんなことはっ」
立ち上がったカカシがベストに手を伸ばすのに驚いた。
口布を引き上げ額当ても結び直して、イルカが掴んだままの本を何も言わずに取り返す。
「カカシさん・・? あの・・どこに・・」
玄関へと向かっていく背中に声をかけた。
「帰る」
「え・・、――・・だって」
ゆっくりと振り返ったカカシの冷ややかな瞳を呆然と見つめた。
「うんざりなんだよね、女みたいに口煩く言われるのは」
彼は何を言っているのだろう。
「・・そんな」
「つもりはないって? はっ、それはおめでたいことで」
せせら嗤う姿が信じられない。
扉に手をかけるカカシに駆け寄って、ベストを掴んだ。
「待って・・っ! 待ってください」
「離せ」
口布越しのくぐもった低い声。
戦場で助けられた時よりももっと冷たくて、感情をはかり知ることが出来ない。
鬱陶しそうに寄せられた眉と盛大な溜息が、ベストを掴んだまま何も言えないイルカを臆病にする。
「・・疲れたよ」
「え・・?」
それは一体どういう意味だったのだろう。
掴む手を引きずるように離されて。振り返りもせずに扉から出て行く背中を、玄関先で立ちすくんだまま視線だけで追った。
どうして、何故、と聞くことすらかなわずに。
打開策を見つけられないまま数日が過ぎ、いつの間にかカカシがこの部屋へ寄り付くことは無くなった。
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