最初はちょっとした興味本意。
ただ見ているだけで幸せで、手を伸ばすことすらおこがましいと感じてしまうほど。
だけど、それはあまりにも美しすぎて。
何度も何度も躊躇って、それでも結局欲しいと願う。
愛しい人よ。どうかこの手に。
*****
集められた宴会場の片隅で、ひときわ目立つその人をイルカは食い入るように見つめていた。
出会いは初めて就いた戦場での任務だった。
アカデミーを卒業し、低ランクの依頼にも漸く慣れた頃に放り込まれた凄惨な任務で、肩や足に深い傷を負ったまま敵忍に囲まれるという、絶体絶命の場面で現れた面付きの特殊部隊に命を救われたのだ。
最初に目を奪われたのはその色彩。
輝くような銀髪は舞い上がる砂塵や血痕にみるみるうちにくすんでいったけれど、焼き付いた映像は今も瞼に残っている。
彼らの凄まじい働きにより、イルカたちの部隊は全滅を免れ、無事里に帰還することが出来た。
銀髪の狗面の名前は、はたけカカシ。
暗殺戦術特殊部隊という火影直轄部隊の忍びだったが、他里にも名を轟かす彼のことは、調べるまでもなく知っていた。
目立ち過ぎるほどの銀の髪と、写輪眼を持つ里の誉れであり、イルカ達下忍の憧れだった。
あれからもうどれほどの月日がたっただろうか?
あの時の憧憬を胸に秘めたまま、今もイルカは彼だけを思っている。
ーーーー・・・なんていうのは嘘だっ!
確かに命は助けてもらった。拾ってもらった命、感謝してもしたりねぇ。
だがしかしッ!!
九死に一生を得て、喜びと感謝に咽び泣きながら駆け寄った下忍の手を、さも鬱陶しそうに振り払った男は仮面の下で盛大に舌打ちしたのだ。
挙げ句の果てに言い放った言葉はこうだ。
『任務の邪魔すんじゃないよ、さっさと後方へ下がって』
「・・ふっ・・ふふ・・」
そう。
その手を振り払われた下忍というのが、何を隠そうこのうみのイルカなのである。
「・・・ルカ・・ーーーイ、ルカ・・・ッ!」
「ーーーふふふ・・・う、わっ! は、はいッ!!」
「なに不気味な薄笑いしてんだよ。火影様に酒をっ」
「あ・・、申し訳ありません」
「・・・うむ」
同僚に早くと急かされ、呆れたような火影の視線にかぁっと顔を赤らめながら、手にしたお銚子を火影の盃に傾けた。
それを皮切りに、火影を囲むように鎮座している精鋭部隊一人ひとりの盃に酒を注いでいく。
今日は、終戦の祝の席だ。
大きな成果をもたらした部隊を労うために集められた中に、彼も居た。
接待係の内勤は数名。指名もあるが、ほとんどは志願したくノ一だ。
「・・・どうぞ」
「どーも」
二度と会うことはないと思っていた男の酌をするのに、緊張で少しだけ手が震える。
それに気付かれないように集中し、お銚子を持つ指に力を込めて傾けた。
本当は、こんなモサイ男でなく、見目麗しいくノ一に注いでもらいたいと思われているやも知れない。
いや、知れないじゃない。
顔の殆どを隠している彼の表情からは何も読み取ることは出来ないが、絶対そう思ってるに決まってる。
しかも何故お前がカカシの酒を注いでいるとばかりに浴びせられる女達の刺すような視線で背中が痛い。
そりゃ、くノ一達が楽しみにしていた事ぐらい知ってる。
指名をうけた受付のカエデはこの日のためにエステに通っていたし、志願した巴先生の化粧はいつもより数倍は濃い。それから・・・と、目に映るくノ一達の頑張りっぷりをいちいち確認しつつ、きりがないとため息を付いた。
ここに集められたのは里でも有数のエリート忍者たちだ。
優秀で、他の上忍たちよりも禄高だって桁違いに高い。
懐に余裕のある者は心にも余裕があるというけれど、ここまで登りつめた上忍だからこそ目下の忍びたちへの対応も柔軟で驕った噂など皆無だ。
その中でこのはたけカカシはトップクラスとなれば女達の眼の色も変わろうと言うもんだ。
だからこそ、くノ一の中で醜い争いをさせないために、三代目火影の命にてこうしてイルカが彼の眼の前で酌をしているわけである。
憧れを無残に打ち砕かれたイルカにとっては迷惑な話なのだが。
「・・んたは・・・?」
「へっ?」
まさか話しかけられると思わなかった。
ワンテンポ遅れて顔をあげたイルカの眼に、お銚子を手にしたカカシの指先が飛び込んでくる。
手袋から伸びる白くて長い指先が美しい。
この指が、難解で複雑な印をいとも簡単に結ぶのをあの日目の当たりにしたのだ。
「呑まないの?」
「・・いえ、俺は」
「構わないでしょ、別に。アスマ、その杯いらないなら頂戴」
「んあ? あぁ・・」
隣で退屈そうにタバコをふかしていたアスマが、面倒そうに杯を手渡す。
三代目の息子である彼もまたこの里きっての上忍だった。
「・・・あんまりそいつに呑ませるなよ」
「アスマさん」
「なに、知りあい?」
「まー・・、そんなとこだ」
不穏な空気を纏っていることがバレたのだろうか?
眼が合ったアスマが大仰にため息をつく。
三代目が九尾の事件で両親を亡くした子供たちを保護し、手厚く庇護してくれた縁で、アスマとは幼い頃から面識はある。
だが、アスマは程なくして火影に背をそむけ里を離れた。
「意味深だーね」
「馬鹿言え、・・・オヤジの秘蔵っ子だからよ」
チラリと横目に確認したアスマの顔は憮然としたもので、イルカは少しだけ肩を落とした。
幼い頃はよく面倒を見てくれた人だ。
いかつい髭を蓄えた風貌だが、性格は豪放磊落、身寄りを亡くした子供たちの本当の兄の様な存在だった。
ある日突然、何も言わずにアスマが里を離れた時、自分たちがいかに差し伸べられる火影の庇護に縋っていたかを思い知らされたのだ。
仕方ないこととはいえ、父親を他人に横から奪われたようなものだ。
彼はきっと・・寂しかったのではないだろうか?
『秘蔵っ子』そうアスマに言われる度、イルカは申し訳無さで一杯になった。
「・・・ふーん。ま、俺も知り合いだけどね」
「え・・・?」
「嘘つけ。お前とイルカにどんな接点があるってんだよ」
「嘘じゃないーよ。一度、この人のいる部隊が全滅しそうなところを助けたんだから」
そう言うカカシの言葉に驚いた。
もう何年も前のことだ。
彼にとってはそんなことは多々あることだろうし、ましてや一度助けただけの小さな部隊の一介の忍びのことなど、カカシが覚えているわけもないと思っていた。
「・・・この人は覚えてないだろうけど」
興味なさげにそう言って、片目だけを細めたカカシの瞳が弧を描く。
「ま、今日は無礼講で良いじゃない、あんたも呑んで」
「・・・では、いただきます」
杯を受け取り、カカシが呑むのを待ってから注がれた酒に口をつけた。
正直緊張であまり味がわからないが、多分旨い酒なんだろう。
こんな肩身の狭い居心地の悪い席じゃなく、もっと気安い仲間たちと一緒に呑みたかった。
「で、なんでこの席だけこの人なの?」
「へ?」
のんびりとした声に顔をあげた。
心の中でブツブツと愚痴を言っていて反応が遅れたイルカに、カカシの眉間に微かな皺が寄る。
「俺らは要注意人物なんだとよ」
「は? なにそれ」
「眼に入る女全部に手ぇ出して、ボコボコ母親の違うガキ作られちゃあかなわん。そんなとこだろ」
さすが息子。親の考えなどお見通しというわけだ。
「失礼な話だぜ。ったくオヤジのやつ・・・お前はともかく」
そうゴチて、アスマは膳の上のビールを自らコップに注ぐ。
「あ、お注ぎします」
「・・・オメェはんなことしなくて良いんだよ」
「・・・すみません・・」
断られて俯いた。
やはり大好きだったアスマに煙たがられていたのかと思うと胸がキュッと痛くなる。
「あら、冷たいねぇ。これもこの人の仕事でしょ」
「うるせー」
「酌をしてもらうのは決めてるって? もっともあいつはそんなタマじゃ・・」
「おいっ」
遮ったアスマの声に、口を噤んだカカシの気配が一瞬だけ刺すように変化した。
「一途なことで・・・」
声色が、少しだけ昏いものになる。
そこだけまるで感情がこもっていないようなそんな声に、イルカは口布で隠された口元を凝視した。
「・・・なに?」
「いえ」
気づいたカカシの声が尖る。
何だかいたたまれなくなって、イルカは盃を煽った。
空きっ腹に染みこむアルコールがじんわりと内蔵を熱くする。
酒に弱い方ではないが、緊張感で変な酔い方をしてしまいそうだ。
「良い呑みっぷりじゃない。どんどん呑んでよ」
「・・いただきます」
「おいっ、カカシ」
勢い良く酒を呑み干すそばから注がれる。
これでは逆だ、何のためにここに来たのかと思い始めた頃、伸びてきた白い指先に唇を拭われた。
するりと口布を引き下ろし、形の良い唇から覗く舌が拭った指先をペロリと舐める。
「・・・えっ・・?」
なんでという言葉は、その仕草があまりに自然で口には出来なかった。
気づいたら、まるで吸い込まれるようにカカシの顔を見つめていた。
口布なんかで顔を隠しているから、きっと変な顔なんだと思っていたら、普通だった。
いや、普通というのは語弊がある。むしろ普通以上に整った顔に、女達の本能というのを思い知る。
「・・・・・・」
晒された顔を魅入られた様に見つめるイルカに気づき、カカシがニコリと微笑んだ。
「イルカ、無理すんなよ」
アスマの忠告もいまとなっては遅い。何しろ今朝から緊張で何も喉を通らなかったのだ。
耳に膜が張ったようにボンヤリと聞こえる言葉に戸惑って。
「・・・あれ・・?」
ふらつく頭を支えようと掌で額を抑えた。
「あらら、もう酔っちゃった?」
「お前が呑ませすぎるからだろ」
「えー、この人が勝手に呑んだんでしょ」
咎める声に、カカシが否定の言葉を発する。
ふわふわとする身体を叱咤し、何度も眼を瞬いて、閉じそうになる瞼に力を入れた。
このまま眠ってしまうわけにはいかない。なんせ里のくノ一を毒牙から守るべく、火影様から直々に請われた仕事なのだから。
必死に酔を飛ばそうとするイルカを、まるで観察するように見ていたカカシの顔がゆっくりと近づいてきた。
「部屋、・・・か?」
耳元で囁かれた小さな声は、宴席の雑音と混ざってイルカにはよく聞き取れなかった。
「はい・・?」
「じゃ、立って」
「・・え・・」
聞き返そうとしたのに、カカシに腕を引かれて立ち上がらされる。
ふらつく身体を抱えられ、なにやら背後で上がる悲鳴に振り返ると、唖然とするくノ一や火影の姿が眼に入った。
「この人酔っ払っちゃったみたいだから、休ませます」
じゃあねと手を振るカカシにつられて、イルカも同じように手を振った。
「カカシッ!!」
「後はよろしくねー」
足元が覚束ないイルカの腰を支えそう言うと、カカシは一瞬のうちにその場から消えた。
ただ見ているだけで幸せで、手を伸ばすことすらおこがましいと感じてしまうほど。
だけど、それはあまりにも美しすぎて。
何度も何度も躊躇って、それでも結局欲しいと願う。
愛しい人よ。どうかこの手に。
*****
集められた宴会場の片隅で、ひときわ目立つその人をイルカは食い入るように見つめていた。
出会いは初めて就いた戦場での任務だった。
アカデミーを卒業し、低ランクの依頼にも漸く慣れた頃に放り込まれた凄惨な任務で、肩や足に深い傷を負ったまま敵忍に囲まれるという、絶体絶命の場面で現れた面付きの特殊部隊に命を救われたのだ。
最初に目を奪われたのはその色彩。
輝くような銀髪は舞い上がる砂塵や血痕にみるみるうちにくすんでいったけれど、焼き付いた映像は今も瞼に残っている。
彼らの凄まじい働きにより、イルカたちの部隊は全滅を免れ、無事里に帰還することが出来た。
銀髪の狗面の名前は、はたけカカシ。
暗殺戦術特殊部隊という火影直轄部隊の忍びだったが、他里にも名を轟かす彼のことは、調べるまでもなく知っていた。
目立ち過ぎるほどの銀の髪と、写輪眼を持つ里の誉れであり、イルカ達下忍の憧れだった。
あれからもうどれほどの月日がたっただろうか?
あの時の憧憬を胸に秘めたまま、今もイルカは彼だけを思っている。
ーーーー・・・なんていうのは嘘だっ!
確かに命は助けてもらった。拾ってもらった命、感謝してもしたりねぇ。
だがしかしッ!!
九死に一生を得て、喜びと感謝に咽び泣きながら駆け寄った下忍の手を、さも鬱陶しそうに振り払った男は仮面の下で盛大に舌打ちしたのだ。
挙げ句の果てに言い放った言葉はこうだ。
『任務の邪魔すんじゃないよ、さっさと後方へ下がって』
「・・ふっ・・ふふ・・」
そう。
その手を振り払われた下忍というのが、何を隠そうこのうみのイルカなのである。
「・・・ルカ・・ーーーイ、ルカ・・・ッ!」
「ーーーふふふ・・・う、わっ! は、はいッ!!」
「なに不気味な薄笑いしてんだよ。火影様に酒をっ」
「あ・・、申し訳ありません」
「・・・うむ」
同僚に早くと急かされ、呆れたような火影の視線にかぁっと顔を赤らめながら、手にしたお銚子を火影の盃に傾けた。
それを皮切りに、火影を囲むように鎮座している精鋭部隊一人ひとりの盃に酒を注いでいく。
今日は、終戦の祝の席だ。
大きな成果をもたらした部隊を労うために集められた中に、彼も居た。
接待係の内勤は数名。指名もあるが、ほとんどは志願したくノ一だ。
「・・・どうぞ」
「どーも」
二度と会うことはないと思っていた男の酌をするのに、緊張で少しだけ手が震える。
それに気付かれないように集中し、お銚子を持つ指に力を込めて傾けた。
本当は、こんなモサイ男でなく、見目麗しいくノ一に注いでもらいたいと思われているやも知れない。
いや、知れないじゃない。
顔の殆どを隠している彼の表情からは何も読み取ることは出来ないが、絶対そう思ってるに決まってる。
しかも何故お前がカカシの酒を注いでいるとばかりに浴びせられる女達の刺すような視線で背中が痛い。
そりゃ、くノ一達が楽しみにしていた事ぐらい知ってる。
指名をうけた受付のカエデはこの日のためにエステに通っていたし、志願した巴先生の化粧はいつもより数倍は濃い。それから・・・と、目に映るくノ一達の頑張りっぷりをいちいち確認しつつ、きりがないとため息を付いた。
ここに集められたのは里でも有数のエリート忍者たちだ。
優秀で、他の上忍たちよりも禄高だって桁違いに高い。
懐に余裕のある者は心にも余裕があるというけれど、ここまで登りつめた上忍だからこそ目下の忍びたちへの対応も柔軟で驕った噂など皆無だ。
その中でこのはたけカカシはトップクラスとなれば女達の眼の色も変わろうと言うもんだ。
だからこそ、くノ一の中で醜い争いをさせないために、三代目火影の命にてこうしてイルカが彼の眼の前で酌をしているわけである。
憧れを無残に打ち砕かれたイルカにとっては迷惑な話なのだが。
「・・んたは・・・?」
「へっ?」
まさか話しかけられると思わなかった。
ワンテンポ遅れて顔をあげたイルカの眼に、お銚子を手にしたカカシの指先が飛び込んでくる。
手袋から伸びる白くて長い指先が美しい。
この指が、難解で複雑な印をいとも簡単に結ぶのをあの日目の当たりにしたのだ。
「呑まないの?」
「・・いえ、俺は」
「構わないでしょ、別に。アスマ、その杯いらないなら頂戴」
「んあ? あぁ・・」
隣で退屈そうにタバコをふかしていたアスマが、面倒そうに杯を手渡す。
三代目の息子である彼もまたこの里きっての上忍だった。
「・・・あんまりそいつに呑ませるなよ」
「アスマさん」
「なに、知りあい?」
「まー・・、そんなとこだ」
不穏な空気を纏っていることがバレたのだろうか?
眼が合ったアスマが大仰にため息をつく。
三代目が九尾の事件で両親を亡くした子供たちを保護し、手厚く庇護してくれた縁で、アスマとは幼い頃から面識はある。
だが、アスマは程なくして火影に背をそむけ里を離れた。
「意味深だーね」
「馬鹿言え、・・・オヤジの秘蔵っ子だからよ」
チラリと横目に確認したアスマの顔は憮然としたもので、イルカは少しだけ肩を落とした。
幼い頃はよく面倒を見てくれた人だ。
いかつい髭を蓄えた風貌だが、性格は豪放磊落、身寄りを亡くした子供たちの本当の兄の様な存在だった。
ある日突然、何も言わずにアスマが里を離れた時、自分たちがいかに差し伸べられる火影の庇護に縋っていたかを思い知らされたのだ。
仕方ないこととはいえ、父親を他人に横から奪われたようなものだ。
彼はきっと・・寂しかったのではないだろうか?
『秘蔵っ子』そうアスマに言われる度、イルカは申し訳無さで一杯になった。
「・・・ふーん。ま、俺も知り合いだけどね」
「え・・・?」
「嘘つけ。お前とイルカにどんな接点があるってんだよ」
「嘘じゃないーよ。一度、この人のいる部隊が全滅しそうなところを助けたんだから」
そう言うカカシの言葉に驚いた。
もう何年も前のことだ。
彼にとってはそんなことは多々あることだろうし、ましてや一度助けただけの小さな部隊の一介の忍びのことなど、カカシが覚えているわけもないと思っていた。
「・・・この人は覚えてないだろうけど」
興味なさげにそう言って、片目だけを細めたカカシの瞳が弧を描く。
「ま、今日は無礼講で良いじゃない、あんたも呑んで」
「・・・では、いただきます」
杯を受け取り、カカシが呑むのを待ってから注がれた酒に口をつけた。
正直緊張であまり味がわからないが、多分旨い酒なんだろう。
こんな肩身の狭い居心地の悪い席じゃなく、もっと気安い仲間たちと一緒に呑みたかった。
「で、なんでこの席だけこの人なの?」
「へ?」
のんびりとした声に顔をあげた。
心の中でブツブツと愚痴を言っていて反応が遅れたイルカに、カカシの眉間に微かな皺が寄る。
「俺らは要注意人物なんだとよ」
「は? なにそれ」
「眼に入る女全部に手ぇ出して、ボコボコ母親の違うガキ作られちゃあかなわん。そんなとこだろ」
さすが息子。親の考えなどお見通しというわけだ。
「失礼な話だぜ。ったくオヤジのやつ・・・お前はともかく」
そうゴチて、アスマは膳の上のビールを自らコップに注ぐ。
「あ、お注ぎします」
「・・・オメェはんなことしなくて良いんだよ」
「・・・すみません・・」
断られて俯いた。
やはり大好きだったアスマに煙たがられていたのかと思うと胸がキュッと痛くなる。
「あら、冷たいねぇ。これもこの人の仕事でしょ」
「うるせー」
「酌をしてもらうのは決めてるって? もっともあいつはそんなタマじゃ・・」
「おいっ」
遮ったアスマの声に、口を噤んだカカシの気配が一瞬だけ刺すように変化した。
「一途なことで・・・」
声色が、少しだけ昏いものになる。
そこだけまるで感情がこもっていないようなそんな声に、イルカは口布で隠された口元を凝視した。
「・・・なに?」
「いえ」
気づいたカカシの声が尖る。
何だかいたたまれなくなって、イルカは盃を煽った。
空きっ腹に染みこむアルコールがじんわりと内蔵を熱くする。
酒に弱い方ではないが、緊張感で変な酔い方をしてしまいそうだ。
「良い呑みっぷりじゃない。どんどん呑んでよ」
「・・いただきます」
「おいっ、カカシ」
勢い良く酒を呑み干すそばから注がれる。
これでは逆だ、何のためにここに来たのかと思い始めた頃、伸びてきた白い指先に唇を拭われた。
するりと口布を引き下ろし、形の良い唇から覗く舌が拭った指先をペロリと舐める。
「・・・えっ・・?」
なんでという言葉は、その仕草があまりに自然で口には出来なかった。
気づいたら、まるで吸い込まれるようにカカシの顔を見つめていた。
口布なんかで顔を隠しているから、きっと変な顔なんだと思っていたら、普通だった。
いや、普通というのは語弊がある。むしろ普通以上に整った顔に、女達の本能というのを思い知る。
「・・・・・・」
晒された顔を魅入られた様に見つめるイルカに気づき、カカシがニコリと微笑んだ。
「イルカ、無理すんなよ」
アスマの忠告もいまとなっては遅い。何しろ今朝から緊張で何も喉を通らなかったのだ。
耳に膜が張ったようにボンヤリと聞こえる言葉に戸惑って。
「・・・あれ・・?」
ふらつく頭を支えようと掌で額を抑えた。
「あらら、もう酔っちゃった?」
「お前が呑ませすぎるからだろ」
「えー、この人が勝手に呑んだんでしょ」
咎める声に、カカシが否定の言葉を発する。
ふわふわとする身体を叱咤し、何度も眼を瞬いて、閉じそうになる瞼に力を入れた。
このまま眠ってしまうわけにはいかない。なんせ里のくノ一を毒牙から守るべく、火影様から直々に請われた仕事なのだから。
必死に酔を飛ばそうとするイルカを、まるで観察するように見ていたカカシの顔がゆっくりと近づいてきた。
「部屋、・・・か?」
耳元で囁かれた小さな声は、宴席の雑音と混ざってイルカにはよく聞き取れなかった。
「はい・・?」
「じゃ、立って」
「・・え・・」
聞き返そうとしたのに、カカシに腕を引かれて立ち上がらされる。
ふらつく身体を抱えられ、なにやら背後で上がる悲鳴に振り返ると、唖然とするくノ一や火影の姿が眼に入った。
「この人酔っ払っちゃったみたいだから、休ませます」
じゃあねと手を振るカカシにつられて、イルカも同じように手を振った。
「カカシッ!!」
「後はよろしくねー」
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